日本科学者会議東京支部


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< 巻 頭 言 >

日本科学者会議東京支部つうしん No.685(2024.11.10)

2024年総選挙後の経済政策運営と日本政治
森原 康仁(専修大学)
 以下は、10 月 27 日投開票の 2024 年衆議 院議員解散総選挙翌日現在における筆者なりの論点整理である。
 石破茂首相は総選挙翌日の 10 月 28 日午後の会見で、今後の政権運営に関し、「衆院選で議席を伸長した党」の主張を「取り入れるべきは取り入れる」と述べ、協力関係構築に意欲を示した。これは事実上、少数与党による政権運営と国民民主党を念頭に置いたパーシャル連合(部分連合)を想定した発言である。日本維新の会との連立を見込む向きもあるが、これは公明党の反発が強く、28 日現在においては現実性は薄いように思われる。
 私は総選挙直前までは、石破首相が辞任する代わりに「裏金議員」を追加公認し与党全体で過半数を確保するのではないか、とみていた。しかし、結果はそれでも追いつかないほどの与党大敗であった。一方、野党も政権交代を狙えるほどの結果にはなっていない。このため、実質的に玉木雄一郎代表の率いる国民民主党が秋の国会以降のキャスティングボートを握ることになる。
 玉木氏は、今般総選挙における立憲民主党の主要政策「物価目標 0%超」との差別化を意識し、それまでの「反アベノミクス」の態度を一変させ、拡張財政と緩和的な金融政策に親和的な態度に急変した(「手取りをふやす」)。これは秋の国会での補正予算も拡張的な内容になりやすいことを意味する。上のような不安定な政局も受けて、年内の日銀金融政策決定会合における利上げも見送られると思われる。ハト派的なマクロ政策運営によって円安是正は進みにくい一方、短期的には景気にはプラスである(仮に 11 月の大統領選でトランプ再任ということになると、日米両国で財政・金融政策がハト派的となる。中国も景気対策のために大規模な財政出動を予定している。「国債バブル」の歯止めはさらになくなる)。
 政治的には、今回の総選挙の結果は、国会に議会としての役割を果たすように要請するものだったと受け止めたい。日本の国会は議会としての実質がないと指摘されて久しいが、上のような政党状況を踏まえると、国会論戦に実質的な意味が付与されざるをえない。この点は、今後政党・政治家の言動を点検する際の基準になると考える。長期的にみて、日本の自由と民主主義にとってプラスの結果になるように期したい。
 公明党や共産党をはじめ、組織政党の力が大きくそがれていることにも注意したい。投票率がかなり低いなかでこうした結果であったことは、日本社会における中間組織のありようをみるうえで重要であると考える。もっともこのことは、自民党その他全政党に共通した課題である。「野党候補一本化は難しかった」という論評が支配的だが、東京 7 区のように、選挙区レベルの市民運動の積み上げで、実質的な一本化に成功したところもある。このことが立憲民主党の躍進に一定程度寄与したことも政治と社会との関係を考えるうえでは無視できないとみる。
 参政党や日本保守党のような極右政党が議席を確保した点も無視できない。自民党内には公認を見送られた議員や高市早苗氏を中心に「右ばね」によって影響力を回復したいと考えている政治家が複数存在する。そもそも、下野時の自民党が地方組織の求心力を回復したのも右派イデオロギーを利用したものだった(このことが安倍晋三氏の求心力にもつながってゆく)。以上は現時点ではほとんど意識されていないが、日本政治の軸を考えるうえで無視できないファクターであると考える。留意したい。(2024 年 10 月 28 日脱稿)

日本科学者会議東京支部つうしん No.681(2024.7.10)

多様な会員の参画が JSA をより豊かに変えてゆく―青年劇場脚本・演出家の参加に寄せてー
中島明子(東京支部代表幹事)
 3 年前の支部大会議案に対し、「マイノリティの会員が安心・安全に活動に参加できる組織づくりとハラスメント相談窓口設置の要望」が出されました。既に東京支部には、女性会員を中心とした〈はづきの会〉があり、ジェンダー平等を意識した活動を展開していましたが、性的マイノリティの人権侵害には取り組んでこなかったのです。当事者の実態や要求を知る中で、きちんと対応しなければ「安心して安全な」活動ができないこともわかりました。これを契機に支部に〈はづきの会〉のメンバーを中心に〈多様性検討委員会〉が設置され、支部の基本方針として「東京支部会員の多様性の尊重と人権保障に関する宣言」をまとめました。「相談窓口」の設置はさらに検討することとして、「宣言」を会員全体のものにするために学習会を行い、今年の 3 月で 3 回目になりました。
 このことはまだまだ会員に浸透しているわけではありませんが、」会員の隠れた要求を顕在化する上で、大きなステップになっています。そして、性的マイノリティ―のみならず、心身の障害、国籍等による偏見や差別なく、誰もが生き生きと自由に JSA の活動に参画できるような組織の在り方を、改めて提起していることも明らかになりました。
 同時に研究分野の多様性についても広がりを見せています。これまで殆ど会員が空白であった芸術分野において、女性作曲家と平和をテーマにしている小林さんをはじめ、美学・美術を専門にする方々が入会され、私たちの知らなかった研究世界をおし広げ、新たな視点をもたらしてくれています。
 そうした流れにのって、今回演劇分野の方-秋田雨雀・土方与志記念・青年劇場の作家であり演出家である福山さんが入会されたのです。きっかけは青年劇場創立 60 周年にあたっての作品として制作された「深い森のほとりで」でした。大学の小さな研究室を舞台に、女性研究者が、周囲を巻き込みながら「未知のウイルス研究に挑む」という内容です。
 すでに福山さんは伊藤セツさん、河野貴美子さんらに取材され、〈はづきの会〉の集まりや、12 月の東京科学シンポジウムの女性研究者・技術者分科会後の交流会にも参加され、集まった女性会員の声を聞き、何らかの形で作品につなげられました(と思います)。公演当日はみなワクワク・ドキドキして観劇し、「でも私はやめないよ。手をつないでくれる人が世界中にいるから」という終わりのセリフに共感し涙しました。福山さんは既に科学者会議とのつながりを考え入会を決めておられたようで、公演後の感想会の時に入会して下さることになったのです。
 今日解決すべき社会課題を解決し、困難を抱える人々が幸せに生きられる社会をつくる上で、「多様な」科学的アプローチが不可欠です。「科学者」の定義を再考し、多面的な分野の人々の参加により、豊かで民主的な「科学者のコミュニティづくり」を通して、平和な社会を築いてゆきたいと思います。

日本科学者会議東京支部つうしん No.679(2024.5.10)

東生成 AI とは何か、AI 研究会の呼びかけ
米田 貢 (東京支部代表幹事)
 生成 AI が人類存続の危機をもたらすことを憂い、グーグルを退社するに至ったジェフリー・ヒントン氏(トロント大名誉教授)は、日本経済新聞社とのインタビューで、「AI が目的を達成するために人間を排除することが必要だと気付き、実行に移す危険を感じた。...多くの人が、AI の暴走を防ぐには電源スイッチを切ればいいだけではないかと主張する。だが、人知を超えた AI は言葉によって我々を操れる。スイッチを切るべきではないと説得しようと するだろう」と語った。(『日本経済新聞』2024年 3 月 10 日付)
 果たして、AI は言語を理解し、それを駆使して人間を操ることがきるのか。彼は、この点について、言語理解の判断基準を AI がジョークを理解し、それを説明できるのかに置いた結果、グーグルが開発した大規模言語モデルがそれを実行できたことに基づいて、AI は人間と同じように言葉を理解していると主張する。言語学において根本的な論争点の一つである言語能力は先天的なものか、後天的なものかに関する対立の再現である。ヒントン氏は、言語能力を人間に固有の先天的な能力とする立場に対して、学習を通じて達成される後天的な能力だと主張する。
 この点について、中川裕志氏(理化学研究所チームリーダー)は、深層学習の手法を用いる 大規模言語モデルは、あくまで「ある単語や言い回しの間の関係を捉える」ことによって、「質問に対して関連する文書を組み合わせ、適切な回答を生成している」だけであり、「言語データを大きくし、パラメーター(最適化の 程度を決める設定)の数を増やすだけで状況や文脈をすべてカバーできるかどうかは疑問が残る」と主張する。その根拠として、彼が指摘するのは、第一に言語の身体性、すなわち言語は人間の感覚器官(いわゆる五感)を通じて得られる感情の表現であるという点であり、第二に、言語の社会的機能、すなわち言語は元来自己と他者とのコミュニケーションや対話の手段であり、「話し手と聞き手の上下関係、お互いの状況などを考慮した言語表現は、対話を継続するために使われる」ことである。この身体性に基づく感性と自己と他者との社会関係性が欠如している生成 AI は、「人間のように文書を理解しているわけではない」と、中川氏は結論付ける。(『日本経済新聞』2023 年5 月 8 日付)
 借金である都債の状態はどうなのか、現在、都債は減っており、返済と利払いに充てる公債費も減っている。年度の予算のなかでコントロールされている。ではなぜ金融資産の保有が必要なのか。単年度の規模を超える支出への備えや不測の事態への備えなのであろうか。
 マルクス・ガブリエル(独ボン大学教授)は、人間の知能を拡張した AI が、例えばチェスや囲碁で人間のチャンピオンを圧倒することを認めながら、「AI にチェスや囲碁を発明することは不可能だ。機械は自立的には何もできない」と言う。その彼が懸念しているのは、「AIの驚くべきは、我々の身の回りの環境に知性を与え、人間と相互作用する存在であるということだ。我々はよく『宇宙人が来たらどうなるんだろう』と考える。同じことが AI という非生物的なモデルの普及によって実際に起きている」ことだ(『日本経済新聞』2023 年 7 月14 日付)。
 生成 AI の登場によって、産業革命以来目覚ましい発展を遂げた機械が、人間の手に替わる労働手段の体系から、人間の頭脳に替わる労働手段の体系へと質的に飛躍したことは明らかである。AI が今後どのような発展を遂げ人間の頭脳をどこまで代替していくのかは、人間の知性の全体構造のさらなる解明を待つ以外にない。だが、それにもまして、どんな質問にも応える AI を鵜吞みにし、あたかもそれを生身の人間との対話と錯覚しつつある現代人にとって重要なことは、何百万年に及ぶ人類史を、自らの生存のために自立的な主体として客体としての自然(もちろん人間もその一部)に働きかけてきた歴史(今まさに地球環境は人間によって破壊されつつある)として、さらには主体としての個人がお互いを人間として認め合い、基本的人権の保障を制度として確立する社会を構築しようとしてきた歴史として振り返ることであろう。日本科学者会議東京支部として、AI 研究会の設置を呼び掛けたい。

日本科学者会議東京支部つうしん No.678(2024.4.10)

東京都の豊かな財源を、命・暮らし・教育・環境・平和に活用し てほしい
野中郁江(個人会員)
 (東京都は毎年 9 月に『東京都年次財務報告書』を出している。このなかに普通会計財務諸表というものがある。東京都の普通会計には、一般会計と 14 の特別会計を含んでいる。普通会計は、総務省が行う地方財政状況調査のために自治体の会計を再構成した会計の区分である。
 2022 年度末の普通会計貸借対照表をみると36 兆 3000 億円の資産合計のうち、現金預金が 5908 億円、基金積立金が 4 兆 2223 億円、有価証券が 2389 億円、合計 5 兆 520 億円の金融資産があることがわかる。金融資産とは、貯金や債券のことである。どうしてこれだけ多額の金融資産を持っているのだろうか。果たして必要なのであろうか。何かに備えているのか。
 自治体は、毎年の税収を主とする歳入と歳出を予算案として立てる。予算案は議会の承認を得て執行されることになる。東京都普通会計の 2022 年度の歳入は、9 兆 7550 億円であった。歳出は 9 兆 1883 億円である。歳入と歳出の差 5667 億円が、ほぼ期末の現金預金となる。
 借金である都債の状態はどうなのか、現在、都債は減っており、返済と利払いに充てる公債費も減っている。年度の予算のなかでコントロールされている。ではなぜ金融資産の保有が必要なのか。単年度の規模を超える支出への備えや不測の事態への備えなのであろうか。
 私たちは、こうした二つの備えに当てはまる例を、この数年の間に体験した。オリンピックとコロナ対策費である。オリンピック大会組織委員会の大会経費最終報告によれば、東京都が負担した大会経費は5965億円であった。また不測の事態といえるコロナ対策で東京都が負担した金額は 2020 年度に 9508 億円、2021 年度に 4217 億円、合計で 1 兆 3725 億円であった。
 では金融資産はごっそり減ったのか。金融資産合計額が過去最大となったのが2017年度末の 5 兆 2928 億円である。2017 年度からオリンピックとコロナ対策が集中した2020年度末までに、金融資産は 4 兆 8265 億円に減少した。減少額は 4663 億円であった。 その後、 2022年度には再び増勢となり、5 兆 520 億円となったのである。
 このことから何がわかるのだろうか。オリンピックの支出が集中しても、コロナ対策費が巨額であったとしても、備えとして取り崩さなければならなかった金融資産額はせいぜい 5000 億円以内であったことである。そしてこういうことが終われば、再び増え続けていくことになるのである。
 地方自治法第1 条の2に、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」とある。自治 体の金庫に、証券類が山と積まれていっても、住民の福祉は改善されることはない。
 この 7 月 7 日は、東京都知事選挙の投票だという。選挙で都政は変えられる。財源を福祉 の増進、子供に、若者に、緑と環境に、平和のためにこそ、活かしてほしい。

日本科学者会議東京支部つうしん No.677(2024.3.10)

東日本大震災から13年―能登半島地震を考える
鈴木 浩 ( 福島大学名誉教授 )
 (東日本大震災・福島第一原発災害から 13 年が経過した。現在なお福島の被災地域には除 染することもできない広大な面積の「帰還困難区域」が存在している。原発立地町の双葉町、 大熊町は 2023 年 10 月現在、被災前の人口に対して、それぞれ 1.8%、6.0%、隣接する浪江 町、富岡町は 13.9%、 19.6%に留まっている。福島県内外に避難している被災者は今後ふる さとに戻れるか、戻りたいと思うか、複雑な思いの中で揺れ動いている。それらの事実は、全 国的な動きやマスメディアそして人々の関心から消え失せつつある。
 私たちは 10 年を経過する頃から、被災者・避難者が自らの生活・生業再建はもちろん、故 郷の復興に対して主体的に関わっていくために 3 つの課題(「生活・生業の再建」、「地域社 会・地域経済の再生」、「原発の事故収束と廃炉」)とそれらに向き合うための 3 つの質(「生活の質」、「コミュニティの質」、「環境の質」)を提起してきた(下表)。いわば、国連の提起する SDGs に準えて SRGs Sustainable Recovery Goals を被災者や被災地の立場か ら組立て、行政や産業界などとの復興に向けての合意形成の仕組みに繋げていくことを目 指している 。それぞれの質は具体的な指標を設定し、自治体の復興計画策定の場などで合 意形成へ結びつけていくことを想定している。能登半島地震ではなお緊急避難生活と応急 的な生活維持が目の前の課題になっている段階であるが、被災者は懸命に生活・生業の再建 に取り組み始めている。とはいえ避難生活の不安定さは、それぞれの生活・生業再建の見通 しを困難にしている。国・県・市町村が矢継ぎ早に被災者支援や被災地復興の枠組みを示し ている中で、地域社会の絆を拠り所にして、生活・生業の再建や地域社会・地域経済の再生に ついて、機会あるごとに車座になって語り合いながら、「生活の質」、「コミュニティの質」 について合意形成していくことが、災害に向き合い復興の道筋を主体的に示していく手助 けになるはずである。
 能登半島地震では、地形・地質的あるいは地勢的な特質が地震被害の特質をもたらしたし、 広域避難も余儀なくされる背景になっている。したがって、「環境の質」では、志賀原発の立 地を含めて、自然地形や生態系などを考慮した土地利用やインフラ整備などが「環境の質」 を考えていく視点になるのではないかと考えている。
被災地の 3 つの課題 合意形成のための 3 つの質
① 生活・生業の再建 ===>「生活の質」
② 地域社会・地域経済の再生 ===>「コミュニティの質」
③ 原発事故の収束と廃炉 ===>「「環境の質」

日本科学者会議東京支部つうしん No.675(2024.1.10)

Imagine とPower to the People を聴きながら
黒田 兼一( 個人会員 )
12 月 8 日、毎年この日を迎えると 2 つのことを思い出す。1 つは 1941 年のこの日、日本 軍がアメリカ・ハワイの真珠湾に奇襲攻撃したことである。太平洋戦争の開戦の日とされ ている。もう 1 つは、1980 年の 12 月 8 日、あのビートルズのジョン・レノンがニューヨ ークの自宅アパート前である男に拳銃で殺害されたことである。
 今年は久し振りにジョン・レノンのImagineを聴いた。1971 年発売のこの曲、メロディー は懐かしかったが、その歌詞に愕然とした。「国なんかないって想像してごらん。それは 難しくはない。国や宗教のために殺しあい、死ぬことはないよ」。 2022 年来のウクライナ、 23年秋のパレスチナのことに思いを寄せざるを得ない。
 同じ 1971 年のレノンの曲にもう一つPower to the People がある。こちらは Imagine とは対照的に激しくストレートだ。「Power to the People! 人々に力を! 革 命を望むなら、さあ立ち上がれ、外に出よ。大勢の労働者達はこき使われている。労働に見 合った給料を払った方がいい 人々に力を!」。
 同じ年に発売されたこの2曲、レノンは何を思って世に出したのだろうか。Power to the People について、学術会議会員に任命拒否された一人・宇野重規は、「街角で暮らす、ごく 普通の人々が政治的に立ち上がり、自由と権利を勝ち取ることを訴えるもので」あり、「民 主主義のもつ素朴な含意をもっともよく示している」という。民主主義とは「普通の人々が 力をもち、その声が政治に反映されること、あるいはそのための具体的な制度や実践を指す ものが民主主義でした(まさに民主力です)」。(宇野重規『民主主義とは何か』講談社現代新書、2020 年。)
 私たちの国のいま、「人々の力」はどうか。「失われた 30 年」の言葉が示すように、賃金 は停滞・下落(ピーク時から 15%ダウン)、非正規雇用の増加(いわゆるフリーランスを含 めると就業者の 4 割超)、消費税率の上昇(92年 3%、97 年 5%、14 年 8%、19 年 10%)で あり、そして昨今の物価高騰である。この 30年間を経て、「人々」の暮らしそのものが底割 れ状態に陥ってしまった。そしてさらに外を見れば「人々」が戦禍惨状の渦中、内は政権政 党の裏金・腐敗・金権政治、また学術と大学への介入、軍備を含めて戦争への準備が着々と 進められている。これらすべて「人々」の力が削がれる形で進められようとしている。
 しかも今は世を挙げてデジタル・トランスフォーメーション。PC やスマフォを何気に使 っていても、デジタルデータとして一部の企業や権力者に集中・集積される構造となって いる。「人々」の声が、そして力さえもが電子化され、AI に吸い込まれ、民主主義ではなく、 「デジタル専制主義」に転換される危険性が迫ってきている。
新しい年の初頭、改めて Imagine と Powerto the People を聴きながら、愚直に民主主義 の真価を取り戻す術を考えたい。

日本科学者会議東京支部つうしん No.676(2024.2.10)

