東京科学シンポジウム・分科会報告と感想
1.報告 分科会「学術における男女共同参画の意義と取り組み」
M.N.(東京支部)
11月16日に一橋大学で開催された東京科学シンポジウムの分科会「学術における男女共同参画の意義と取り組み」には22人が参加し、4つの報告と討論がおこなわれました。
まず内閣府の男女共同参画会議、東大の男女共同参画推進委員会の委員をされている大澤眞理さんが「男女共同参画の問題点--男女共同参画社会基本法と東大での取り組み」と題して話されました。1996年7月に男女共同参画審議会答申として「男女共同参画ビジョン」がだされ、男性と女性が「社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)に縛られず、各人の個性にもとづいて共同参画する社会」をめざすという目標と道筋が示されました。それまでの国内行動計画は女性の地位向上、意識の改革をめざしていたので、男性と女性を対象とした施策はこれと一線を画する新しいものでした。「男女共同参画社会基本法」は1999年6月に成立しました。「男女共同参画社会」の法令上の定義は「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意志によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」です。法律の基本理念として・性別による差別的取り扱いを受けないことなど男女の人権尊重 ・社会制度・慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響を中立的なものとするよう配慮(個人が社会で活動するとき一定のライフコースに誘導してはならない) ・政策・方針の立案および決定への男女共同参画 ・家庭生活における活動と他の活動(職業、趣味での活動など)の両立 などがあります。「基本法」が制定され、学術会議、国大協、国家公務員、民間企業で女性の採用・登用の目標が設定されました。東北大、名古屋大、東大で提言がだされ、東大では2003年12月に男女共同参画基本計画の策定を予定しています。
石渡眞理子さんは「大学における男女共同参画の取り組み」について話されました。国・公・私立大学全体での女性教員比率は約15%、女性院生の比率は約27%です。いずれも1955年には約5%、1975年頃は約10%でした。その後女性院生の比率が急増したのに対して、女性教員の比率は追いついていません。国立大学協会は2010年までに女性教員の割合を20%にするとしましたが、国立大での女性教員比率は約8%(助手を除く)で、目的達成にはかなりの努力が必要です。ロールモデルをふやすためにも、平和・環境・生活と密接した研究をおこなう上でも、セクハラ防止のためにも、女性学生、院生とのバランスを考慮して女性教員をふやす取り組みは重要です。
河野貴美子さんは「学協会における取り組み」について報告されました。2002年10月に自然科学系の32学協会が参加して「男女共同参画学協会連絡会」が設立されました。今年8月から10月にかけて男女共同参画に関する大規模な意識・実態調査がおこなわれ、行政へ提言するなどの基礎データとして期待されています。河野さんが所属している生理学会は8年前に「生理学女性研究者の会」を立ち上げ、活動してこられました。昨年3月には「男女共同参画推進委員会」もでき、学会開催時に保育室を設置しています。
松本麻里さんは「早稲田大学地域開放型保育施設・設置への取り組みについて」話されました。教員組合・職員組合の要求とアンケート調査結果などをもとに大学理事会と交渉を重ね、2003年4月、保育施設が開設されました。現在入所者は35名、うち大学関係者8名です。大学における男女共同参画の具体化にむけた社会的動きも、要求を実現させる根拠になったということです。
総合討論では男女共同参画は私立大学にも浸透しているか,学問分野の違いにより認識の差はあるか,少子高齢化との関連,ポジティブアクションについて,国立大学の法人化後教員に任期がつくと、働きながら子育てをするのが難しくなりそう,保育施設ができても子供を産めるか心配等の話題がだされましたが、男性からこのような場に参加して女性の感覚を身につけなければいけないと思ったという感想もでて、男女共同参画の意義をさらに広げなければと思いました。
2. シンポジウム・参加記
(1) O.U.(一橋大学院生分会・経済学研究科修士課程)
今年のシンポジウムは、「21世紀の平和を考える」という全体会と、二日目は5つ分科会で行われました。全体会では、今まさにイラク戦争後の行方に世界が目を見張る中で行われたという意義は大きかったと思います。フランス大使館の方の講演のときに、フランスの核抑止政策についての話が少しでましたが、私はフランスが掲げる「対話を通じた平和的な解決へ」という政策理念とはやはり矛盾するのでなないかと思いました。現在アメリカの横暴ぶりに対する批判を強く行っているフランスが核を持つことを率先して止めていってほしいと、正直思わずにはいられませんでした。
二日目の分科会では学術における男女共同参画の方に参加していました。私が一番驚かされたのは、大学における女性教員が本当に少ないことです。2002年現在で、国公私立における全教員の女性比率(助手も含めて)は14.8%が現状です。現在研究者を目指している一女性大学院生として、こうした深刻な現状をどうやって変えていったらよいを考える上でも、東大や早稲田大学での取り組みに関する報告を聞けて大変勉強になりました。(と同時に、JSAの会員に女性が少ないことも問題だと思いました。)
私は今回のシンポジウムでは立て看板を作ったり当日会場の設定などをさせていただき、多少運営にも携われたので大変充実した二日間を過ごすことができて、嬉しく思っています。
(2) F.T.(一橋大学社会学部三年)
分科会「学術における男女共同参画の意義と取り組み」の感想です。ここでは、研究現場において、男性の側の女性に対する古典的な差別意識だけが男女共同参画に障害になっているのではないという論点が印象的でした。女性は、男性との差を決して解消できないような身体的なハンディを抱えています。例えば、出産や子育ての負担などの例が出されていました。男性の感覚で単純に女性を男性と平等に考えれば問題が解決するのではなく、女性と男性との身体的な違いまでにも考えを及ぼさなければ、男女参画の問題を正しく扱うことはできないということを、今までそこまで考えが至らずにいた男性の一人として思い知らされました。具体的な政策例としては、研究現場で不利な条件にある女性に対してあらかじめ優遇措置を採ろうというPositive Action (一種のAffirmative Action)が挙げられていました。この方法については、優遇措置を受けられない男性に不公平という問題が一般的には指摘されますが、女性の立場に立って考えてみると、優遇措置――つまり特別扱いされる女性にとって、出産や子育てなどがnegativeなものにならないような配慮こそ重要な論点となるのではと感じました。(アメリカのAffirmative Actionの現場では、優遇措置を受けた人が感じる劣等感が、焦りやストレスのもとになるという問題があるそうです。)……一男性として色々と気づかされ、考えさせられた分科会でした。古典的な差別意識を持っている男性は論外ですが、女性の視点″に乏しい男性がまだまだ多いと思われる中で、今回のような貴重な分科会の参加者の多くが女性で占められていたことはとても残念です。
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