ガザの悲劇から見えてきたこと、いま私たちがすべきこと
栗田 禎子 (個人会員)
 (ガザに対するイスラエルの大規模軍事攻撃、侵攻開始から 4 ヶ月以上が経つ。市民全 体を対象とする無差別攻撃の結果、これまでに 2 万数千人以上が死亡し(その 7 割が子ど もや女性)、9 割近くが住居を失った。食糧や燃料の不足、衛生状況の悪化も深刻で、まぎ れもない人道上の大惨事が生じている。以下、三点を指摘したい。
 ①事態の根底には「占領」という問題があり、今起きているのは占領者(イスラエル政 府)による占領下の民衆(パレスチナ人)の殺戮という事態であること。筆者を含む中東 研究者は従来からパレスチナ問題は(宗教問題ではなく)「占領」「植民地支配」の問題で あると考え、またイスラエルという国やそれを支えるシオニズムというイデオロギーの性 格、危険性について指摘してきた。イスラエルは中東に対する欧米の植民地主義的思惑に 基づいて建設された入植者国家(第一次大戦後にパレスチナを支配下に置いた英統治下で 入植が進み、第二次大戦後米国の後押しで「イスラエル」として建国宣言)であり、基 本的に植民地主義的性格を持つ。入植者国家であることから、(たとえばかつての南アフ リカにおける「アパルトヘイト」体制とも共通する)人種主義的体質を持つことでも知ら れるが、今回のガザ侵攻は、イスラエルのこのような性格を世界の眼前に暴き出すことに なった。
 ②同時に暴露されたのは、イスラエルによる占領下の民衆殺戮という明白な国際法違反や戦争犯罪の数々を放置・容認している先進諸国、特に米国の責任の大きさである。これ はイスラエルが中東における先進諸国の利害を守る存在、域内に埋め込まれた米国の「基 地」的役割を果してきたことに起因し、イスラエルが今ガザで「ハマス殲滅」を掲げて行 なっている作戦は、実は米国がこれまで「対テロ戦争」の名のもとに行なってきた一連の 対中東戦争のミニチュア版とも言える。日本は小泉・安倍政権以来「対テロ戦争」を全面 的に支持、米国の戦争に協力する態勢作りを進めてきたが、このような路線を見直すべき ではないか。
③世界の民衆は事態の本質を見抜き、即時停戦、さらには占領終結やパレスチナ人の民 族自決権実現を求める声を上げ始めており、ここに希望を見出すことができる。イスラエ ルを「ジェノサイド条約」違反で国際司法裁判所(ICJ)に提訴した南アフリカの決断は 英断であり、イスラエルへの武器供与や軍事支援の停止、経済制裁を求める運動も広がっ ている。市民の力で国際世論の方向性を作り出し、一刻も早く殺戮を止めることが必要で ある。
 米国や日本は UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への資金拠出を停止する決 定を下したが、これはガザの人々の生活条件を破壊し、ジェノサイドを助長する行為であ り、許されない。即時撤回を求める。

日本科学者会議東京支部つうしん No.675(2024.1.10)

Imagine とPower to the People を聴きながら
黒田 兼一( 個人会員 )
12 月 8 日、毎年この日を迎えると 2 つのことを思い出す。1 つは 1941 年のこの日、日本 軍がアメリカ・ハワイの真珠湾に奇襲攻撃したことである。太平洋戦争の開戦の日とされ ている。もう 1 つは、1980 年の 12 月 8 日、あのビートルズのジョン・レノンがニューヨ ークの自宅アパート前である男に拳銃で殺害されたことである。
 今年は久し振りにジョン・レノンのImagineを聴いた。1971 年発売のこの曲、メロディー は懐かしかったが、その歌詞に愕然とした。「国なんかないって想像してごらん。それは 難しくはない。国や宗教のために殺しあい、死ぬことはないよ」。 2022 年来のウクライナ、 23年秋のパレスチナのことに思いを寄せざるを得ない。
 同じ 1971 年のレノンの曲にもう一つPower to the People がある。こちらは Imagine とは対照的に激しくストレートだ。「Power to the People! 人々に力を! 革 命を望むなら、さあ立ち上がれ、外に出よ。大勢の労働者達はこき使われている。労働に見 合った給料を払った方がいい 人々に力を!」。
 同じ年に発売されたこの2曲、レノンは何を思って世に出したのだろうか。Power to the People について、学術会議会員に任命拒否された一人・宇野重規は、「街角で暮らす、ごく 普通の人々が政治的に立ち上がり、自由と権利を勝ち取ることを訴えるもので」あり、「民 主主義のもつ素朴な含意をもっともよく示している」という。民主主義とは「普通の人々が 力をもち、その声が政治に反映されること、あるいはそのための具体的な制度や実践を指す ものが民主主義でした(まさに民主力です)」。(宇野重規『民主主義とは何か』講談社現代新書、2020 年。)
 私たちの国のいま、「人々の力」はどうか。「失われた 30 年」の言葉が示すように、賃金 は停滞・下落(ピーク時から 15%ダウン)、非正規雇用の増加(いわゆるフリーランスを含 めると就業者の 4 割超)、消費税率の上昇(92年 3%、97 年 5%、14 年 8%、19 年 10%)で あり、そして昨今の物価高騰である。この 30年間を経て、「人々」の暮らしそのものが底割 れ状態に陥ってしまった。そしてさらに外を見れば「人々」が戦禍惨状の渦中、内は政権政 党の裏金・腐敗・金権政治、また学術と大学への介入、軍備を含めて戦争への準備が着々と 進められている。これらすべて「人々」の力が削がれる形で進められようとしている。
 しかも今は世を挙げてデジタル・トランスフォーメーション。PC やスマフォを何気に使 っていても、デジタルデータとして一部の企業や権力者に集中・集積される構造となって いる。「人々」の声が、そして力さえもが電子化され、AI に吸い込まれ、民主主義ではなく、 「デジタル専制主義」に転換される危険性が迫ってきている。
新しい年の初頭、改めて Imagine と Powerto the People を聴きながら、愚直に民主主義 の真価を取り戻す術を考えたい。

日本科学者会議東京支部つうしん No.674(2023.12.10)

ロシア、イスラエルの戦争と戦争抑止力としての世界市民の平和志向
米田 貢(個人会員)
 (1)2023年11月29日現時点でハマスとイスラエルとの間で停戦合意が2日間延長された。平和を求める世界中の市民がイスラエルによる大量虐殺の即時停止を求めている。その一方で、ロシアはウクライナ侵略への野望を捨てず首都キーフに対する最大規模の空爆を実施している。ウクライナでも多くの市民が日々殺されている。戦争がひとたび起きてしまえば、無辜の多くの子どもや女性が犠牲になる悲惨な現実のなかに私たちは生きている。
 (2)二つの国家による市民の大量虐殺という戦争犯罪が起きているが、私たちはこの二つの戦争の根本的な違いを見失ってはならない。ロシアは2014年に突如ウクライナのクリミア半島を併合し、2022年に2月にはキーフの陥落を狙ってウクライナ全土に対する侵攻を行った。この戦争は、明らかに覇権国家ロシアによるウクライナへの公然とした侵略戦争であり、それに対するゼレンスキー大統領を先頭としたウクライナ国民の断固とした反撃は、国連も認める正当な祖国防衛戦争である。この戦争は、ロシアがウクライナ領土から撤退することで直ちに解決されうるものである。これに対して、2023年10月のハマスによるイスラエルへの大量のロケット砲による無差別攻撃と市民の大量虐殺と外国人を含む拉致、それに対するイスラエルのハマスせん滅をめざすガザ地区への無差別爆撃と市民の大量虐殺(その半数近くは子どもたち)という新たな戦争は、一方が悪であり他方が善であるというように単純化できるものではない。その背景には、イスラエル建国以来続くイスラエルによるパレスチナ人に対する恒常的な軍事支配があるからである。現時点で、市民の虐殺を直ちに止めさせるための停戦合意の継続が求められているが、その根本的な解決にはイスラエル人とパレスチナ人がお互いを人間として認めあい、主権国家として対等・平等な国家間関係を構築する以外にない。そこに至るには越えなければならない多くの困難が待ち受けている。
 (3)米ソ間の冷戦体制の崩壊以降、世界の最強の覇権国家として国際秩序の担い手を自負してきたアメリカは、ロシアによるウクライナ侵略を国連憲章・国際法違反として非難し、軍事同盟であるNATOに未加盟のウクライナに対して多大な軍事支援を行ってきた。他方で、新たな戦争においては、ハマスの無差別攻撃だけを非難し、イスラエルによる長年にわたる軍事支配と今回の戦争犯罪を免罪している。明らかに、ダブルスタンダードである。そこに貫かれているのは、覇権主義国家としてのアメリカの国家的利益である。アメリカは、ロシアの孤立化を図るために、自由主義・民主主義国家と全体主義・専制主義国家との対立の一面的な構図を持ち出してきたが、国連に加盟する多くの国々はそれに同調していない。ハマスのせん滅(想起されるのは3.11テロに対する反撃としてのアメリカによるアルカイーダのせん滅、アフガニスタンのタリバン政権の打倒)、パレスチナ人のガザ地区からの「除去」をめざしているイスラエルにおいても、ジェノサイドを許さないという市民の声と運動が明確に存在している。イスラエルは自由主義の政治体制の一面をもつ。基本的人権を尊重し、大量虐殺を生む戦争を許さない世界市民の声は、国家の名において市民から基本的人権を奪い、国家的利益のために他国の軍事支配をめざす覇権主義の政治体制、覇権国家にこそ向けられなければならない。「平和を愛する諸国民の公正と信義」を信頼して、一切の戦力を保持しないと謳った平和憲法をもつ日本の市民社会は、覇権国家アメリカに追随する日本政府に対して、今何をなすべきなのだろうか。
大学の管理統制の危機
 話題は変わるが、国際卓越大学の選定では東大、京大を「さしおいて」東北大学がなぜ選定されたのかが話題になった。しかし、選定に際して「国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議」は申請した大学に「合議体」の設置を求めるような改善方向を示唆しているが、そのような権限のない選定の有識者会議が大学運営の根幹に関わる方向性を示唆したことに驚きを禁じ得ない。
 「合議体」とは総合科学技術・イノベーション会議の「世界と伍する研究大学専門調査会」(2021 年 7 月)が打ち出したもので、国際卓越大学となる大学法人の意思決定機関として設置されるものであった。そこでは現行の学長選考・監察会議と協議の上で、文科大臣の承認を得て学長が任命する3人以上からなる機関で、首相が承認を拒否した学術会議会員任命と同じ構図である。「合議体」(法案では運営方針会議)により営利企業の経営然とした稼ぐ大学を求めている。これを可能にするために役員会の機能であった中期目標・中期計画、予算・決算の策定を「合議体」が行うもので、学長解任の権限もある。国際卓越大学にのみ要求されたものとみられたが、一般の大学にも適用可能とする国立大学法改訂案が準備されている。大学を政府・財界の意のままに従わせようとするもので、学術会議の改革策動と軌を一にしている。その狙いは大軍拡の要である軍事技術開発にアカデミアを動員するためといってよい。
 戦前の轍を踏まないためにも、学術会議や大学問題の管理統制のたくらみを撥ね退けるために市民と連帯していく道を拓きたい。

日本科学者会議東京支部つうしん No.673(2023.11.10)

日本学術会議につづいて大学への管理統制の危険な動き
井原 聰(個人会員)

学術会議改変の危機は去っていない
 3年前、日本学術会議(以下、学術会議)の会員任命拒否が行われた。これには憲法違反だとして 1000 を越える学術団体と 500 に近い市民団体が抗議の声を挙げた。しかし、任命拒否は撤回されず、正当化され、学術会議の自律的、自主的運営に政府が介入しよう とする日本学術会議法改定案の枠組みが昨年12 月学術会議に突如提起され、国会上程が目論見られた。学術会議の毅然とした対応とアカデミアの空前の反撃、市民の抗議の声に本年4月 20 日政府・与党は上程を見送った。
 ところで政府は「日本学術会議の見直しについては、これまでの経緯を踏まえ、国から独立した法人とする案等を俎上に載せて議論し、早期に結論を得る」(「経済財政運営と改革の基本方針 2023 について」の閣議決定(2023.6.16)に基づき日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会を内閣府に設置し(8月 29 日)、すでに3回の会合がもたれた。この懇談会の議論の成り行きは予断を許さない。任命拒否問題もさることながら学術会議が換骨奪胎され、日本の学術研究体制が政府・産業界のお抱えシンクタンクになりかねない危険があるが、任命拒否の時のようなアカデミアや市民の反応が少ないので、JSA としては大きな声を挙げなければと思う。
大学の管理統制の危機
 話題は変わるが、国際卓越大学の選定では東大、京大を「さしおいて」東北大学がなぜ選定されたのかが話題になった。しかし、選定に際して「国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議」は申請した大学に「合議体」の設置を求めるような改善方向を示唆しているが、そのような権限のない選定の有識者会議が大学運営の根幹に関わる方向性を示唆したことに驚きを禁じ得ない。
 「合議体」とは総合科学技術・イノベーション会議の「世界と伍する研究大学専門調査会」(2021 年 7 月)が打ち出したもので、国際卓越大学となる大学法人の意思決定機関として設置されるものであった。そこでは現行の学長選考・監察会議と協議の上で、文科大臣の承認を得て学長が任命する3人以上からなる機関で、首相が承認を拒否した学術会議会員任命と同じ構図である。「合議体」(法案では運営方針会議)により営利企業の経営然とした稼ぐ大学を求めている。これを可能にするために役員会の機能であった中期目標・中期計画、予算・決算の策定を「合議体」が行うもので、学長解任の権限もある。国際卓越大学にのみ要求されたものとみられたが、一般の大学にも適用可能とする国立大学法改訂案が準備されている。大学を政府・財界の意のままに従わせようとするもので、学術会議の改革策動と軌を一にしている。その狙いは大軍拡の要である軍事技術開発にアカデミアを動員するためといってよい。
 戦前の轍を踏まないためにも、学術会議や大学問題の管理統制のたくらみを撥ね退けるために市民と連帯していく道を拓きたい。

日本科学者会議東京支部つうしん No.672(2023.10.10)

西武百貨店のストライキに想う
佐久間英俊(中央大学分会・流通論)

 8月31日にそごう・西武の労働組合が西武池袋店でストライキを実施した。百貨店業界のストは61年ぶりで、日本のマスコミは一斉に報道した。だが長年起きていないものが、なぜいま起きたのか。
 西武もそごうも日本の有名百貨店だが、バブル経済崩壊後に経営不振となり2003年に経営統合した後、2006年にセブン&アイHDに買収された。だが28店舗が10店舗に減少したが再建は成功せず、結局9月1日付で米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却された。フォートレスはヨドバシカメラと提携し、西武池袋店の一部をヨドバシに転売した。組合側は、情報開示、百貨店事業の継続、雇用維持などを求めたが、経営側は対応しなかったため、売却前日にやむなくストライキに踏み切ったのである。
 不振が続く百貨店業界の売上高は「失われた30年」に9兆7130億円(1991年)から4兆9812億円(2022年)に減少した。新自由主義政策がもたらした格差拡大は、株式投資の利得者などによる一部の高額消費を除くと、中・下層の底割れを招いたため、百貨店は直撃を食らった。この時期、収入が増えない日本の消費者は低価格志向を強めており、他の小売業態も総じて本業では儲かっていない。
 セブン&アイは儲けの大半を生んでいるコンビニ事業に経営資源を集中するため、百貨店事業の売却を決断したが、その背景にはモノ言う株主の圧力があった。百貨店の売り場減少には地元も反対を表明した。また単体では黒字の池袋店の売り場を減らす理由も不明である。従業員の9割を組織する同組合は90%を超える高率でスト権を確立した。ただ結局売却は阻止できず、資産の切り売りでフォートレスは儲けを得たと言われている。
 ストライキは労働者の権利である。欧州ではストライキやデモも珍しくない。同じく資本主義国でありながら、彼我の差はどこにあるのか。例えば、フランスの労働組合の組織率は10.3%(2019年、仏労働省)で、日本の16.5%(2022年)より低いが、ストやデモのスローガンに賛同する非組合員や一般人が加わることも珍しくないと聞く。つまり、西欧的個人主義の伝統に違いがあると思われる。自己の権利を主張するなら、他者の権利を認めないといけない。それが哲学として人々に浸透している。
 翻って日本は、今年の春闘で四半世紀ぶりに数%のベアが出たと話題になったが、勤労者の大半がこの間の実質賃金低下をカバーできていないのだから、浮かれていてはいけない。1991年以降の30年間で比べると、英米の賃金は50%以上、独仏も33%ほど上がっているのに対して、日本の賃金はわずか4.9%増にとどまる(OECD、賃金センサス)。主要国の中では日本だけが実質賃金を大きく減らしている。このような異常さの中で、ストもデモもほとんど起きない日本こそ異常と言えよう。
 新自由主義的競争に分断された個人は、眼前の不便に不満を漏らす前に、欧州の個人主義に学び、他者に想いを馳せる社会性を身につける必要がある。他者との共同こそ自身の問題を解決する近道でもあるからだ。

日本科学者会議東京支部つうしん No.671(2023.9.10)

関東大震災 100 年―災害に強い東京を
岩見良太郎(埼玉大学名誉教授 都市計画)

 関東大震災に触れながら、寺田寅彦は、次の ように語っている。「大正十二年のような地震 が、いつかは、おそらく数十年の後には、再び 東京を見舞うだろうということは、これを期 待するほうが、しないよりも、より多く合理的 である。その日が来た時に、東京はどうなるだ ろう。......今度の地震にはなかった新しい仕 掛けの集団殺人設備がいろいろできているだ ろう。たとえ高圧水道ができていようが、消防 船が幾台できていようが、おそらくそんなも のはなんにもなるまい」。
 寺田は、技術の力によって、災害を抑えこむ ことができると信じる文明人のおごりを、つ とに戒めていたのである。いまや、宇宙まで飛 び立つまでに、科学・技術は発展したが、それ により、つくられた新たな「集団殺人設備」が、 身の周りにひしめいている。とりわけ、災害の 危険性を増幅しているのは、「集団殺人設備」 を装備した、超巨大都市東京の出現である。関 東大震災時の頃は、山手線近くに行けば、農村 に助けを求めることができたが、今や、農地や 自然ははるかかなたである。都心は、地盤が悲 鳴を上げるほど、巨大超高層ビルが次々建て られ、周辺では高速環状道路と、都心に向かう 放射道路の整備が止まらない。こうした都市 づくり促進のために、大深度地下、立体都市計 画、都市計画の異次元の規制緩和制度がフル 活用されているのだ。
 何よりも恐ろしいのは、巨大都市を支える ため、「集団殺人設備」が、高密度にネットワ ークされている点である。たとえば、水害で地下鉄の一部が浸水すれば、瞬く間に地下鉄網 が水浸しになる。しかし、防災まちづくりと称 して企てられているのは、さらなる、「集団殺 人設備」の整備・強化である。ゼロメートル地 帯の江東五区で、進められようとしている「高 台まちづくり」は、その一つの典型だ。この地 域では、一たび浸水すれば逃げ場がない。そん な中、最近、浸水対策の決め手として打ち出さ れたものである。スーパー堤防の整備を促進 し、その上に、高層マンションを建てる。駅前 には再開発をおこない、ビル同士をデッキで 結び、浸水時には、そこに逃げ込めるようにす る、というわけだ。こうした思想の行きつく先 は、戦艦大和のような都市づくりである。「安全」とひきかえに、「くらし」を犠牲にするの である。
 都市づくりの思想の根源的転換は、今や差 し迫った課題である。新たなまちづくり技術 の思想として、私が、注目しているのは、ルイ ス・マンフォードの「生技術」の概念である。 現代の強大な機械的力によって自然の力を押 さえ込むことにより目的を達成する「機械技 術」への依存をミニマムにし、自然や人々の協 働の力を最大限活用する技術である。巨大機 械技術によって支えられている東京の巨大 化・一極集中化を改め、自然・農業と一体とな った自律的生技術都市のネットワークとして 再編する。荒唐無稽のように聞こえるかもし れないが、こうした方向以外に解決の道はな い。

日本科学者会議東京支部つうしん No.669(2023.7.10)

入管法「改正」ではなく移民の権利保障と包摂を求めて
A.K(都内大学大学院修士課程)

 6月9日、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の改定案が参院本会議で可決され成立した。当事者や支援団体による運動とそれに連帯する国会議員らによって、審議のなかでも多くの新たな問題点が浮かび上がり、果ては「立法事実」まで疑問視されるなかで押し通された。
 本法案は2年前に廃案にされた旧法案とほぼ同じ内容であった。ウィシュマさんが収容中に死亡した事件は、旧法案を廃案に持ち込んだだけではなく、その後の2年間、収容施設内での暴力・外国人差別を明るみにする契機ともなった。入管への問題点が数多く指摘されるようになるなかで、出入国在留管理庁(以下、入管庁)は、収容体制を「改善」するという体裁で本法案を再び提出したのである。しかし、政府案の内実は、特に問題とされていた入管の収容問題——全件収容主義体制および無上限の収容期限——に関しては、形式的修正にすぎず、むしろ長期収容の解決策として、本来認められていない難民の強制送還を「その例外」を設けることによって可能にするものであった。これが、本法案が「死刑執行のボタンを押すこと」と専門家はじめ運動団体から比喩される所以でもある。こうした対処は難民保護の国際条約にも違反する非人道的な改悪であることは覆い隠せない。
 難民の受け入れについては、日本の難民認定率は0.3%と非常に低い。そして国会審議では、難民審査体制にも問題があることが明らかになった。国会参考人として召集された難民審査参与員の柳瀬房子氏が全体の難民審査数25%を占める1,231件を審査していたのである。柳瀬氏の2022年の勤務日数は32日、国会審議のなかで参与員の勤務時間は4時間ほどということが明らかになっており、それに基づいて単純計算した場合、1件につきわずか「約6分」で審査したことになる。こうした事実を前にして、公正な審査がおこなわれていたといえるだろうか。
 国会審議や報道では、難民や入管施設収容の問題が多く取り上げられ議論されてきたが、日本の入国管理そのものについて議論しなければならないと考える。そもそも、日本には外国人を管理し抑圧する制度(入管行政)があるのみで、外国人を包摂していこうとする制度(移民政策)がないということが大きな問題だと私は考えている。齋藤法相は国会審議で「在留する資格のない方は送還されなければならず、その送還の職務を負っているのが入管」と答弁した。これが入管業務の本質を現しているだろう。こうした入管の体質には、歴史的経緯も関係している。紙幅の関係上、簡単にしか触れられないが、日本の入国管理は在日朝鮮人の管理に端緒があり、それは反共の防波堤的役割を担っていたのである。入国管理政策の研究者らによれば、戦後、特高警察のメンバーが入管局の職員になったことが明らかにもなっている。また、周知の通り、日本政府はこれまで「移民政策をとらない」という立場を表明してきた。日本の在留外国人数は2022年末時点で、307万5,213人で初めて300万人を超えた。外国人労働者数も182万人を超え、日本経済を支えている存在となっていることはもはや否定できない。こうした人々が日本社会の一員として迎え入れられることなく、不安定な在留資格に留まり、そこから滑り落ちればすぐさま「不正滞在者」として管理、抑圧の対象となるという構造は問われなければならない。帰れない人々に「不法/犯罪者」というレッテルを貼るのではなく、そうした人々の背景に、歴史的・経済的・社会的な構造があることにもっと目を向けなければならない。だからこそ、いま必要とされるのは、入管法「改正」ではなく移民の権利保障と包摂をするための議論であると考える。

日本科学者会議東京支部つうしん No.668(2023.6.10)

国策軍事研究の促進を狙いとする日本政府の日本学術会 議に対する不当介入に抗議する
第57回東京支部大会 特別決議 2023年5月21日

 日本政府は去る 4 月 20 日、日本学術会議法改正案の今第 211 回国会提出を取り止めた。 これは多くの学協会等から反対声明が出され、ノーベル賞受賞者、日本学術会議歴代の会長、 外国のナショナル・アカデミー、さらには市民 団体等の内外の反対世論の高まりを背景に、4 月 18 日の日本学術会議の総会で、法案提出の 中止を求める「勧告」を出したことによる。こ の「勧告」は政府に対する最も強い意思表示で ある。しかし、大軍拡・大増税に邁進する政府 は、今後も日本学術会議の改変の策動を続け ることが予想される。日本科学者会議東京支 部は、今改めてその危険性を明らかにし、政府の策動に反対を表明する。
            記
 岸田文雄内閣は、2022 年 12 月 16 日に、「安全保障三文書」(「国家安全保障戦略」・「国家防 衛戦略」・「防衛力整備計画」)を閣議決定した ことを画期として、日本国の軍国主義化に踏 み出した。政治・経済・学術・教育・文化等の軍事化の推進が画策されている。
 学術の軍事化に関しては、「国家安全保障戦 略」は、「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全 保障環境のただ中にある。その中において、防 衛力の抜本的強化を始めとして、最悪の事態 をも見据えた備えを盤石なものとし、我が国 の平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会と の共存共栄を含む我が国の国益を守っていかなければならない。」そのために、「最先端の科 学技術」を「幅広くかつ積極的に安全保障に」 「活用するための体制を強化する」。「安全保 障分野における政府と企業・学術界との実践的な連携の強化」「を進める」、としている。
 岸田内閣は、この観点に立って、日本学術会議に変質を迫っている。
 日本学術会議は、その前身に当る第二次世 界大戦前の学術研究会議(1920 年 8 月 26 日設 置)が、天皇制権力による軍国主義によって自律性を奪われ、科学者が侵略戦争(「日中戦 争」・「アジア・太平洋戦争」)に総動員させら れた(1945 年 1 月 16 日の科学技術の戦力化を 徹底の勅令)ことを反省して生まれた組織 (1949 年 1 月 20 日発足)で、政府から独立し た内閣総理大臣所轄の政府機関として、「わが 国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世 界の学界と提携して学術の進歩に寄与するこ とを使命とする」(日本学術会議法・前文)、日 本国の科学者の「内外に対する代表機関」(同法・第二条)である。
 科学に関する事項を「政府に勧告すること ができる」(同法・第五条)公的機関の存在は、 政府の科学についての錯誤や怠慢や横暴を糺 して、政府が科学を平和や人類福祉や地球環 境保護のために活用することに貢献できるた め、国民と人類にとって、とても貴重である。
 岸田内閣による日本学術会議の変質的改の試みの核心は、日本学術会議の会員(210 名、 任期 6 年、3 年毎に半数改選)となる会員候補 者の選考制度に関するものである。現行の選 考制度は、日本学術会議の現会員が、次期会員 候補者を推薦し、その推薦された会員候補者 を内閣総理大臣が無条件で会員に任命すると いう制度になっている(同法・第七条・第一七 条)。しかし、2020 年 9 月 28 日に、菅義偉内 閣総理大臣が、日本学術会議が推薦した 105 名 の会員候補者のうちの 6 名を、理由を示さず技術・イノベーション会議が選定する者、2日 本学士院の院長とで協議して任命するとしている。「選考諮問委員会」の委員の任命に政府の意 向が反映する仕掛けが施されているので、日 本学術会議の会長が当該委員を任命したとし ても、「選考諮問委員会」は、日本学術会議の 人事統制組織となり、日本学術会議の生命で ある自立性・独立性を否定する結果をもたらすものとなる。に任命しないという決裁を行い、今回の変質的改造の試みの先取り的行為を行った。
 この日本学術会議に牙を剥く姿勢を引き継 いだ岸田内閣は、今回、日本学術会議の会員及 び連携会員(各部、分科会などの委員として活 動する人)以外の第三者とされる委員 5 名か ら成る「選考諮問委員会」を創設し、日本学術 会議が会員候補者を選考するとき及び連携会 員を任命するときは、「選考諮問委員会」に予 め諮問しなければならないとし、その上、「選 考諮問委員会」の意見を尊重しなければならないとする選考制度を新設しようとしている。
 「選考諮問委員会」の委員の資格(選出基準)は、(a)科学に関する研究の動向及びこれを取 り巻く内外の社会経済情勢、(b)産業若しくは 国民生活における科学に関する研究成果の活 用の状況、又は、(c)科学の振興及び技術の 発達に関する政策に関し広い経験と高い識見 を有するものとされ、日本学術会議の会長が、この委員を任命するに当たっては、1内閣総 理大臣が議長を務める総合科学技術・イノベ ーション会議(CSTI)の議員の中から総合科学技術・イノベーション会議が選定する者、2日 本学士院の院長とで協議して任命するとしている。
 「選考諮問委員会」の委員の任命に政府の意 向が反映する仕掛けが施されているので、日 本学術会議の会長が当該委員を任命したとし ても、「選考諮問委員会」は、日本学術会議の 人事統制組織となり、日本学術会議の生命で ある自立性・独立性を否定する結果をもたらすものとなる。
 アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスのナ ショナル・アカデミーでは、会員選考の自立 性・独立性が保障されていることが日本学術 会議の調査(2023 年 4 月 13 日発表)で明らかとなっている。
 岸田内閣には、菅前内閣総理大臣が行った 6 名の会員候補者の任命拒否を撤回し、国策軍 事研究の促進を狙いとする日本学術会議変質 の不当介入をやめ、日本学術会議の自立性・独 立性を尊重することを強く要求する。その上 で、公的機関としての日本学術会議の堅持及 び学術の自由と独立の保障を絶対的前提とし て、日本国憲法の平和的民主的理念に基づく 21 世紀の日本国の学術の発展と貢献(平和的・ 人権的・福祉的・産業的・地球保護的貢献)及 びそのための日本の学術体制と日本学術会議 のあり方を検討する、広範な学術研究者との 開かれた協議の場を設置するよう断固要請する。
  2023年5月21日
                日本科学者会議東京支部第 57 回大会

日本科学者会議東京支部つうしん No.667(2023.5.10)

会長メッセージ 「学術の発展とより良い役割発揮のために、 広く関係者を交えた開かれた協議の場を」
令和 5(2023)年 4 月 27 日   日本学術会議会長 梶田隆章

 日本学術会議が 4 月 18 日に政府に勧告「日本学術会議のあり方の見直しについて」を出し、4月27日に梶田会長のメッセージを出しました。重要な内容なので、日本学術会議のホームページより引用紹介します。JSA は、日本学術会議の協力学術研究団体です。

 既に報道等でご存じのように、4 月 20 日、政府は検討中の日本学術会議法改正案の今国 会への提出を見送ることを表明しました。この間、拙速な法改正の動きや改正法案の内容 について、日本学術会議のみならず、多数の学 協会等から懸念の表明が続きました。さらに、 日本学術会議の歴代の会長や内外のノーベル 賞等受賞者からも拙速な法改正を思いとどまり、対話をすべきという声明が寄せられました。政府も「このまま法案を閣議決定した場合、学術界と政府との決定的な決裂を招く恐れもある」と、今回の見送りの理由を述べています。みなさまのご支援にあらためて感謝する次第です。
 しかし、政府はこれを機に、今の政府案に加え、「学術会議自ら主張している 5 要件を満 たし、学術会議がその独立性の参考とする主 要先進国 G7参加国並みの制度・体制等を持った特殊法人などの民間法人とする案」も検討の対象とすると表明しています。また、日本 学術会議担当の後藤大臣は、総理から改めて学術会議と丁寧に議論し、早期に結論を得るよう指示されたと述べています。
 日本学術会議としては、先日(4月18日)の総会において会員が全会一致で議決した政 府への勧告において述べているように、「日本 学術会議のあり方を含め、さらに日本の学術 体制全般にわたる包括的・抜本的な見直しを 行うための開かれた協議の場を設けるべき」と考えています。日本学術会議を政府機関に とどめるか、民間法人とするかという論点に限定せず、日本の学術の発展のために真に求 められることを、必要かつ十分な時間をかけ て検討するために、広く学術に関わる関係者 を交えた開かれた協議の場を作ることを求めていく所存です。
 日本の学術を今後も発展させるために、そして、社会に貢献するという学術の役割を発揮するために、学術界と政府との間の信頼関係を回復することが今こそ求められています。日本学術会議は、2021 年 4 月に総会が決定し、公表した「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」に基づき、社会に対する責任を果たすために、自ら改革を着実に実行しており、 今後も続けてまいります。そして私は、日本の 学術の発展を実現し、社会において学術がよ りよい役割を発揮するための検討の場とする という強い決意を持って、これからの協議の場に臨みたいと考えています。

日本科学者会議東京支部つうしん No.666(2023.4.10)

東京支部会員の多様性の尊重と人権保障に関する宣言
2023 年 4 月 2 日     日本科学者会議東京支部幹事会

 日本科学者会議は、会則において日本の科 学の自主的・民主的発展(会則第 2 条 1 項)、 科学者の生活と権利をまもり、研究条件の向 上と研究の組織・体制の民主化、及び学問研究 と思想の自由をまもること(同第 2 条 2 項)を 目的に掲げている。このように、研究や組織活 動における自由、平等、民主主義を実現するに あたり、人間の尊厳および基本的人権の尊重 が、研究をはじめとするすべての活動の基盤 となる。また、科学を人類の進歩に役立たせる こと(同第 2 条 4 項)を目的とした日本科学者 会議において、真摯に知識を希求するととも に研究の公共性および社会的責任を自覚し、 広く社会に還元するよう努めなければならない。
 したがって、日本科学者会議東京支部(以下、東京支部)及び会員は、会員の多様性を尊重し、ジェンダー平等及び差別・ハラスメントの防止に努めることが会員の倫理的義務であることを確認し、研究・教育および組織運営にあたって依拠すべき基本理念として以下の諸原則の重要性をあらためて確認し、遵守することを表明する。
〔基本的人権の尊重〕 東京支部および会員は、いかなる場所・場合においても人権を尊重し、それを侵害してはならない。
〔差別の禁止〕 東京支部および会員は、性、性的指向、性自認、性表現(見た目・服装等)、思想信条、宗教、人種、民族、国家族状況(婚姻の有無等を含む)、身体的特徴、健康状態、障害の有無等に基づくあらゆる差別的な扱いをしてはならない。
〔ハラスメントの禁止〕 東京支部および会員は、セクシュアル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、パワー・ハラスメント、レイシャル・ハラスメントなど、ハラスメントにあたるいかなる行為もしてはならない。
〔支部活動における対応〕 前項までに示した諸原則を遵守するため、東京支部は、学習環境を整えるとともに支部の諸活動の運営における配慮等を行い、多様性への理解促進や人権侵害等の防止に努める。人権侵害等が生じた場合には適切に対処し、必要に応じて状況や環境の改善を行える体制を整えていくこととする。
付記
(本「宣言」に至る経緯)
2021年5月の第55回東京支部大会において、会員から「マイノリティの会員が安心・安全に活動できる組織づくりとハラスメント相談委員会の設置の提案」がなされ、支部として「1年かけて検討し、次年度の議案に関連事項を記載する」ことが確認された。その提案に応え、支部で検討会議が発足し、取り組みを進め、私たちは、上記の諸原則を表明することになった。

日本科学者会議東京支部つうしん No.665(2023.3.10)

日本科学者会議東京支部常任幹事会の声明
日本科学者会議東京支部幹事会
平和国家としての日本のあり方を大転換する「安保3文 書」による大軍拡・大増税路線に反対する
 岸田政権は「国家安全保障戦略」など「安保 3文書」の閣議決定によって、「反撃(敵基地 攻撃)能力」の保有と5年間で43 兆円規模の防衛費増大、そのための大増税の方針を明らかにした。日本科学者会議東京支部はこのような戦後安全保障政策の根本的な転換をもたらす大軍拡・大増税に反対し、その撤回を要求するものである。
 この大軍拡方針は、日本国憲法に真っ向から反している。憲法は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」(前文)、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使 は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(9条)と定めている。このような信頼を捨て、紛争解決の手段として武 力に頼り、抑止力のために「武力による威嚇」を強めることは、憲法を蹂躙する暴挙にほかならない。
 この政策転換は日本政府がこれまで主張してきた「専守防衛」の方針にも真っ向から反している。「盾」の役割に徹し、他国攻撃の武器を持たず、先制攻撃を行わないとしてきたこれまでの方針を転換し、米軍と共に「矛」の役割を担い、攻撃される前の「反撃」を予定し、 他国に脅威を与えることによって抑止力を高 めることは、東アジアでの緊張を激化させ、かえって日本周辺の安全保障環境を悪化させる愚策である。このような安全保障のジレンマは避けなければならない。
 この政策転換は平和安全法制(戦争法)の枠組みを装備と態勢の面から引き上げて実行段階へと高め、日米の軍事的な一体化を完成させようとするものである。戦争法によって一 部行使が容認された集団的自衛権によって「存立危機事態」と認められれば自衛隊は米軍と共に戦闘に加わることになる。日本が攻撃されていなくても戦争に巻き込まれる危険 性は格段に高まった。そのアメリカには、トン キン湾事件をでっちあげてベトナム戦争に介入し、フセイン政権に濡れ衣を着せてイラク戦争を始めた過去があることを忘れてはならない。
 この方針転換によって、国民生活は大きな脅威にさらされ破壊される。ただでさえ貧弱 な教育や社会福祉、生活支援のための公的支 出が削減され、震災復興のための資金やコロナ対策などの予備費まで流用され、これまで許されないとされてきた建設国債が充当されようとしている。巨額な課税によって物価高にあえぐ国民生活をさらなる困難に直面させ ることは火を見るよりも明らかである。
 この方針転換は平和国家としてのあり方を変え、学術研究にとっても重大な影響をもた らすことになる。「安保3文書」は先端科学技 術研究の軍事転用、軍事技術研究体制の整備、 港湾や空港の軍事利用、安全保障の観点からの学術や経済への介入と統制など戦争体制に向けての総動員をめざしている。学術研究と 科学は軍事に奉仕することを求められ、自由 な発展が阻害され、大きな停滞を招くことは 明らかである。
 このような方針転換が国会での十分な審議 もなく、臨時国会の閉幕をもって閣議決定されたことも議会制民主主義を破壊する重大な 問題である。今回の決定は、単に戦後の安全保 障政策を転換するだけでなく、平和国家とし ての日本のあり方そのものの大転換を意味している。世論を巻き込んだ国会での十分な議 論が必要であり、国民に信を問うことなく決定されてはならない。
 いま必要なことは、東アジアの緊張を緩和 し、平和と安全をもたらすビジョンに基づく外交政策の展開である。仮想敵国を持たず、集団的な安全保障体制の構築によって、考え方や立場は異なっても平和に共存できるような国際関係の実現に向けてイニシアチブを発揮することこそ、憲法が予定する日本の姿にほ かならない。そのために、日本科学者会議は「安保3文書」による大軍拡・大増税への方針転換に反対し、その撤回を求めるものである。
 2023年2月14日
                       日本科学者会議東京支部常任幹事会

日本科学者会議東京支部つうしん No.664(2023.2.10)

会員拡大の特別強化月間に取り組もう
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佐久間英俊(東京支部事務局長)

 1 月 29 日に開いた第 4 回支部幹事会は、2 月~4 月を会員拡大の特別強化月間に定め活 動を強めることを決めました。支部会員の皆 さんには、周囲の非会員の方に入会を呼びか けて頂くよう、ご協力をお願いします。
 JSA の会員構成は高齢化し逝去される方も 増えています。更に現在は独自困難もありま す。新自由主義的競争政策の弊害(会員の多忙 化・疲弊など)に、コロナ禍による活動制約(対 面での企画や懇親会の開催困難、リモート勤 務等で紙媒体のニュース類がタイムリーに届 かない等)が加わり、今期は支部も全国も会員 数を大きく減らしています。
 一方、情勢は深刻です。法に背いても反対者 を排除する政府の専断的・翼賛的行動によっ て、日本が戦争に巻き込まれる危険は格段に 高まり、科学の基盤も掘り崩されようとして います。大軍拡予算による国民生活への矛盾 の皺寄せも危惧されます。
 直近の政権が過去の禁を破り、違法行為も 辞さず悪政を推し進められるのは、与党が選 挙で「安定多数」を得ているからですが、それ はウェブやマスコミの情報操作も含めて国民 に真実や問題の本質を伏せているからこそ実 現しています。
 学問の自由や科学の基盤を守り、現行の諸 問題を解決し、社会を進歩の方向に転換させ るためにも JSA が果たす役割は重要です。 JSA は絶対に潰してはいけない組織と考えま す。
 私は、いま JSA は社会から求められており、 然るべき取り組みをすれば、会員を拡大できると考えています。その根拠は、1社会矛盾が 深刻化し、政府の悪政と自由・平等・平和・民 主主義を求める市民要求とが乖離、2多くの 社会問題解決のためには、分野横断的、総合的 な対応が必要、3嘘や反科学の蔓延に対して 科学的知見を希求する動きが根強く存在、4 組織の内部に分析に優れ運動経験豊富な人材 が多く存在すること等です。他方「入っていて 当然」の人が非会員であるなど、拡大対象者は 周りにかなりいるはずです。
 目標は昨年 5 月の第 56 回支部大会で決めた 会員数への回復です。残念ながら支部の会員 数はその時からかなり後退しているので、あ と 100 名ほどの増員が必要ですが、10 年ほど 前には 70 人ほどを迎え入れた年もあり、けっ して不可能ではありません。
 東京支部は、会員の要求に応えた企画や取 り組みを引き続き進めます。身近な非会員を 気軽に誘って支部の企画に参加しましょう。
 職場や研究室等の新人には、会誌の見本誌 や支部紹介リーフを渡して入会を薦めましょ う。すぐ入会に至らない場合は、会誌購読を薦 めて下さい。
 会員減少から増勢に転換し拡大目標を達成 できるかどうかは、役員を始め有意の会員が 多忙と疲弊を乗り越え、周囲の非会員を企画 に誘い、入会を働きかける行動に足を踏み出 せるかどうかにかかっています。支部活動へ の皆さんの関わりについて、あと少しのお力 添えを頂き、それらを集めることで大きな変 化に繋げたいと考えています。皆さんのご支 援を重ねてお願いいたします。

日本科学者会議東京支部つうしん No.663(2023.1.10)

2023 年 年頭挨拶
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佐久間英俊(東京支部事務局長)

 中大分会の佐久間です。年頭にあたり、まず は JSA の会員継続と日頃の学会活動への協力 に感謝いたします。
 昨年起きた最大の出来事はロシアによるウクライナ侵略戦争でしょう。戦後民主主義が築いてきた平和の枠組みが不当にも蹂躙されました。中国も覇権争いを強め、北朝鮮のロケット打ち上げ実験増強等も相俟って、日本政府は戦争する国造りを加速しました。12 月に内閣府主導でできた「安保3文書」は従来の憲法解釈を覆し、同盟国等が起こす戦争への参戦を想定し、遠方の敵国にある拠点への攻撃を実現する大軍拡が発表されました。予算の不足分は赤字国債の乱発と大増税で賄う計画です。歳入計画の信憑性もさることながら、日本が戦争に巻き込まれる危険がいよいよ高まり、近年深刻化していた構造的問題(格差拡大、国内不景気、医療・福祉・教育等の切り捨て) が一層悪化することが懸念されます。現下の実質所得低下で苦しむ市民に背を向ける計画です。他方強引に進める日本学術会議の組織改革等をみると、意に沿わない人は有無を言 わさず排除する姿勢が顕著です。歴代政権の禁を破り、岸田政権は一層支配統制を強めています。
 政府がこんな勝手な政策を強行するのは、 この間の国政選挙で政権政党が「大勝」しているからでしょう。それは小選挙区の増加等で実際の政権批判票が議席獲得に繋がることを防ぐ選挙制度改悪の影響もありますが、私は もっと構造的な問題があると捉えています。
 2011 年 3 月の東日本大震災と福島第一原発事故は日本社会の存続が危ぶまれる転機でした。先進各国も日本だけでなく資本主義の体制的危機と認識し、円高修正等日本への支援策を実施しました。国内でも政財界が団結して支配体制を強化するとともに、マスコミ統制やインターネット情報の誘導等も含めて国民の意識操作が行われました。この結果、実質所得減少や格差拡大等国民生活の矛盾が深刻化しても、体制的危機として発露することを阻む社会支配体制ができました。3.11後のこの時期以降日本は「戦後第3の反動攻勢」期に入ったと私はみています。新自由主義的競争政策が仕事や生活の多忙化・疲弊を通じて、市民の目を事実や思考、科学的認識から遠ざけています。
 こうした閉塞感を打ち破り、自由、平等、平和、民主主義が広がる方向に転換できるかどうかは、多数の市民に科学的認識が広がり、市民運動がまずは大きな課題で協力し合えるかどうかにかかっています。それを進める上でJSAは決定的に重要な役割を担っていると思います。複雑で多様化した問題を解決するためには、分野横断的な科学による解明が必要であり、科学者の立場からリベラルな関係諸団体と連帯した運動を進めているからです。
 とはいえJSAの会員数も漸減し続けています。いま日本社会の重要な分岐点に立ち、多くの人が救われる道を選択できるかどうかは、会員の皆さんにかかっています。ぜひ周りの非会員に入会を呼びかけ、JSAの企画に参加して下さい。

日本科学者会議東京支部つうしん No.662(2022.12.10)

わたしたちの「コモン」を取り戻そう!
- 神宮外苑地区巨大再開発を市民の手に
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中島明子(居住学)

 11 月末、明治神宮外苑の黄金色に輝く円錐 形のイチョウ並木はそれはそれは見事だ。平 日でも道に溢れる人々が訪れ、外国人も多い。 そのイチョウ並木が危機にさらされている。 昨年 12 月に神宮外苑一帯の巨大開発計画が 明らかになり、計画は 2021 年の東京オリンピ ック前から準備され、計画されていたことも わかってきた。そして、今年1月に日本イコモ ス国内委員会石井幹子中央大学研究開発機構 教授の調査で、創建以来の樹齢 100 年を超す 木々約 900 本も伐採・移植されることが判明 し、人々に衝撃を与えた。
 開発事業者は三井不動産、明治神宮・JSC(日 本スポーツ振興センター)・伊藤忠商事で、三 井不動産以外が土地所有者である。
 事業者も当初から聖徳絵画館から南方向に 伸びる4列のイチョウ並木は「残す」と言って いたが、計画では、その西側 8m 弱のところに 新築される野球場が迫り、イチョウ並木への 生育に悪影響を与える恐れがあるという。専 門家をはじめ東京都知事の諮問機関である環 境影響評価審議会でも指摘されている。
 こうした動きに対して、重要な論点が揃い 始めた。1つは前述した日本イコモス。力点を 緑地の保全に置き調査に基づく代替え案を通 して樹木の保全を提案している。2 つめは、新 建築家技術者集団(新建)東京支部。都市計画 の規制緩和、容積率緩和・移転、公園まちづく り計画制度等の問題を指摘し、住民参画で「創 建当時の近代的公園の再生と神宮球場、秩父 宮ラグビー場の現在地でのリニューアル整備」を提言している。
 重要な視点としては、「(都市)開発」と「脱 炭素社会」の関係がある。新建も参加した日本 建築学会での脱炭素社会に関する公開研究会 では、巨大再開発による公園と緑の縮小はも とより、歴史的文化遺産でもある神宮球場、秩 父宮ラグビー場を取壊し、規制緩和で 190、185、 80m の超高層建築の建設を行うことは、大量 の CO2 を発生させ、脱炭素社会推進とは全く 逆行することが指摘された。
 パリではイダルゴ市長の下で 2024 年パリ・ オリンピックに向けた名所の緑化計画をはじ め、2030 年を目標にパリの大規模緑化計画が 進行している。これとはあまりにも対象的で ある。
 重要なのはこの理不尽な巨大開発計画につ いてもっと多くの市民が知ること。「神宮外苑 を守る有志ネット」やコンサルタントのロッ シェル・カップさんや若者らが、署名をはじめ、 当初から精力的に活動を展開してきた。
 注目すべきは、11 月 30 日に「神宮外苑の自 然と歴史・文化を守る超党派の国会議員連盟 が設立された。事業者と東京都に大幅な見直 しを求めるという。追い風が吹いてきた。
 この神宮外苑の巨大再開発の見直しを求め る闘いは、都心に残された貴重な空間を、商業 主義空間に変貌させることに抗する闘いであ る。市民が人間らしく生きるために休養し、憩 い、集い、健康に暮らす “空間”を、市民の イニシアチブで再生する闘いでもある。
 言い換えれば、巨大都市東京において、資本主義の横暴によって解体されようとする私たちの「コモン」を、市民が自由に主体的に使う「コモン」として取り戻し、心地よい東京にしてゆく、大きな闘いでもあるだろう。

日本科学者会議東京支部つうしん No.661(2022.11.10)

円安・物価上昇と経済政策の課題
村上研一(中央大学分会・経済学)

 10 月より食料品など多くの製品が値上げされ、物価上昇が実感されるようになっている。但し、日本の物価上昇は円安による輸入品価格上昇を主因とするもので、内需拡大と賃金上昇を主因とする米国など諸外国とは大きく様相を異にしている。円安を招いている要因は、「アベノミクス」の金融緩和に由来する低金利の継続と、貿易赤字の拡大である。

 金融緩和とは、日銀が国債を購入し、その代金として市中銀行に対して資金供給することである。「アベノミクス」の金融緩和を通じて、巨額の財政赤字のために大量発行された国債を日銀が大量に買い続け、今日ではその過半を保有する事態となっている。仮に日銀が金融引締めに転じれば、最大の国債保有主体が国債売りを行うことになり、国債価格の急激な低下を招き、金利の高騰を通じて景気悪化につながるばかりでなく、日銀保有資産の目減り、政府の利払い額の増加による財政破綻も懸念される。したがって日銀としては、国債価格低下を避けるために巨額の国債を買い続ける金融緩和を続けるしかない状況にある。

 国はじめ各国がインフレ抑制をはかり利上げに転じる中で、金融緩和を続けて低金利のままの日本から、高金利の海外への資金流出が止まらず、円安が進行している。なお、物価上昇による実質所得低下に対して、人々の生活を守るために国債発行を財源に低所得者支援策を主張する向きもあるが、国債発行高の拡大は、上記の理由で金融緩和の継続を必要とし、さらなる円安と物価高に帰結しかねない悪手であると考えられる。こうした財政支出を行う場合には、高所得者層への課税など財源を手当てすることが不可欠である。

 一方、2010 年代には貿易赤字が常態化し、2022 年 8 月には単月として過去最大の 2.8 兆円まで赤字が拡大している。新自由主義的政策とそれに影響された企業経営・「財務の経営」によって日本産業の国際競争力は衰退し(この点については、支え合う社会研究会編『資本主義を改革する経済政策』かもがわ出版、2021年を参照)、電機や自動車などかつての輸出産業の貿易黒字が縮小する一方、以前から輸入に依存してきた鉱物性燃料や農産物のみならず、日常生活を支える様々な消費財でも輸入品が浸透している。

 筆者は本「つうしん」2022 年 3 月号巻頭言でも警鐘を鳴らしたが、現状の日本産業の供給力衰退に鑑みると、人々の生活を支援するための所得再分配策が輸入消費財の購入拡大を通じて貿易赤字の拡大につながり、さらなる円安と物価高に帰結することが懸念される。今日の状況下で人々の生活を守るためには、公正な所得分配・再分配を実現するだけでなく、エネルギーや食料などを中心に国内供給力の再建・拡充をはかっていくことが不可避である。

日本科学者会議東京支部つうしん No.660(2022.10.10)

「新時代沖縄」のその先へ
秋山道宏(沖縄支部、社会学・沖縄戦後史)

 さる9月11日に行われた沖縄県知事選挙では、6万票以上の大差で、「オール沖縄」の推す玉城デニー氏が再選した。2014年の翁長(おなが)雄志氏の当選以来、「オール沖縄」は三連勝となる。今回の選挙は、現職のデニー氏に対し、前回選挙にも出馬し、自公の組織的なバックアップを得た佐喜眞(さきま)淳氏と、元国会議員の下地(しもじ)幹郎氏の三つ巴の構図であった。前回に引き続きデニー氏は「誰ひとり取り残さない沖縄らしい社会へ」や「新時代沖縄」をキャッチフレーズに掲げ、辺野古新基地建設反対を正面から打ち出した。今回の選挙結果は、その方向性が、多くの県民から改めて支持されたかたちとなった。
 ただ、昨年秋から「選挙イヤー」に入っていた沖縄において、辺野古新基地建設への反対を掲げる「オール沖縄」の旗色は悪かった。前哨戦とされた2021年10月の衆議院議員選挙では議席を分け合い(「オール沖縄」2議席(1減)、自民2議席(1増))、翌年1月の名護、南城市長選挙においては「オール沖縄」の候補が相次いで敗れた。そして、直近7月の参議院議員選挙では、「オール沖縄」で現職の伊波洋一氏が辛くも勝利したものの、知名度も高くない古謝玄太氏(官僚出身)に3,000票以内の差まで詰め寄られた。この選挙では、自公の推す古謝陣営が辺野古新基地建設の「容認」を公にし、38歳という若さと経済振興を全面に出した点に、それまでとは異なる特徴があった。
 これらの選挙結果は、デニー県政1期目の途中で経済界から「オール沖縄」を支えていた企業グループが離れ、また、2020年以降、難しいコロナ対応や沖縄振興予算の減額も突きつけられるなかのものであり、メディアなどでは「オール沖縄」の弱体化も繰り返し語られていた。
 では、このような「オール沖縄」の旗色の悪さのなか、なぜ、6万票以上の大差がついたのだろうか。なによりもまず先に指摘しておくべきは、辺野古の新基地建設反対の民意が根強いものであり、それが改めて示された点であろう。出口調査(マスコミ7社)の結果でも、反対が52.7%と、賛成の42.96%を10%近く上回っており、基地問題を投票において重視した者の約78%がデニー氏に投票している(『沖縄タイムス』2022年9月12日付)。
 加えて、2018年の前回選挙でも現れていた自公離れの傾向が、三つ巴となった保守分裂の状況や、「統一教会」問題に対する根強い批判とも相まって、顕著だった点も重要であろう。今回は、自民支持層の約23%がデニー氏に投票し(前回24%)、公明支持層にいたっては3割を超えていた(前回27%、前回結果は『琉球新報』2018年10月1日付)。実際、強い組織力と選挙での動員力をもつ創価学会の動きも鈍かったようで(地元紙記者より)、建設業界をはじめとする経済界も2000年代半ば以降求心力を失っている*。
 一方で、デニー氏再選を下支えしたのは、先日3,000日を迎えた辺野古での座り込みの粘り強い継続に加え、統一地方選も重なるなか、若い世代を含めた地域での無数の取り組みであったと言える。ただ、「誰ひとり取り残さない」という目標からすると、デニー県政の直面する課題は多い。問題化しているヘイトスピーチへの規制条例は制定の道半ばであり、また、若い世代は厳しい労働環境のもとで貧困にもさらされている(出口調査の結果でも20?30代の多くが「経済活性化」を重視し佐喜眞氏に投票)。「新時代沖縄」のその先が、若い世代を含めたより多くにとって「生きやすい」社会を創りだせるのかが問われている。
*「オール沖縄」と経済界の関わりは、企業グループの離脱だけに目を奪われず、長期的な視野で見る必要がある。この点については、2018年10月のネット記事(OKIRON/オキロン)「「新時代沖縄」を経済界の変化から読み解く」)も参照のこと。

日本科学者会議東京支部つうしん No.659(2022.9.10)

安倍元首相の国葬についての問題点
植野妙実子 (中央大学名誉教授)

 2022 年 7 月 8 日、安倍晋三元首相が選挙応 援演説中に銃撃され亡くなった。このような銃撃行為はあってはならないことで、民主主 義の根幹を揺るがすものである。しかし、結果は思わぬ方向へと動き、政治家と宗教法人「世 界平和統一家庭連合(旧統一教会)」との関係が明らかになってきて、選挙のためなら何が なんでも勝ちたいという、信念も理念も国民 のための政策もない政治家の在り方に唖然と するばかりである。また恥ずかしながら、原理研究会、勝共連合、統一教会のつながりを今回 の件で初めて知った。名称を変更したことも知らなかった。
 ところで、安倍元首相の国葬を 9 月 27 日に 武道館で執り行うという。そのことを政府は 7 月 22 日に閣議決定した。岸田首相が葬儀委員 長を務め、それにかかる経費は国費で賄うとしている。
 問題は、第一に、国葬の法的根拠は何かであ る。国葬令は1947年に、日本国憲法の施行に 伴い、失効している。1967 年に吉田茂元首相 の国葬が営まれたが、戦後の復興に尽くした との理由で、当時の佐藤栄作首相の強い意向 で閣議決定されたが、法的根拠はなかった。そ のため、反対運動も起きた。1975 年の佐藤栄 作元首相の場合は国民葬という形をとったが、 その他の歴代首相の葬儀は概ね内閣と自民党 などとの合同葬で営まれている。
政府は今回の根拠のない国葬を、内閣府設 置法 4 条 3 項 33 号で内閣府の所掌事務とされ ている「国の儀式」として閣議決定すれば実現可能と解釈した。しかしそもそも内閣府設置 法は内閣府の所掌事務を定めたものにすぎな い。その「国の儀式」に元首相の国葬が含まれ るという根拠はない。こうした法的根拠のみ ならず、誰が主宰するのか、費用はどこが持つ のか、も大きな問題になる。ちなみに天皇の逝 去の際の大喪の礼は皇室典範 25 条に定められ ており、憲法 7 条 10 号は天皇が内閣の助言と 承認により国事行為として「儀式を行ふこと」 が定められている。
 第二に、安倍元首相を国葬とすることが相 応しいのか、国葬とすることによる影響力も 問題となる。政府は国葬とする理由として、在 任 8 年 8 ヶ月は憲政史上最長であり、大きな 功績がある、国際社会からも高い評価を受け ている、選挙期間中に銃撃でなくなり国内外 から哀悼の意が寄せられている、などをあげ ている。しかし他方で安倍元首相のもとで、モ リ・カケ・サクラ問題などの金銭疑惑が浮上し、 解明されていない。1度目の任期期間中に教育 基本法の全面改正を行い、教育基本法のそも そもの意義を失わせている。防衛庁の省への 昇格も図った。2 度目の任期期間中には憲法違 反が疑われる組織犯罪法における共謀罪の設 定や、集団的自衛権行使につながる安全保障 関連法の成立など立憲主義の理念に反するこ とを行なってきた。記憶に新しいところでは、 法的根拠のないコロナ禍における全国一斉休 校要請も行なっている。1 度目も 2 度目も任期 途中で病気を理由に職務を放り出し、多くの 疑惑に正面から答えようとはしなかった。こうしたことを見ると格段の功績があったとは 言えない。
 国葬は、国民に弔意を示すことを強制する 面がある。したがって、憲法 19 条の内心の自 由に違反する。また葬儀はなんらかの宗教に関わることがあり、国が葬儀を行うことは 20 条の信教の自由や政教分離原則に違反する可 能性がある。さらに、国民の税金を投入すると なれば、事前に国会での審議もなく、83 条の 財政民主主義に反する。曖昧な基準で行われ る目眩しの国葬は許されないことである。

日本科学者会議東京支部つうしん No.658(2022.8.10)

アジアと日本を「明日のウクライナ」にしないためには?
栗田禎子(千葉大学/歴史学)

 ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵略が開始されてから数か月、世界史の展望に暗雲が垂れこめたような不安と失望、危機感を、誰もが感じている。
 歴史的・文化的に近しく、かつては同じソ連市民だったロシアとウクライナの人々が殺し合うなどという事態が、いったいなぜ生じてしまったのか?――「冷戦」体制が崩壊した1990年代初頭、歴史家の中には、「社会主義」終焉後の旧ソ連・東欧圏で将来民族紛争が多発することを危惧する声――社会主義という建前が崩れ、プロレタリアの連帯といった普遍主義的な理念が失われれば、偏狭な民族主義が台頭し、細分化された(場合によっては半ば人為的に作り出され、外部の力によって操作された)「民族」間での対立が激化するのではないかという指摘――があったが、巨視的に見れば今ロシアとウクライナの間で起きていることは、この不幸な予言の的中と言えるのかもしれない。かつて社会主義の理想を掲げていた人々が、今や分断され、対立して流血を繰り広げている姿は悲劇的である。
 同時にウクライナ戦争の過程では、現在のヨーロッパの政治・外交のあり方の問題点も明らかになった。欧米諸国は今回の危機を平和的手段で解決する努力を早々と放棄し、ウクライナへの大規模軍事支援に着手した。さらにスウェーデン、フィンランドはウクライナ危機を契機に従来の外交・安保政策を大幅に転換し、NATO(北大西洋条約機構)への加盟申請に踏み切ったのである。こうした対応は、二度の大戦を経て培われてきたはずのヨーロッパの外交や平和主義の、意外なまでの「底の浅さ」を露呈している。米国防長官の発言(=「戦争目的はロシアの弱体化」)が示唆するように、欧米諸国はこの戦争を終わらせることに実は関心を持っておらず、交戦当事国への大規模な武器供与を続けることで、むしろ戦争を長引かせているように見えるのである。戦争の原因を作り出したのがロシアなのかあるいは(プーチン政権が主張するように)冷戦後も拡大を続けたNATOなのかをめぐっては解釈が分かれるが、少なくともウクライナをめぐる一連の対応は、欧米政界に好戦勢力が存在すること、そしてその勢力は――おそらく国際的な軍需産業の動向とも連動して――今回の危機を契機に軍事支出の飛躍的増大、軍事同盟の拡大・強化を狙っていることを示している。
 日本政府は今回の事態に対し欧米と完全に共同歩調をとり、さらに岸田首相は「今日のウクライナは明日のアジアかもしれない」として「中国脅威論」を国際的に煽る形で、日米同盟の強化、NATOとの連携推進に乗り出している。危機に便乗して軍事費を倍増させ、「反撃能力」(=実は「先制攻撃能力」)の保持を正当化し、さらには与党の宿願である憲法改悪(「自衛隊明記」による9条改憲)を果たそうという姿勢も露骨である。だがヨーロッパの危機とアジアの情勢とを「リンケージ」させようとするこのような動きは、実は逆にアジアにおける緊張を高め、危機を招き寄せる危険なゲームである。今われわれに求められるのは、むしろヨーロッパを「反面教師」とし、戦争を煽り軍拡を推し進めようとする好戦勢力の思惑を見破って、アジアにおける対話と平和共存の道を冷静に探っていくことだろう。そのための最大の拠り所は平和憲法にほかならない。

日本科学者会議東京支部つうしん No.657(2022.7.10)

現代日本の低賃金構造を打破する 全国一律での時給 1500 円への引き上げを
米田 貢(個人会員、経済学)

 学費や生活費を稼ぐためにバイト漬けの生 活を送る学生、初職から不安定で時間給 800 円 台の仕事を転々と渡り歩く若者、子供を抱え ながら早朝から深夜までいくつもの職場を掛 け持ちするシングルマザー、無年金・低年金で あるがゆえに死ぬまで働き続けなければなら ない高齢者。70 年代までの高度経済成長、貿 易・経済大国化の 80 年代を謳歌した現代日本 は今貧困に喘いでいる。東京で 1050 円の時間 給で正規雇用労働者並みに 1 日 8 時間、週 40 時間働いても月 16 万 8 千円、年 201 万6千 円、フルタイム働くことができる「恵まれた」 環境にある非正規雇用労働者(以下非正規労 働者)の賃金は、最大限でも 200 万円水準で しかない。年収 200 万円未満の労働者が全労 働者の 2 割を超えるこの過酷な現実は、1980 年代半ば以降財界・政府が推進した労働力流 動化政策によって、非正規労働者が 2000 万人 を超えた(全労働者の約 38%)ことの帰結で ある。全労連の聞き取りに基づく生計費調査 では、25 歳単身者の最低生計費は「常識」と は異なり都市部と地方とで大きな差はない (税込みで 22 万円~24 万円水準)。都市部の 住居費の高さと地方の交通費の高さ(車の所 有に伴う)とが拮抗する。全国のどこに住もう とも健康で文化的な最低限度の生活(最賃法 9 条)を確保するには時間給で 1500 円、月給で 24 万円の賃金が必要不可欠なのである。

 資本主義経済では生活や生産に必要な財・ サービスのほとんどが、商品として売買され る。すなわち商品と貨幣とが交換されている。
 この市場経済の根本的なルールは、商品の 価値通りの交換である。商品の価値は、一般に その社会的な再生産費、その生産に必要な社 会的必要労働時間によって決まる。労働力商 品は一般商品の場合とは異なり、労働能力が 生身の人間に備わっているがゆえに、その価 値は労働者自身の再生産費、それゆえ労働者 が普通に暮らし毎日仕事に出かけることを可 能にする生活手段の総体の価値でなければな らない。先の 25 歳単身者の最低生活費(月 22 万円~24 万円)を日本の地域別最低賃金が大 きく下回っている現状(2021 年の答申額で時 給 792 円~1041 円)は、現代日本では労働力 商品が不当に買いたたかれ、賃金が労働力商 品の価値以下に抑え込まれていることを示し ている。
 日本のグローバル企業・財界・政府が推進し てきた労働力流動化政策は、賃金労働者を生 身の人間としてではなく、あたかも原材料す なわちモノであるかのように扱い、必要な時 に必要なだけ利用する雇用政策であった。日 本の大企業・財界に労働者の基本的人権を尊 重させ、労働力商品市場(労働市場ではない) で不等価交換を許さない闘いは、1500 円の全 国一律の最低賃金の実現から始まる。 政府は、その実現が困難な中小零細企業に 対して、必要な財政的支援措置を取るべきで あり、それこそが社会の消費力に勢いを取り 戻し、国民経済の長期停滞を打破する有効な 手段となる。

日本科学者会議東京支部つうしん No.656(2022.6.10)

民間企業の経済活動を「中国包囲網」に組み込む経済安保法
本田浩邦(獨協大学)

 経済安保法が 5 月 10 日の参院内閣委員会で 自民、公明、立民、維新、国民の賛成で可決さ れた。反対を表明したのは日本共産党とれい わ新選組のみであった。

 この法律は、アメリカがこの間、軍事・経済 の両面で推し進めてきた中国包囲網の一環に 日本の企業活動と技術開発を組み込もうとす るものである。
 この法律は、「重要物資」とされるものの研究、開発、生産および流通を国家主導で確保し、さらに先端技術や軍事転用可能な技術や重要情報の流出を防ぐことを目的としている。ま た、基幹インフラ(交通、通信、発電など)が海外からの妨害手段として利用されないよう、事業者は設備導入や更新の際に納品業者・委 託業者等を事前に届け出ねばならず、政府は それに対して審査・勧告・命令することができ る。つまり、安全保障の名目で、企業活動や研 究成果の是非を政府が事前もしくは事後的に 判断し、企業への監視・介入が可能となる。
 昨年、無料通信アプリ LINE の利用者の個 人情報が中国の関連会社から閲覧可能になっ ていたことが明らかになり、LINE の親会社で ある Z ホールディングスとさらにその親会社 ソフトバンクの責任が問題とされた。類似の ケースは中国と無数の契約関係を持つ多くの 日本企業にとって起こりえることであり、し たがってこの法律には経済界からも強い懸念 が表明されている。
 政府による「重要物資」の安定供給といえば、戦前からの苦い歴史がある。日本は日中戦争 開始後から統制経済に傾斜し、1938 年の国家 総動員法以降ほぼすべての資源、資本、労働力、 貿易、運輸、通信等に国家統制を加えた。企業 は原材料調達のためだけにも政府の意向に配 慮し、政府の戦争政策に従わざるをえなくな った。玩具会社は鉄やプラスチックを得るた めに戦闘機のおもちゃをつくり、キャラメル 会社は建民健兵、国威発揚をうたい材料を得た。今回の経済安保法も、運用次第では、研究の自由な発展を阻害するのみならず、気がつけば民間企業の経済活動がアメリカのアジア太平洋戦略に深く組み込まれているといったことになりかねない。
 非常時の基礎的生活物資の安定供給確保はもちろん政府の重要な役割である。しかしそれは仮想敵を設けたり、統制的手法を用いて行われるべきものではない。食料やエネルギーなど基礎的生活物資の自給率を高め、隣国との友好関係を保持することこそ必要である。軍事転用可能な技術の流出のおそれについては、そもそも軍事転用を推し進めてきたのは政府自身であることをまず厳しく反省し、技術の開発から応用まで平和目的に限定することをあらゆる段階で徹底すべきである。サイバー攻撃への対処もいわれているが、そのためにこうした法律が必要とは考えられない。経済活動と研究開発を軍事目的に歪めるこの法律を厳しく監視し、廃止に追い込むべきである。

日本科学者会議東京支部つうしん No.655(2022.5.10)

試練の中の日本国憲法
志田陽子(武蔵野美術大学造形学部教授)

ウクライナ侵略戦争は、いまだ先が見えず、この機に乗じて、憲法改悪、「核共有」論などが出てきており、改めて憲法九条の意義が試されている。

 2022年は、日本国憲法の存在意義が問われる試練の年となった。一部の人は核保有・核共有・敵基地攻撃能力(名称変更となる見込み)を含めた軍事安全保障の強化と憲法改正に向けた「議論を」と言う。議論には、自由な言論環境が必要だ。
 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、「表現の自由」について意識する機会が増えた。衝撃的な出来事をめぐって当事国双方の主張が異なり、「フェイクか、真実か」が問われ、またロシアが軍事侵攻後にSNSを遮断し、虚偽情報への刑事罰を定めた法改正を行ったことが、世界中のメディアでも大きく取り上げられている。
 今、日本では、プーチンのロシアを「悪」と見て非難し、ゼレンスキーのウクライナと連帯する、というムードが圧倒的に優勢である。筆者も、軍事侵攻によって民間人の命を犠牲にすることは、どんな背景事情があるにしても許容されないと思う。しかし、他者が「悪」で自分が正しい、という構図に立って他者を指弾できてしまうときこそ、立ち止まってみる必要がある。
 今、私たちは、ロシアの反戦デモ参加者が警察官に拘束される様子やメディア関係者が活動中止に追い込まれる様子に心を痛め、「表現の自由」の大切さを痛感している。翻って、「日本は自由で安心だ」、と言えるだろうか。
 今の日本や欧米諸国では、このようなあからさまな言論統制よりも、もっとわかりにくい形での誘導が進むことを問題視する必要がある。資金力のある政治団体や企業が一方方向のCMを大量に流して世論を誘導するような手法である。憲法改正国民投票のCM規制の議論は、このことを配慮した議論だ。
 また、日本の報道の自由度は極度に低いことが、2017年に国連の特別報告者によっても指摘されていた。防衛省が、自衛隊が対処すべき「グレーゾーン事態」の内容として「反戦デモ」を挙げていたことも明らかになっている。ある候補者の選挙演説中に、法的には許容範囲内のヤジ発言をした一般市民が警察官から排除された事件も、現在裁判として道の控訴により係争中である。芸術や歴史研究の分野でも、「表現の不自由」問題が次々と繰り返されてきた。日本学術会議任命拒否問題では、日本の採るべき道について緻密な検討を行い政府に辛口の諫言のできる専門家が排除され、規範、倫理、良心の問題と向き合う科学者の声が、政策議論に届きにくい外野に置かれるようになっている。日本の社会では、これらを特殊な人々の《世渡り失敗例》のように語る向きもあるが、しかし、これが社会全体を覆えば、現在のロシアの「不自由」状況と変わらなくなる。
 私たちは今、自分たちの社会を映す鏡を見ている。安全保障や憲法改正、学術のあり方について「議論」をするのであれば、そのことに気づくところからはじめなくてはならない。それのできる人々、倫理や良心を切り落とすことのできない科学者こそが、世界を破滅ではない道に軌道修正する叡智を生み出せるのだと信じている。

日本科学者会議東京支部つうしん No.654(2022.4.10)

声明 ロシアの武力侵略と核兵器使用の策動に強く抗議し、平和な世界の構築を損なうあらゆる策動に反対します
2022 年 3 月 17 日 日本科学者会議東京支部常任幹事会

 2022 年 2 月 24 日、ロシア軍はウクライナ共和国への理不尽な軍事侵略を開始しました。
 ウクライナの各地では、兵士のみならず、子 どもを含む多くの市民の命―かけがいの無い 命が、刻々と奪われています。さらにプーチン ロシア大統領は、核兵器の使用さえ示唆するという、人類の存続すら危険にさらす策動さ えみせています。これらは、人々が過去多くの 犠牲を払って平和を求めて築いてきた国際法 への明白な違反であり、自ら常任理事国である国際連合の憲章に反するものです。
 同時に、この機に乗じて、日本国内では憲法 を改悪する動きが強まり、2 月 27 日の TV 番 組では、安倍元首相が日本の「非核三原則」に 反する「核共有」を示唆する発言を行いました。 唯一の被爆国に生きる私たちは平和を希求する道に逆行するこれらの動きを断じて許すことはできません。
 日本科学者会議東京支部は、1965 年の創立 以来、一貫して日本の科学の自主的・総合的な 発展を願い、科学者としての社会的責任を果 たすため、核兵器の廃絶を含む平和・軍縮の課 題、環境を保全し人間のいのちとくらしを守 る課題に取り組んできました。 私たちは、今、ロシアのウクライナへの侵略 に抗議し、日本国内はもとより、ロシア国内で 侵略に反対する勇気ある人々、そして世界の 平和を求める全ての人々と連帯し、ロシア軍 が一刻も早く攻撃を中止し、ウクライナから 撤退し、平和な世界の構築に向かうことを強 く求めます。
                                March 17, 2022
Statement.
We strongly protest Russia's armed invasion and its suggestion to use nuclear weapons and oppose all the measures that would undermine the building of a peaceful world.
Executive Board Meeting, Tokyo Branch, Japan Scientists Association (JSA)
On February 24, 2022, Russian military forces launched an unreasonable military invasion into the Republic of Ukraine.
In various parts of Ukraine, not only soldiers but also many civilians, including children, are losing their lives - their irreplaceable lives - every minute. Furthermore, Russian President Vladimir Putin has even suggested the use of nuclear weapons, a move that could endanger the very survival of the human race. This is a clear violation of international law, for which people have sacrificed so much in the past in pursuit of peace, and violates the Charter of the United Nations, of which Russia is a permanent member.
At the same time, taking advantage of this opportunity, there is a growing movement in Japan to revise the Constitution, and on February 27, former Prime Minister Abe made a statement on a TV program suggesting [nuclear sharing] which violates Japan's [three non-nuclear principles]. Living in the only country to have experienced the atomic bombings, we cannot allow these moves contrary to the path of pursuing peace.
Since its founding in 1965, the Tokyo Branch of JSA has consistently worked for independent and comprehensive developments of science in Japan. To fulfill our social responsibility as scientists, we have addressed issues of peace and disarmament, including the abolition of nuclear weapons, preservation of the environment and protection of human life and livelihood. We now protest Russia's invasion into Ukraine, and in solidarity with the courageous people in Japan and in Russia who oppose the aggression, as well as with all those who seek peace in the world, we strongly demand that the Russian military cease its aggression immediately, withdraw from Ukraine, and work instead toward building a peaceful world.

日本科学者会議東京支部つうしん No.653(2022.3.10)

「新自由主義からの転換」をめぐって
村上 研一(中央大学商学部教授)

 岸田政権が「新しい資本主義」を掲げた。し かし、金融所得課税にも、大企業の過剰貯蓄に も手を付けられず、公正な再分配の実現は期 待できそうにない。但し、「新自由主義からの 転換」の必要性が多くの人々に共有されるよ うになったことは重要な変化である。
 昨今の「新自由主義からの転換」をめぐる議 論では、「成長か、分配か」が一つの争点であ る。20 年以上に渡る新自由主義的政策によっ て、雇用の破壊、福祉や地方の切捨てを通じて、 格差・貧困と内需縮小を招いたことは明白で、 再分配の強化は喫急の課題である。しかし、新 自由主義によって破壊されたのは雇用と人々 の生活、経済の需要面だけであろうか。
 1970 年代末の英米両国を起源とする新自由 主義は、スタグフレーション下の企業が「収益 性危機」に陥る中で、独占資本を中心に企業の 収益性追求を最優先し、これを阻害する諸要 因の除去を志向したものと捉えられる。とり わけ企業経営においては、短期的な収益性を 基準とする ROE や株価などを重視する会計制 度・会社制度が導入されてきた。新自由主義の 下、短期的視点から「今、儲ける」ことに注力 する「財務の経営」が一般化してきた。
 もちろん「今、儲ける」経営が、非正規雇用 の拡大など労働条件の悪化を招いたことは言 うまでもない。一方で「今、儲ける」経営では、 中長期的に意義を持つ技術開発、技術・ノウハ ウを継承してきた長期的雇用が軽視される。 小泉政権下では、短期的収益性に基づいて不 良債権処理が強行され、不採算部門の分社化や売却、人員整理を通じて外国企業への技術 流出、産業競争力の低下につながった。さらに、 原発・火発など既存資産の除却を防ぐための 再稼働が目的化して再エネ普及が阻害される など、「今、儲ける」経営は既得権益を守る一 方、技術進歩や産業転換の足枷となった。「今、 儲ける」「財務の経営」が日本産業の競争力・ 供給力を奪ってきた帰結が、2010 年代の貿易 赤字である(日本経済の現状については、支え 合う社会研究会編『資本主義を改革する経済 政策』かもがわ出版、2021 年を参照)。
 供給力が弱体化した現在の日本では、「新自 由主義からの転換」として再分配の強化のみ が実施された場合、貿易赤字と円安・インフレ が進むことが危惧される。昨年秋以降、世界的 インフレが進む中で、「アベノミクス」の負の 遺産である巨額の日銀保有国債の存在が日銀 の金融引き締めを阻んでおり、物価上昇が顕 在化しつつある。人々の生活の安定のために は、再分配の強化とともに、国内供給力の再建 が課題となるが、「今、儲ける」経営・「財務の 経営」にはこうした課題を委ねられ得ない。再 エネを軸とした地域循環経済を実現している 欧州の先進事例では国有企業、自治体公社、協 同組合などの役割が高まっている。「新自由主 義からの転換」に関しては、生産関係の変革、 さらには生産手段の私的所有の見直し、すな わち資本主義自体の改革が展望されるべき局 面に立ち至っているものと思われる。

日本科学者会議東京支部つうしん No.652(2022.2.10)

日本学術会議会員候補の任命を求めるアピールへの賛同署名を集めよう
多羅尾光徳 (日本科学者会議学術体制部長)

 JSA全国幹事会は昨年末、「6人の日本学術 会議会員候補をすみやかに任命することと、 日本学術会議法を「改正」しないことを求め るアピール」(以下「アピール」)を採択し ました。この「アピール」を多くの人の意思 として岸田首相に伝えるために、賛同する 方々の署名を現在、集めています。
 「アピール」は岸田首相に対して3つのことを求めています。
 1つは、菅・前首相が任命を拒否した6人の任命拒否をただちに撤回し、すみやかに任 命することです。首相による任命拒否は日本 学術会議法の主旨に違反しているだけでな く、定員不足となっている学術会議の運営に 対しても制約をきたしています。
 2つ目は、任命拒否した理由を説明することです。公正で透明性のある政治には説明責 任が欠かせません。とりわけ行政の長たる首 相には説明責任がもっとも求められます。しかるに、首相はいまだその責任を果たそうと していません。しかも、持続可能な開発目標 (SDGs)はそのターゲット16.6で「あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる」(外務省仮 訳)としています。SDGs推進本部長たる首相 の姿勢は、自らが実現の先頭に立つSDGsの理 念に反しています。
 3つ目は、日本学術会議法の「改正」を行 わないことです。総合科学技術・イノベーシ ョン会議内に設置された「日本学術会議の在 り方に関する政策討議」では、学術会議の組織を変質させる議論がおこなわれており、さきごろ「とりまとめ(案)」が発表されました。今回の任命拒否を反省するどころか、学術会議自体に問題があるかのように言い、学術会議の政府からの独立性を否定し、基本的性格を変質させる法「改正」に道を開くものです。法律を無視した行政運営をおこない、 都合が悪くなると「法律が悪い」とばかりに法律を変えようとする。改憲の発想と根は同じの、およそ法治国家ではあるまじきこの低レベルな行いを許してはなりません。
 任命拒否事件から1年半近くが経過し、「もう過ぎたこと」「言ってもしょうがない」というあきらめの雰囲気があるように思 えます。しかし、研究者とは、たとえ実現の見通しが低くとも、困難を乗り越えて努力する人々ではないでしょうか。学生にも日々、そのように指導しているのではないでしょうか。任命拒否事件の解決をあきらめずにしつこく求めていくことが科学者の社会的責任で あると考えます。
 署名はJSAのホームページからダウンロードできます。また、電子署名もできるように 検討しています。大学・研究機関に所属している会員は職場の同僚に声をかけてくださ い。組合がある職場では組合の協力を求めてください。大学院生は仲間の院生に呼びかけ てください。退職された会員は元同僚や元職 場の組合に呼びかけてください。
 集めた署名は岸田首相宛に提出します。締め切りは3月31日です。

日本科学者会議東京支部つうしん No.651(2022.1.10)

第 21 回東京科学シンポジウムを開催―会員拡大のきっかけに
佐久間英俊(同シンポ事務局長)・森原康仁(支部組織部長)

 2021 年 11 月 27 日、28 日の両日、支部主 催で第 21 回東京科学シンポジウムが開かれま した。隔年開催の同シンポは今年度最大の支 部企画で、1 年前から準備をしてきました。
 メインテーマは「コロナ危機の時代を生き る―科学・人権・市民的連帯―」で、開会式に 続き特別報告 2 本と、合計 16 の分科会をもち、 予定通りすべての発表が行われました。参加 登録者は非会員も含め約 240 人で 20 万円超 の募金が集まりシンポは大成功しました。実 行委員会よりすべての参加者、募金者にお礼 を申し上げます。
 特別報告では、まず稲葉剛さん(一般社団法 人つくろい東京ファンド代表理事)が「コロナ 禍における生活困窮者支援の現場から」と題 して報告しました。緊急事態宣言でネットカ フェに泊まれなくなった人達や電話相談の電 話代さえ払えない人達など、いまコロナ危機 下の日本で急増する貧困の実態と、稲葉さん が関わる困窮者支援活動などを紹介されまし た。第2報告では志田陽子さん(武蔵野美術大 学)が「コロナと憲法 53 条臨時国会問題」と 題して報告しました。日本国憲法が採る民主 主義は多数決民主主義ではなく少数意見を大 切にする熟議民主主義であること、同 53 条に 基づけば衆参いずれかで 4 分の1以上の要求 があれば政府に臨時国会を召集する義務が生 じるが、歴代政府はそれを無視し続けている ことについて、裁判事例も交えて詳述されま した。
 分科会は、コロナ危機を中心に多様なテーマに分かれて 16 の分科会が開かれ 62 名が発 表しました。それぞれの分科会が 10 名から 50 名ほどの参加者を集め、討論時間を延長した 所もありました。
 今回はコロナ禍に配慮してオンラインで開 催し、参加者は自宅等からアクセスする形を とりました(Zoomを使用、参加費無料)。発 表者の予稿は電子データでダウンロードする 形とし、希望者には冊子を作成し、実費負担で 有料頒布しました。予稿集には若干残部があ りますので、ご希望の方は支部事務局までお 知らせ下さい(送料込で1冊 2500 円)。会場 での開催と比べると、参加者の交流が持ちに くいという弱点があるものの、全国各地から 気軽に参加できる利点がありました。実行委 員会は、全会員参加で市民とともにこのシン ポを成功させようと呼びかけたので、一般市 民も含め多数の非会員も参加しました。
 なお、幹事会では新しくできた結びつきを 生かして会員拡大に繋げたいと考えています。 くりかえし確認してきましたように、会員の 拡大は、会に豊かな多様性をもたらし、既存会 員にとってもきわめて重要な意味を持ちます。 これは JSA が将来においても社会的な役割を 果たしていくうえで大事な点です。今回のシ ンポジウムをきっかけにして、会員拡大のと りくみをさらに強めていきましょう。

日本科学者会議東京支部つうしん No.650(2021.12.10)

コロナ禍における院生の研究・生活の実態と要求
全国大学院生協議会 議長 小島雅史(一橋大学)

 昨年度から続くコロナ禍は社会全体に影を落としているが、大学行政にも多大な影響を与えていることは間違いない。その大学行政のうちにある大学院生の研究もまた例外ではない。
 全国大学院生協議会(全院協)では毎年アンケートを行っているが、その結果、2年間のコロナ禍の間に、「何らかの収入の減少があった割合」が41.9%、「継続的に悪化している人の割合」が20.2%に上ることが明らかになった。つまり、継続する休業措置等により(それに対する休業補償があったにせよ)、院生の家計は圧迫され続けている。
 また、世界各国でCOVID-19新規感染者数が、複数回の拡大・収束期を持ちつつ増え続けており、留学・出入国が困難である事情もうかがえる。留学生への影響はもちろん、日本人院生も、調査ができない、資料が集められないといった深刻な影響を受けている。これらはキャリア形成にもダメージを与え、院生各自が不安を募らせてきた。やれることをやろうとしながらも、この1~2年の研究の進展への焦燥感は、経済的不安と共に心身の不調にも繋がった。
 アンケート調査において、そのほかに注目すべき事項では、教員―院生間、院生同士の間での交流の機会が失われていることが挙げられる。昨年よりオンライン形式での講義やゼミへの対応も行われたが、大学へのアクセスの困難による影響を問う質問では、「院生同士の交流の機会」が失われたと回答した院生の割合は76.7%に上る。コロナ禍以前には、ゼミの前後や研究室での合間の時間での何気ない会話が、実は研究のアイデアを生み、指導の場となり、有益な情報を得られる場として機能し、研究者共同体の豊かさを支えてきた営みであることを実感させられた。
 以上のような状況において我々は何を求め、何を成すべきか。やはり第一は院生を対象にした基礎的・継続的支援である。様々な大学「改革」が強行される中、院生は支援の対象外とされる機会が多く、コロナ禍以前より困窮状態に置かれがちであったし、安定した研究環境の整備は常に要求の一番手である。他方で、我々はオンラインでの研究の時期を経験した。感染状況の今後は不明確だが、対面での密度の高い交流を復活させつつ、感染に不安を覚える院生や、遠方の研究者とのやり取りにおける利便性などを加味し、これまで以上のネットワーク構築を図る必要もあるだろう。とはいえ、各自の「自助」が強いられた点は決して看過できない。
 総じてコロナ禍は各大学の貧困状況をも露わにした。「選択と集中」により各人に細やかな対応を行う余裕が各大学から奪われており、院生含む大学関係者は何とかこの状況を切り抜けるか、あるいは耐えられずに大学を去った者も多いだろう。この2年の苦境こそ、予算増、民主的な大学運営の必要性を感じさせるものに他ならない。

日本科学者会議東京支部つうしん No.649(2021.11.10)

デジタル社会は、自治体の自治を後退させる
都留文科大学講師 安達 智則

 岸田首相は、国民との約束事となる「所信表明」(10月8日)において、「新しい資本主義」によって、新自由主義の弊害を是正する心象を与えた。成長の果実を一部の富裕の人たち、冨が集中している大都市から、中間層の人たちへ、地方へという、果実の移転を述べた。
 その具体化の一つが、デジタル社会の実現に他ならない。9月からは、新しい国家組織としてデジタル庁は動き出している。所信表明では、成長戦略の一つとして「地方を活性化し、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』です」と打ち上げた。
○ 東京集中は岸田政権では、止まらない
 もっぱら、デジタル社会を地方活性化・地方の成長と位置づけているために、住まいや交通問題(道路建設・都心低飛行運行等)の基本的な都市問題としての東京集中を解決することは、岸田政権の枠外になっている。
 丸の内・六本木・渋谷・新宿、それに中野駅周辺の都市再開発は、止まることなく継続されていくことになる。東京の都市成長は、民間資本の活動の自由で行う。地方都市は、政府のデジタル社会のための財政の公共投資もフル活用して、成長路線に乗せていく。
 しかし地方分権・地方創生などを繰り出してきたが、東京集中を止めることはできなかった。2000年以降、新自由主義は都市政策・自治体政策を覆い尽くした。地域間格差、所得格差は縮小ではなく拡大した事実がある。岸田政権は、はじめから「デジタル社会は地方から」としているのだから、東京集中は、野放しになる。
○ デジタル社会の実現は、自治体デジタル化を必要条件とする
 自治体は、住民記録・税金・健康・介護・子どもなどのデータ処理は、部署でバラバラに進行してきた。メーカーもバラバラ。自治体のデジタル化は、そのバラバラ状態を大変革する戦略である。バラバラ状態を全国一律の情報システムに変化させれば、国家及び資本は、全国の自治体情報を『一つの自治体』として把握することができる。
 デジタル化の自治体の最終形は、『一つの自治体』(デジタル自治体)に情報をすべて統合してしまうことである。スマフォで、すべての申請や税金・保険料の支払いが完結できるデジタル自治体に変化させるのだから役所に行く必要もない。同時に、公務員を「大リストラ」することも可能になる。コンビニの無人化だけではなく、公務労働現場も窓口業務の「無人化」が進むだろう。
 かくして自治体の自治の空洞化に拍車がかかることが、懸念される。住民自治は、どうなるのだろう。自己情報の自己コントロール権はあることになっているものの、公共部門がクラウド化されてしまうと国家と資本の利活用にルートが開発される懸念が高い。そしてプライバシーの保持は、限界的にゼロに近づいていく。
 「便利さだけの社会技術活用は、自治体の本務である、住民福祉の向上増進につながるという確証なくして、導入に際して慎重であらねばならない。国家と闘う自治体、これが地方自治の魅力である。

日本科学者会議東京支部つうしん No.648(2021.10.10)

共闘の力で科学と学術を尊重する新たな政権の樹立を
法政大学名誉教授 五十嵐 仁

 メディアを乗っ取ったようなバカ騒ぎの末に、自民党の総裁選が幕を閉じました。菅首相の突然の不出馬表明、4人の候補者の乱立、派閥の流動化と乱戦、決選投票の果てに、ようやく自民党のトップが決まったのです。結局、総裁に選出されたのは岸田文雄前政調会長でした。
 私総裁選をめぐる一連の動きで明らかになったのは、「安倍支配」の継続です。1年前に辞任した安倍晋三前首相ですが、後継の菅義偉首相を通じて影響力を維持し、今回の総裁選でもその力を見せつけました。米誌『ワシントン・ポスト』も書いていたように、「総裁選の勝者は安倍晋三」だったのです。
 安倍前首相は高市支持を鮮明にしてテコ入れし、岸田氏と河野氏も安倍氏にすり寄りました。「反安倍」の立場を取ってきた石破氏は立候補すらできませんでした。高市支持が急伸したのも、今の自民党がいかに「安倍支配」に毒されているかを示しています。
 安倍前首相が固執していた改憲路線や敵基地攻撃能力の保有などを、4人の候補者全員が受け入れていたことも象徴的です。菅首相による日本学術会議の人事への介入も、元をただせば安倍首相時代から始まっていたことで、菅首相はそれを踏襲したにすぎません。
 このように、今の自民党は「安倍支配」の影に覆われています。新しい首相が選出され「本」の表紙が変わっても、1ページ目には「安倍晋三に捧ぐ」という献辞が出てくるようなものです。「安倍支配」を打ち破るためには「本」そのものを取り換えなければなりません。
 その機会は間もなくやってきます。11月には必ず総選挙が実施されるからです。この機会を逃してはなりません。安倍・菅政治とその「背後霊」に支配されている後継政権を打倒し、論理と倫理に基づき科学と学術を尊重する新しい政権を樹立する必要があります。
 すでに市民連合を仲立ちとした政策合意が野党4党間で結ばれ、市民と野党の共闘に向けての「陣立て」ができました。各選挙区での統一候補の擁立も進み、「一対一の構図」も生まれています。
 とはいえ、情勢は楽観できません。総裁選でのバカ騒ぎと新首相誕生での「ヨイショ」報道で新内閣の支持率は上昇するにちがいありません。菅内閣への批判という「追い風」があった都議選や横浜市長選の時とは状況が一変しています。
 コロナ失政と菅首相による「敵失」をあてにすることはできなくなったのです。野党は「逆風」の中での選挙戦を覚悟する必要があります。どのような状況であっても揺るぎのない共闘態勢を組むことでしか、この「逆風」を跳ね返すことはできません。
 「安倍支配」を打ち破り、国民の声を聞き専門家の意見に耳を傾ける新しい政治を実現しましょう。市民と野党の共闘の力でこそ、それは可能になります。野党連合政権になれば、その最初の閣議で学術会議の6人の会員を任命し直すこともできるのですから。

日本科学者会議東京支部つうしん No.647(2021.9.10)

選択的夫婦別姓についての思い
弁護士 千葉恵子

 私は、パートナーとは現在事実婚である。パートナーとの間には子どもが3人いる。仲が悪い家族ではない、と思う。両親の名字が違う事と家族の絆が弱いこととの関係はない。
 私は現パートナーと法律婚をした事があり、法律婚をした後に銀行に口座を作りに行ったことがある。そこで、「千葉恵子」名義で口座を作りたい、と窓口で話した時、対応した行員が「でも、法律上『千葉恵子』さんはいないんですよね」と言い、その名義での口座は開設出来ない、と言った。え、私っていないの、と思った。今でもその時の事を思い出すと涙がじんわり、出てくる。交渉して何とか口座は作れた。
 司法試験に合格して修習が始まり、課題を提出する際に「千葉恵子」で提出したところ、当初、研修所から認められないと言われた。クラスの教官が尽力してくれて、ようやく認められた。私は、このような事に時間や気持ちが奪われるのが本当に辛くて、悔しかったので、パートナーと法律上の離婚をした。パートナーに受け入れてもらうには少し時間がかかった。本当の離婚になるかもしれなかった。
 学生が日本国憲法を学ぶ時、人権は不可侵である、しかし、個人は社会を無視して生きられないので、人権も他者の人権との関係で制約されることがある、と学ぶ。自分の名前はそれまで生きてきた人格を形作るものであり、自分の名前を結婚しても使い続けたいというのは、憲法上の権利として守られるべきである。その制限が許されるほどの他者の権利との衝突はあるとは思えない。夫婦別姓を希望する人は、全ての婚姻について夫婦別姓とするように要求しているわけではなく、選択的に別姓が出来ればいいとしている。一方、夫婦同姓を求める人は、選択を認めない。価値観を他人に押しつけているだけである。他人の名字を決定するという権利はない。
 法律婚をする夫婦の圧倒的多数は女性が改姓する。そのため、男女差別撤廃条約(1985年日本、批准)批准国である日本に対して、国連の女子差別撤廃委員会は2003年,2009年,2016年に夫婦同氏を定める民法について改正を勧告した。しかし、未だに改正はなされていない。
 2021年6月23日、夫婦別姓を希望する内容の婚姻届を受理しないのは憲法に違反するとして3組の夫婦が婚姻届の受理を求めていた事件について最高裁大法廷は民法と戸籍法の夫婦同姓強制規定は合憲との判断を下した。裁判官15人中、11対4で合憲と判断された。夫婦の氏は単にどういう制度を採るのが立法政策として相当かという問題であって、憲法24条に反するかどうかの問題ではない、という判断であった。人格権を尊重しない判決であり、到底認められない。
 2021年1月の時事通信の世論調査で、選択的夫婦別姓について賛成は50.7%、反対は25.5%と報道された。今後、生じるであろう介護施設の身元保証人、パートナー名義の預金の引き出し、手術の同意、遺体の引き取り、相続の事などを考えると、パートナーと年取ったら法律婚しようかね、などと話したりする。
 当事者の切実な思い、憲法、条約、国民の意識などを政府は受け止めて、選択的夫婦別姓を認める民法改正をすべきである。

日本科学者会議東京支部つうしん No.646(2021.8.10)

第21回東京科学シンポジウム-11月27,28日(土,日)-はオンライン開催に変更します!!
実行委員会事務局長 佐久間英俊

 隔年で開催する東京科学シンポジウムは会場でのリアル開催の予定で準備を進めてきました。先月発行した1stサーキュラーでも、そのつもりで、メインテーマ「コロナ危機の時代を生きる」と日程(11月27~28日)をお知らせし、分科会の設置を呼びかけました。しかしその後、新型コロナウイルス感染症が拡大し、新規感染者数は過去最高記録を日々更新しています。
 実行委員会は、8月2日の第2回実行委員会で、会員の安全を最重視して、今回の東京科学シンポはオンライン開催を基本とするよう変更することを決めました。特に分科会もオンライン開催となりますので、8月15日(日)の応募締切に向けて開設の準備を進めておられる会員はご注意ください。
 オンライン開催は、IT操作への不安や、機器や回線の不調の懸念、交流が不足しがち等の弱点がありますが、他方では、自宅等から気軽に参加でき、費用負担も少ない、時間を有効に活用できる等の利点もあります。
 私たち実行委員会も可能な限りの準備を進めますので、ぜひ多くの皆さんに参加いただきますよう、お願いいたします。

日本科学者会議東京支部つうしん No.646(2021.8.10)

シフト制労働黒書の刊行に寄せて
佐藤 和宏(東大院生分会)

 私が属している首都圏青年ユニオン(以下、ユニオン)は、コロナ禍におけるシフト制労働者の過酷な実態の告発とシフト制労働者の待遇改善のための政策提言を目的として、この5月にシフト制労働黒書を刊行しました(web上からアクセス可)。
 実ユニオンが担当した事例(多くは飲食産業で働く非正規労働者)から、シフト制労働者の現状が明らかになっています。最も問題なのは、シフトが確定していない期間の、補償なき休業です。コロナによる休業や時短営業を背景に、企業側の都合によるシフトカットは、時給で働く非正規労働者にとって、貧困に直結します。
 ば、労働日・労働時間の特定を前提にして、休業支払いの支払い義務が生じると解釈されています。しかし、厚生労働省・労働基準監督署の誤った解釈に、企業が便乗する形でもって、休業手当を支給しないことが助長されています。労基法15条によれば、労働契約上の労働時間等を特定できない場合は、労働条件明示義務違反に該当します。
 シフト制労働者の生活保障にとって、補償なき休業の問題にとどまりません。第二に、労働者が休業補償を求めた場合、制裁・嫌がらせとして、シフトカットが行われています。シフトカットが収入減・貧困に直結する以上、一方では職場の無権利状態をいっそう広める働きを持ち、他方ではその状態に耐え切れず自主退職を促すことになります。
 第三に、シフト制労働者の雇用保険からの排除です。シフトカットによって、社会保険加入を満足する労働時間に達しないために、社会保険を脱退してしまう場合や、シフトカットによる退職が(会社都合に比して不利になる)自己都合退職と取り扱われる場合です。
 第四に、正規・非正規間の休業補償の格差です。休業補償で格差をつける合理的理由はなく、2021年4月から全ての企業に適応されます(パート有期法第8条)が、実際には休業補償格差が存在します。
 いくつかの政策提言も行っています。第一に、休業手当の適用拡大と水準改善です。シフトの決まっていない期間であっても、労働契約上の所定労働日・労働時間を特定することは可能であるため、(当然、企業も含め)行政機関の対応を改めるべきです。
 第二に、最低保障シフトの制度化です。労基法15条・89条を改正することで、最低保障労働時間・最低保証賃金を必要記載事項とすることが求められています。
 第三に、休業手当の底上げです。平均賃金の算定方法の改定、休業手当の最低支払金額を(現行の平均賃金6割から)平均賃金8割とすることが必要です。
 シフト制労働者を無権利状態へと追いやっているのは、労働者の人権を徹底して軽視する、企業群および政府であることは、疑いないのではないでしょうか。そうであればこそ、シフト制労働者の雇用・生活を擁護する労働組合運動が、どうしても必要です。

日本科学者会議東京支部つうしん No.645(2021.7.10)

今からでも遅くない。日本政府と東京都は東京オリンピック・ パラリンピックの中止を直ちにIOCに申し入れ、科学的根拠と 基本的人権の尊重に基づいたコロナ禍収束への道筋を示さなけ ればならない
日本科学者会議東京支部常任幹事会

 (1)東京オリンピック・パラリンピック (以下、オリ・パラと略記)の強行によっ て、国際平和の祭典である近代オリンピッ クの歴史を汚してはならない
 COVID-19によるコロナ禍は世界的規模で現在も進行中である。日本では、東京オリ・パラの開催のいかんにかかわらず、7月末~8月以降第5波の到来の懸念が多くの専門家か ら表明されている。近代東オ京リン大ピ学ック総では合、年に1度世界のトップアスリートが一堂に集結し、日々の鍛錬の成果を競い合い、それを世界中の人々が感動をもって応援し、スポーツの醍醐味を楽しんできた。だが、残念な がら2019年末に発生したコロナパンデミック は、「人間の尊厳保持に重きを置く、平和な 社会を推進する」(オリンピック憲章)条件 を、一時的に我々から奪ったことを認めざる をえない。
 第1に、現局面で東京オリ・パラを強行す るならば、たとえ観客を制限したとしても、 パンデミックのもと世界中から多数の選手や 大会関係者が日本に流入し、日本国内では新 たに300万人を超える観客の移動・集中が予 測される。パンデミックがなお進行中のもと で、世界最大級のイベントを強行しコロナ禍 の世界的拡大の新たな火種をつくり出す必要 は毛頭ない。2020東京オリ・パラは本来延期 ではなく中止されるべきであったのであり、延期された2021年の開催によって平和の祭典 であるオリンピックの歴史を汚してはならな い。
 第2に、開催国日本では、第4波の到来によ って救急医療を担う大規模病院が集中してい る大阪府や東京都の医療現場で深刻な窮状が 発生した。第4波のピーク時には、救急車に 収容された発熱患者が病院をたらいまわしされた究り科、結局岡消田防署泰で平一晩を過ごしたり、肺炎が悪化しているにもかかわらず保健所等に連絡をとっても入院できる病院が決まらず、適切な治療を受けることができないまま自宅で亡くなるなどという悲惨な事例があいついだ。医師や看護師、医療機関や保健所の献身的な努力にもかかわらず、医療崩壊に直面している日本は、多くの人々が死に至る新型コロナの感染拡大のリスクを、これ以上受け入れることができない。開催都市である東京都知事、開催国である日本政府の首相は、行政府の責任者として市民の命が危険に晒されているこの現実を直視し、IOC、IPCに直ちに中止の申し入れを行うべきである。同じ困難に直面してきた(している)世界中の市民は、2021東京オリ・パラの中止を人命尊重の観点から必ずや受け入れてくれるはずである。そして私たちは、この不運に直面した世界のトップアスリートたちの新たな峰への挑戦を応援する。
(2)日本政府はこれまでのコロナ禍対策の誤りを率直に認め、科学的根拠と基本的人権の尊重に基づいたコロナ禍収束への道筋を人々に対して明示しなければならない
 日本政府が東京オリ・パラの中止の決断とともに直ちになすべきことは、これまでの感染症対策も含めたコロナ禍対策の誤りを直ちに正すことである。政府は今日に至るまで感染症対策と経済の再開とを天秤にかけ、典型的には第2波の真っただ中にGo Toトラベルを実施し、その後の感染拡大を許した。それは、東京オリ・パラの開催が絶対視されていたからである。日本政府は感染症対策と経済の再開を天秤にかけるコロナ禍対策の根本的な誤りを認め、人々の命と健康を守ることを最優先する立場に直ちに転換しなければならない。そうすることが経済再開への近道でもある。
 感染拡大を真に収束させるためには、科学的な根拠に基づく首尾一貫した感染症対策が不可欠である。ワクチン接種の強化によって感染拡大が止まる集団免疫の状態をめざすことは当然である。だが、感染力の強い新規株の出現・流入の現実を踏まえるならば、日本政府が一貫して回避・サボタージュしてきたPCR検査を徹底しなければならない。必要に応じて職域や地域単位で全面的かつ頻繁なPCR検査を実施するだけでなく、不安を感じた人は、誰でも、いつでも、無料で、自由にPCR検査を受けることができるようすべきである。そのことによって初めて、無症状の感染者を保護し、感染拡大を防ぐことができる。政府の責任でそうすることによって、人びとのなかに初めて安心感が生まれ、感染拡大収束への展望が開けてくる。科学的根拠に基づく感染症対策は、収束への展望を示せないまま感染拡大の新たな波が起きるごとに、休業や営業自粛に対する巨額の補償を繰り返すより、政府の財政的負担が小さいことは明らかである。
 私たちは改めて、日本政府が科学的根拠に基づいたコロナ禍収束への抜本的な対策に切り替えるよう、強く求める。
 【本声明は6月28日菅義偉首相と小池百合子東京都知事に送付された】
日本科学者会議東京支部つうしん No.644(2021.6.10)

よりフラットで生きがいのある研究者・技術者コミュニティを 目指して ―東京支部共同代表として―
中島明子

 日本科学者会議(以下 JSA)の面白さは、分 野を超え、様々な属性を超えた研究者・技術 者のフラットな交流にある。
 大学院時代、私は工学部建築系分野に属し ていたので、JSA「工学論研究会」に参加し ていた。指導教員であった西山夘三の影響による。何しろ大学紛争の真っただ中に、科学、学問や研究に対する不信が広がった 1960 年代後半に大学を卒業した者にとって、西山夘三の学術会議での奮闘ぶりや科学の民主的発展や科学者の社会的責任、成果の平和的利用を掲げたJSAの存在は新鮮で眩しかった。
 西山夘三は、1960 年以降日本学術会議の会員でもあり、学問が次第に細分化され人間生活を豊かにするという目的を見失っていくことに警告を発していた。「蛸壺研究者」になってはいけないというのが彼の口癖でもあった。工学論研究会は、そうした問題意識で取組んでいた。私は原子核工学、数理工学、化学工学、土木、建築等の並みいる教員・大学院生等に背伸びして加えてもらい、科学の民主的・平和的発展の方向に沿って、工学研究と教育をどのようにすればよいのかを議論するのは本当に楽しかった。
 その後東京に職を得て、東京支部で「家政学の研究と教育を考える会」を立ち上げた。食物、服飾、経営、住居、保育分野の若手研究者が集まり、研究交流を行うと共にそこか ら共同研究も生まれた。また、家政系分野は、保守的で非民主的体質の女子大学・短期大学が多かったので、それに対する助言や励まし、人事の紹介等、大いに勇気づけられた。
 しかし、自分の専門である住宅問題の学際 組織日本住宅会議が 1982 年に設立されると、 活動の比重はそちらに傾き、随分長い間「会費貢献会員」になってしまった。
 その私が東京支部の共同代表を引き受け るのはやや無謀だと自覚している。しかし、 女性会員の“はづきの会”に関わってきたこ とが推薦理由の一つでもあり、私に課せられたのは、大都市東京を基盤に、科学者会議におけるジェンダー平等の取り組みや、より多様な会員の参加を広げ、居心地のよい、そして研究者・技術者として生きがいがもてるようなコミュニティづくりに、ささやかながら も貢献することだと思う。
 一昨年の支部大会で、衣川清子さんが、朝日新聞に掲載された女性研究者の自死につ いて、「大きな問題の1つは、彼女が独りぼ っちだったこと」と発言され、強烈に印象に残った。私たちの周りには、悩みを抱えなが ら孤立し苦しんでいる女性研究者・技術者が少なくない。マイノリティとして、あるいは 育児と研究の両立、それもコロナ禍で...。
 支部の戦略では女性会員 3 割を掲げてい る。それは、組織のなかでマイノリティの割合が3割となったときに、組織全体の変容をもたらすという米国の社会学者カンターの「黄金の3割」理論を意味するばかりでない。より多様な人々が日本科学者会議に参画することによって、「科学の各分野を総合的に発展させ、その成果を平和的に利用する」ことに大いに貢献するからである。簡単ではないが実現は可能だと思う。

日本科学者会議東京支部つうしん No.643(2021.5.10)

菅政権の本質
植野妙実子(憲法・中央大学名誉教授)

 義偉首相は、2020 年 10 月 1 日、政府から独 立して政策提言をする「日本学術会議」の新会員 について、同会議が推薦した候補者 105 人のうち 6 人を除外して任命した。同会議が推薦した候補 者を首相が任命しなかったのは初めてであり、し かも任命を拒否した理由は、いまだに明らかにさ れていない。日本学術会議は、10 月 2 日に菅首 相に対し、次の 2 点についての要望を示した。推薦した会員候補者が任命されない理由の説明、任命されていない方についての速やかな任命、 である。また多くの学会がこうした政府の行為を非 難し、反対の表明を行った。しかし、首相は、推薦の通りに任命すべき義務があるとまではいえない、理由については、人事に関することで答えを差し 控える、と明確にしないままの姿勢を続けている。 日本学術会議は、2021 年 1 月 28 日に 4 月まで の任命を求める声明を発表、4 月 22 日には新た に任命を求める決議も行なった。
 日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であ るという確信の下、行政、産業及び国民生活に科 学を反映、浸透させることを目的として、1949 年 1 月、内閣総理大臣の所管の下、政府から独立し て職務を行う「特別の機関」として設立された。会 員は 210 人、連携会員約 2000 人によって、科学 に関する重要事項を審議しその実現を図るなど の職務が担われている。明治憲法の下で、1933 年に滝川事件、1935 年に天皇機関説事件などフ ァッショ的弾圧の事件が多くあった。当時は国家 のための学問の観念が強く、「国家ニ須要ナル学 術」を教授し、そうした学術を研究することが大学 の任務とされていた。こうした歴史的反省の上に日本学術会議は政府から独立した機関として存 在する。
 学術会議法では、日本学術会議自体が候補 者を選考し、その推薦に基づいて内閣総理大臣 が任命することが明らかにされており、内閣総理 大臣が任命を拒否することを予想していない。実 際、2004 年度の法改正で、日本学術会議が推薦 する方式になった際に、「会員候補の任命を首相が拒否することは想定されていない」と記した政府の文書も存在している。「推薦に基づいて、内 閣総理大臣が任命する」という定め方は、実質的な任命が日本学術会議の「推薦」の段階で決まることを示している。日本学術会議の会員数は、条 1 項により 210 人と定められており、決められた 会員数を満たしていない違法状態は首相が招い ている。また任命拒否は、憲法 23 条に定める学 問の自由も侵害している。民主主義は内心にお ける思想・信条・良心の自由とこれを外部に表出 する表現の自由を基本としているが、その前提と して、知る、情報を得る、学ぶ、研究する、探求す る、批判するという営為がある。こうして学問の自 由は民主主義ともつながる。学問の自由は、研究 者だけがもっているものではないが、研究者は専 門家として、職業として、情報を得、学び、探求し、学術の発展、社会の発展を担う。菅首相による任 命拒否は、自由な学問と独立的・自立的な学問 研究を否定するものである。違憲・違法な行為で あり、強く批判されなければならない。日本学術 会議の会員任命拒否は、菅政権の本質を示して いる。

日本科学者会議東京支部つうしん No.642(2021.4.10)

国際女性デーと日本のジェンダー平等の課題
伊藤セツ (社会政策 東京支部)

 今年の国際女性デーも、3 月 8 日に過ぎて行 った。様々な伝説を伴いながらも国際女性デー は、1910 年の第二インターナショナルでの決議か ら今年で 111 年、日本は、官憲に蹴散らされなが らの 1923 年が第一回で、2023 年には 100 周年 をむかえる。

 いま世界中を新型コロナウイルス感染症が襲い、支部の活動にも様々な困難が生じています。個人会員フィールドワークは実施を見合わせ、研究会活動を休止している研究会もあります。また遠隔会議や在宅テレワーク中心に働き方が変わり、大学院生もキャンパス入構を禁止・制限されるなど、学園や職場で仲間や同僚と顔を合わす機会も減っており、会員同士もコミュニケーションがとりにくくなっています。また残念ながらこの数年間は、全国でも東京支部でも会員数が漸減しています。
 国連が 1977 年の第 32 回総会で、国際女性デーを「国際デ―」と決議してから、各国のそれぞれの女性運動の伝統と課題に、国連の重点課題も加わって、国際女性デーは多様な様相を呈して年々広がっている。

 しかし100年以上たっても、通底する共通のキーワードはまだ「平和とジェンダー平等」であり続け、特に日本では深刻である。
 今年2021年の国際女性デーは、コロナパンデミック1年を経て、世界中の女性にもたらされた特別の不利益が可視化されて、各国で、オンラインで工夫して、国際女性デーを特別盛り上げようと準備も周到になされた。
 ところが、その国際女性デーを前に、日本では森喜朗東京五輪組織委員会会長のセクハラ発言がおき、「わきまえない女たち」「わきまえないぞ」とオンラインを飛び出して、リアルに街頭デモももりあがったのである。
 去る3月8日には、上記森会長と交代した橋本聖子氏の後任の丸川珠代男女共同参画特命大臣が、男女共同参画局のHPで声明を出し、第65回国連女性の地位委員会(CSW65 :2021年3月15~26日会期)の日本主催のサイド・イヴェント(3月22日開催)で、東京オリンピックのジェンダー配慮のことを強調した。
 しかし、その陰で、なんと佐々木宏五輪クリエイティヴディレクターの「ルッキズム」演出計画が進んでいたことが発覚したのである。史上最高のジェンダー平等のオリンピックといううたい文句の裏舞台が全世界に暴露された。
 今年の「国際女性デー中央大会」での浅倉むつ子氏の講演の題は「ジェンダー平等の実現を目指して―女性の権利を国際基準に」であった。ところが、である。
 外務省が、2018年12月に国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)から受け取った「夫婦別姓についての法改正勧告」を内容とする文書を、2021年3月15日まで放置していたことが、3月24日の各紙朝刊で報道され、それをめぐって、ML上でNGO等の情報が飛び交った。「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク」(JNNC)は、2年前に翻訳して男女共同参画局に届けたとのことである。
 昨年末に第五次男女共同参画計画を閣議決定した際、原案にあった「選択的夫婦別姓」という言葉を削除したが、さては、そのための「故意の秘匿」ではなかったのか。
 国連女性機関(UN Women)、の今年の国際女性デーのテーマは「リーダーシップを発揮する女性たち:コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」であったが、科学者の運動を担うJSAも、ジェンダー平等の実現を射程に入れた意識的活動が必要であろう。

日本科学者会議東京支部つうしん No.641(2021.3.10)

気軽に入会を呼びかけ、拡大強化月間を成功させよう
佐久間英俊(東京支部事務局長、中大分会)

 1月に開催した第3回幹事会は2~4月を拡大強化月間とし、組織強化・会員拡大を強めることを決めました。すべての支部会員の皆さんに、身近な人に声をかけるなど、入会の呼びかけ行動をお願いします。

 いま世界中を新型コロナウイルス感染症が襲い、支部の活動にも様々な困難が生じています。個人会員フィールドワークは実施を見合わせ、研究会活動を休止している研究会もあります。また遠隔会議や在宅テレワーク中心に働き方が変わり、大学院生もキャンパス入構を禁止・制限されるなど、学園や職場で仲間や同僚と顔を合わす機会も減っており、会員同士もコミュニケーションがとりにくくなっています。また残念ながらこの数年間は、全国でも東京支部でも会員数が漸減しています。
 しかしながら、私はいま会員拡大の新しい条件が広がっているとみています。第1に利潤第一の資本主義が引き起こした社会矛盾が深刻化しています。問題に苦しむ人々は解決策を希求しています。第2に日本では政府の失政が明確化しつつあります。安倍・菅政権は反科学を1つの特徴とし、国家政策がもたらした問題については自己責任論を吹聴して市民に責任転嫁してきましたが、アベノミクスは破綻し、コロナ対策のまずさは人々の不満の種となっています。政府の規制緩和政策が医療を掘り崩しコロナ危機を拡大したことが徐々に認識されてきています。第3に、多様化や複雑化など現実の発展に照応して、どの分野でも科学が解明すべき新しい問題が広がっています。課題の解決が複数の学問分野にまたがる問題が増えているため、あらゆる科学を対象領域とするJSAに対する期待が高まっています。第4に、現在、自由・平等・平和・民主主義を求める市民要求が強まり、様々な市民運動が生まれていますが、それらの運動がさらに発展するために科学との結合が求められています。特に現実の問題は様々な連関のもとにあるため、個別領域の問題を解決するためにも総合科学的な広い視点が必要となることが多くあります。第5に、学識と経験豊富な会員の存在が挙げられます。

 昨年12月に開催した23総学(全国が隔年開催する研究大会)は500人以上の参加登録者を得て大成功しましたが、参加者の感想等から判断して、23総学の成功はこうした新しい条件の存在を証明したと考えます。
 JSAを紹介するパンフレットや入会申込書はJSA全国のホームページから取り出せます。また東京支部も独自の紹介リーフレットの更新を進めています。
 来る3月27日(土)には支部会員を対象とした活動交流会(オンライン開催、詳しくは行事案内欄)を予定しています。前半では3名の報告者に、大学、中学高校教育、民間職場などがコロナ危機でいかに変わり、どのような問題が起きているか報告してもらう学習会も設けます。皆さんお誘いあわせの上、ご参加下さい。
強化月間で沢山の新入会員を迎え入れ、5月23日(日)の支部大会を増勢で迎えましょう。

日本科学者会議東京支部つうしん No.640(2021.2.10)

香港市民・民主主義の弾圧の報道に接して
小嶋茂稔(中国古代史)

  昨年来、民主主義を擁護しようとする香港の運動家や市民に対する弾圧の報道に接する機会が増えてきた。一連の経緯の背景に、中国共産党政権の非民主主義的な性格があることは自明であり、こうした事態に対し、私自身中国史研究者の末席に連なる者として、当然怒りや悲しさが湧き上がってくるのであるが、一方である種の諦念がつきまとうことも否定できない。

 1989年6月、当時、大学の専門課程に進んだばかりの私は、「東洋史学演習」という授業に参加し、毎週、史料講読の訓練を受けていた。毎回、漢文史料の講読が淡々と続く授業なのであったが、その6月のある日の授業は全く違ったものであった。
日頃学生が予習の成果に基づいた史料読解に悠然とコメントを加えるだけだった担当教員――その教員は大学院進学後私の指導教官となってくれるのだが――が、その日は演習が開かれる研究室に駆け込んでくるや否や、数日前の天安門事件についての“怒り”をおよそ2時間の授業時間の間、語り続けてくれたのであった。
 “人民解放軍”が民主化を訴える“人民”に他ならない大学生たちに銃を向けるとは……。それまでの学界の泰斗然とした姿や口調とは一変し、なぜ自分が中国の歴史を学ぼうとしたか、若き日の“新中国”への期待と憧憬を熱っぽく語り、そしてその“思い”が無惨にも打ち砕かれようとしていることへの“怒り”を若き日の私(や大勢の演習の参加者)の前で開陳してくれたのだ。
あの日の研究室の情景と恩師の口吻は、今もなお鮮明に思い起こされる。

 中華人民共和国の建国が、日本の中国研究に多大なる反省と変革をもたらしたことは周知のことであるし、戦後、歴史のみならず中国を何らかの研究対象にした人の多くは、“新中国”に様々な期待を寄せていたはずである。
 しかし、その“新中国”は、そうした研究者たちを、ある意味裏切り続けてきたとも言え、1989年、鄧小平体制下でのこの事件は決定的であり、その後経済成長とともに“大国化”に邁進する中国は、かつて私の恩師が夢想した“新中国”とは似ても似つかないものになってしまった。
こうした現代中国の展開を踏まえて今回の事態を見れば、冒頭“諦念”と記した理由も御理解いただけるのではないかと思う。

 これからの中国はいったいどこへ向っていこうとしているのであろうか。必ずしも現代中国事情を専門としている訳ではない私には手に余る課題である。
 しかし、日本の将来を考えるうえでも、これもまたありきたりな物言いになるが中国の動向には注意を払わざるを得ない。香港の民主化への弾圧はやみそうもないが、やはり“諦念”をもって傍観に甘んじることなく、批判的に見つめ続けていかなければならないという思いを新たにしたところである。

日本科学者会議東京支部つうしん No.639(2021.1.10)

23総学の大きな成功を力に新しい年を飛躍の年に
松永光司(JSA東京支部代表幹事)

 日本科学者会議東京支部のみなさま、「支部つうしん」読者のみなさま、年頭にあたり新年のご挨拶を申し上げます。

昨年の最も大きな活動は、担当支部として関東甲信越9支部と協力して取り組んだ第23回総合学術研究集会(23総学)でした。新型コロナウイルス感染拡大のため思い切ってオンライン開催を決断し、すべてが手探りでしたが、実行委員会担当者を中心とした周到な準備と全国のみなさまのご協力により、大きく成功させることができました。みなさまに心から感謝申しあげます。
23総学の特徴の第1は、メインテーマ「人間の尊厳と平和で持続可能な社会を求めて―科学者と市民の共同を探求する―」に沿って、特別報告2件、文化企画1件、分科会25、分科会発表126件と、多彩で魅力的な企画が組織されたことです。
第2に参加登録者は522人にものぼり、その約41%(213人)が会員外の市民の方々でした。いま新型コロナ感染拡大によって日本社会の脆弱性、格差と貧困の深刻さが暴かれ、「科学技術基本計画」や「society5,0」などで政府が打ち上げた未来社会像とのギャップが露わとなりました。国民はそれらの納得できる説明を求めています。23総学は、研究者が何を考えているのか、市民と対話をふかめ、理解しあう、「共同の探求」の場となりました。
第3に、菅首相の日本学術会議会員任命拒否に抗議する「緊急集会」の開催です。これは学問の自由の侵害であると同時に、気に入らないものは排除するという論理を許せば、やがて市民の自由も抑圧されることを見抜き、社会に働きかけた各支部の活動が光りました。
最期にオンライン開催についてです。これまでの会場開催には参加者の会場内外での対面の交流、それを通じたさまざまな触発など、欠かせない機能がある、それはどうなるのかなどの懸念がありました。23総学直後に参加者から寄せられた160通を超えるアンケートでは、画面共有などの操作不慣れの指摘の一方、オンライン開催は良かったとの高評価が多くを占め、今後はそれぞれの利点を生かし会場開催とオンライン開催の併用をとの提案もありました。23総学の体験を通じて、従来の会場開催の意義を再認識するとともに、オンラインによる新たな可能性も感じました。
23総学の閉会直後に、旧知の友人からメールが届きました。「4つの分科会に参加。内容の豊富さと面白さは久しぶりの感覚でした。特に大変率直な発言と友好的な雰囲気が印象的でした。JSAならではの特徴でしょうね。」とありました。とてもうれしい感想です。

23総学では多くの市民に参加いただき、互いの理解が深まりました。そうした方々にぜひ日本科学者会議に入会いただき、科学・技術の国民本位の釣り合いのとれた発展を期してともに歩まれるよう働きかけましょう。
今年は再び東京科学シンポジウムの年です。23総学の成功をベースに、東京支部のいっそうの飛躍をめざして、力をあわせましょう。
日本科学者会議東京支部つうしん No.638(2020.12.10)

核兵器禁止条約の発効が確定
梶原 渉(一橋大学大学院修士課程)

 被爆75年の今年、コロナ禍で先行きが不透明な中、明るいニュースが飛び込んできた。核兵器の開発・製造・使用・威嚇などを全面的に禁止する核兵器禁止条約が、2021年1月23日にも発効することが確定したのである。今年10月24日(米国東部時間)、中米のホンジュラスが同条約の50番目の批准国となり、発効要件を満たしたのだ。ただし、条約の発効は核兵器のない世界を実現するための重要だが一つの条件を成すに過ぎない。何が課題なのだろうか。
 まず、条約発効の意義について考えてみよう。核兵器禁止条約は、2010年代に核軍縮の領域で顕著となった「人道的アプローチ」の産物と言われている。すなわち、核兵器使用の非人道性に着目し、それが一発たりとも世界に存在してはならないことを法的にも倫理的にも主張するものである。このアプローチからすれば、たとえ核兵器禁止条約に核保有国が入っていなくとも、核兵器を法的に禁止する規範がまず形成され、国際社会において影響力をもたらすことが重要である。条約発効はまさに、この「人道的アプローチ」が目指す、核兵器禁止が法的規範力を持つということを意味する。
 その上で、核兵器のない世界を本当に実現するための障害をいかに克服すべきか、考えてみよう。端的に言って、核保有国やその同盟国の政府の姿勢、すなわち自国の安全保障を核兵器による抑止力に頼るという安全保障政策をいかにして核兵器禁止の方向に変えるかということになろう。これには以下の二つのレベルで取り組まれる必要がある。
 第一に、核抑止力に頼る国々の国内において、核抑止力の欺瞞性を法的・倫理的に暴露・追及し、それに基づく安全保障政策の正統性を失わせていく取り組みである。「ヒバクシャ国際署名」や日本原水協が新たに始めた日本政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求める署名などの署名運動、被爆の実相を普及する原爆展、デモやパレードなどがあげられる。これを、核保有国やその同盟国に広げなければならない。
 第二は、グローバルなレベルの取り組みである。つまり、核兵器を持つ大国同士が対立・競争しあう世界構造の変革を目指す運動である。これは、核戦争や核保有に反対する運動にとどまらない。コロナ禍における保健衛生の国際協力を推進する運動、気候変動の阻止を目指す運動、軍事費の浪費を止めて人権保障や開発援助に充てる運動など、現に様々に存在するグローバルな運動との連帯が求められる。こうしたより平和で公正な地球社会を目指す運動が共通して持つべき将来像に、核兵器のない世界を位置付けていく必要がある。第一のレベルでのたたかいを核保有国も含むあらゆる国々に広げるうえでも重要だと思われる。
 グローバルな連帯で大国の軍事政策や対立を変えてきた経験を、幸い私たちは持っている。ベトナム反戦運動や1980年代の反核運動、イラク反戦運動などである。これらの経験における教訓と課題を歴史的に明らかにすることがいま科学者には求められているのではないか。

日本科学者会議東京支部つうしん No.637(2020.11.10)

日本学術会議の歴史と会員の任命拒否問題
増田善信 (東京支部個人会員・気象学)

 菅首相は6名の科学者の任命を拒否した。やっと開かれた臨時国会の所信表明では、「学術会議」には全く触れず、「悪しき前例主義を打破」と言い放った。私は公選制から任命制に変えられた第12期の会員であったので、憤りをもって任命拒否に抗議し、速やかに6名全員の任命を要求する。
 これを許せば戦前の政治体制になる恐れがある。いま、NHKの連続テレビ小説「エール」や再放送されている「純情きらり」で戦争末期から戦後の悲惨な状況が放送されているが、この戦争は、1933年(昭和8年)の滝川事件をキッカケに学問の自由が抑圧され、新聞・ラジオなどマスコミによる一方的な宣伝と、言論封殺の結果起こったものであると思う。
 戦前も学術研究会議があったが、戦争が進むにつれてすべての科学が戦争に協力するようになった。会長・副会長の互選制が任命制になり、1945年1月には部会名が「音響兵器」、「航空燃料」、「噴射推進器」など、すべてが戦争を推進するものになり、あの湯川秀樹先生まで原爆製造に加担させられたのである。
 戦後、わが国の科学者はこのことを深く反省し、1946年3月学術研究会議は、この根本原因は、為政者をはじめ、国民全般が「学問を軽視し、審理を無視し、国民の生活全般はもとより、文化、経 済、政治が不合理な精神に支配され、不合理に 営まれてきたところにある」としたうえで、「全国各 方面の科学力を結集して、新しい組織をつくる必 要がある」という趣旨の建議を発表した。
 日本学術会議は、この建議に沿って1949年1月につくられ、その第1回総会は「日本学術会議の発足にあたって科学者としての決意表明」(声明)を発表した。そこには「これまでわが国の科学者がとりきたった態度について強く反省」としたうえで、その目的は、「我が国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業、および国民生活に科学を浸透させること」であることを宣言し、「憲法の保障する思想と良心の自由、学問の自由および言論の自由を確保すること」をうたっている。そしてその精神に沿って、3回にわたって、「戦争を目的にした科学の研究には絶対従わない」(声明)を発表している。
 おそらく、政府はそのような学術会議は改組して戦前の学術研究会議のようなものにしたかったのであろう。その始めが1981~83年の公選制の廃止であり、それに続くものが今回の任命拒否であろう。
 しかし、それに反対する世論は強く、ほとんどの学会、学協会や芸術関係の団体にまで及び、Change Orgの反対署名は僅か10日で14万に達し、私のFacebookのフォロアーも1000名以上になった。戦前は治安維持法で非合法化されていた共産党も反対運動の先頭に立って、野党共闘の強化と連合政府の実現を目指して奮闘している。この力を結集すれば、任命拒否を撤回させ、菅政権を倒し、新しい政府の樹立も夢ではない。確信をもって前進しよう。

日本科学者会議東京支部つうしん No.636(2020.10.10)

安倍内閣退陣・菅政権成立と憲法問題のゆくえ
小沢隆一(東京慈恵会医科大学・憲法学)

 8月28日に安倍晋三首相が突如辞意を表明して、7年8ヶ月に及ぶ安倍内閣が総辞職した。
 辞任は持病の悪化を理由としているが、そこには、「2020年までに」、「自分の任期中に」などと公言してきた明文改憲の見通しが立たないことへの焦りや苦悶もからんでいよう。この間、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」による3000万人署名、発議阻止の緊急署名の運動をはじめとする全国の市民の粘り強い運動や、それに励まされた立憲野党の頑張りが、安倍首相の宿願である明文改憲の策動を押しとどめてきた。この策動の先行きの暗さが、首相の「政権投げ出し」を導いたといえよう。
 安倍首相の辞意表明を受けた自民党総裁選で、菅義偉官房長官が新総裁に選ばれ、9月16日の臨時国会での首相指名を受けて、菅内閣が発足した。誕生した菅政権は、「安倍政権の政治の継承」を掲げ「憲法改正にしっかりと取り組む」と安倍改憲の完遂を公約に掲げている。また、安倍政権時代の医療・社会保障の新自由主義的「改革」のスローガンである「自助・共助・公助」を政権の目玉として再三強調するなど、新型コロナウイルスの感染拡大があぶりだした日本の医療・社会保障の弱点を克服、改善しようという姿勢はみじんもうかがえない。安倍政権の憲法破壊の路線を継承する内閣である。明文改憲の動きは多少ペースダウンするかもしれないが、実質的な改憲を強引に推し進める動きを警戒する必要がある。
 その兆候は、すでに現れている。防衛省は、来年度の概算要求を過去最大の5兆5000億円とする方針を固めた。新型コロナウイルスの感染拡大による厳しい経済情勢の中、体制の充実が求められる医療や福祉、教育など国民の生活に関わる予算増が求められる中で軍拡予算の継続とさらなる拡大を志向するなどとんでもないことである。しかも、安倍首相の実弟である岸信夫新防衛大臣は、秋田・山口への配備を断念したイージスアショアの代替策として、海上配備への転換を打ち出しており、安倍政権のアメリカからの武器の爆買いの維持・拡大をもくろんである。
 菅政権は、明文改憲の前段として、9条の実質的破壊を推し進める「敵基地攻撃能力」の保持を強行しようとしている。安倍首相は、退陣直前の9月11日に異例の「談話」を発表して、次期政権にその実行を迫った。岸防衛大臣は、就任直後の記者会見で、敵基地攻撃能力を含むミサイル防衛について「今年末までにあるべき方策を示し、速やかに実行に移す」と明言している。これは、自衛隊が米軍とともに海外で戦争する軍隊になることをめざすものであり、「自衛」とは名ばかりの9条破壊の暴挙にほかならない。
 安倍政権を退陣させたことで改憲の企てに大きな打撃を与え、改憲問題は新たな局面に入った。しかし、自民党や改憲勢力は改憲の企てをあきらめておらず、改めて改憲4項目を掲げ、改憲に拍車をかけようとしており、実質改憲の動きも強めている。安倍改憲の強行を阻んだ市民の力に確信を持ち、敵基地攻撃力保持や軍備拡張の企みによる憲法の破壊を許さないさらなる取り自衛組みが求められている。その際、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が、9月25日に野党各党に提出した「要望書」は、菅政権に対抗して憲法にもとづく政治を実現する上での重要な結集軸となろう。

日本科学者会議東京支部つうしん No.635(2020.9.10)

豪雨災害にハザードマップは役立っているか
土屋十圀(前橋工科大学元副学長・土木学会フェロー)

 2020年7月梅雨末期の球磨川、筑後川の豪雨災害はコロナ禍のもと熊本・大分県の被災地、被災者に、二重の災禍を今でももたらしている。熊本県は死者65人、福岡・大分県では死者5人、長崎県3名、行方不明3人でした。床下、床上浸水を含む損壊家屋は熊本県8,830戸、福岡県5,093戸の甚大な被害となった。被災者も支援者も防災と防疫に立ち向かうこととなった初めての水害である。被災直後の被災者支援のボランティアは極めて少なく、コロナ禍の事情が反映したものとなった。
 2年前、同紙面で「豪雨災害から学ぶべきものはなにか-水害リスクを考える」でハザードマップについて触れたが、今日このマップは全国の区市町村で作成し配布されている。この目的は住民の的確な避難行動につながるよう“実践的洪水ハザードマップ”を市区町村長が作成できるようにするために水防法第15条により自治体に義務付けたものである(国土交通省)。しかし、昨年の台風15,19号の水害後の内閣府報告書(2020.3.10)で次のように報告されている。水害で亡くなった方のうち、ハザードマップで災害リスクがあると示されている区域内で亡くなった方が約7割と大半であった。また、約半数の人がハザードマップを見たことがない。見たことはあるが避難の参考にしていないと回答しいている。マップ等を認知している場合でもこれを見ただけではとるべき行動がわからない人が約3割、災害リスクがわからないと回答した人が約2割であった。何かしらハザードマップ等に課題があると回答した人が7割程度いたと報告されている
 ハザードマップは最大の危険要因である降雨規模(降雨量・降雨確率)とこれによる危険状態(氾濫域と水深)は示されているが、住民の視点からは「どこに」「どのような」「具体的なリスク」があるのか見えない。行政から配布されているハザードマップは想定最大規模降雨量という名称であるが、実は1,000年に1回に当たる確率降雨量による想定氾濫域を示している。これは、この降雨規模の降水量に対して洪水を発生させ、堤防のある区間を意図的に何百か所も決壊させ、各箇所からの氾濫面積を積算して示している。これは避難対策のためであるとはいえ、実際には降雨データにはないものを1,000年確率降雨量として作為的に作成している。現在、日本では明治中期からの降雨データで最も多い地点のデータでも130年程度の降雨資料である。国・自治体が管理する既往の河川整備計画の堤防建設の降雨確率年は大河川が200年,100年、中小河川は50年,20年等に1回発生するような降雨量に対応する事業が進行している。これらの既定事業はほとんどが未だに完成していない。配布している1,000年確率のハザードマップは現実に進められている河川事業下の洪水氾濫の具体的なリスクは見えないのである。ハザードマップは地域のリスクが見えるものに改善する必要がある。国土交通省が既にHPでも示しているように堤防等の重要水防箇所(重要度A,B,要注意)を示している。これは具体的なリスクである。この重要箇所を200年,100年のハザードマップに図示し、地域住民が河川の周辺環境を理解し、実践的に避難行動につながるように改善する必要がある。

日本科学者会議東京支部つうしん No.634(2020.8.10)

コロナ禍とジェンダー
植野妙実子(中央大学名誉教授)

 このところ東京の感染者数が連日200名を超え、全国でも感染者数が増加している(7月21日)。そうした中で政府は、Go Toトラベルを東京除外で行うことにした。全国的に感染者数が増えている今なぜ?という疑問には明確に答えていない。本来、Go Toキャンペーンは新型コロナが終息した時に行われるものではなかったのか。しかも始まる直前にもかかわらず細かなルールも定まっていない。第一、税金を使う事業に、同じように税金を払っている東京都民を外すことは明らかな「不平等」である。制度設計の不備が露呈している。
 新型コロナウイルスを原因とする死者数が少なく、日本は世界から一定程度押さえ込めていると評価されている。しかし政権の支持率は下がっている。それは透明性のない、説明責任を果たしていない政治が行われているからである。そもそも、モリ・カケ問題、桜を見る会、検察官の定年延長問題など、すべて問題が闇の中に葬り去られ、解明されていない。新型コロナ対策においてもPCR検査数の制限など、不可解なことが相次いだ。つまり、コロナ禍のような重大な危機において、政府に対して信頼がおけない、信用できないというのが、最も大きな我々の「不幸」である。政策として決まることには、まず目的があり、それを達成するのにふさわしい手段がとられるべきである。根拠やそれを説明できる一定の基準も必要である。しかし今の政策は場当たり的で、時には二転三転、一貫性がない。国民不在、国民の安全・安心・健康を真に考える政策に乏しいといえる。
 コロナ対策の政策の中には、とりわけジェンダーの視点に欠けた政策が見られる。例えば、安倍首相は2月27日独自の判断で突然の全国一斉の学校の休講の要請をした。専門家会議にも諮らず、省庁間の調整もないものであった。その必要性や根拠についての説明は曖昧であった。全国一斉の学校の休講の影響は大きい。子どもの学習権のみならず特に女性に対して影響が及ぶ。誰が実際子どもの面倒を見るのか。共働きの場合は、結局女性が仕事を休まざるをえなくなる。ましてやシングルマザーは、泣く泣く子供を一人おいて仕事に出るか、仕事を休むか選択しなければならない。その必要があるというなら、はっきりと根拠を示し、その上でどのような影響があるのか見定めながら、手立てを講ずることが必要であった。
 国民に一律に給付された特別定額給付金の支給方法も問題であった。世帯主にまとめて給付する方法をとった。この方法では世帯の中の力関係によっては各個人に行き渡らないという問題が生じる。別居中の妻にも、夫のDVに苦しむ妻にも行き渡らない可能性がある。選挙の投票用紙も同様の方法をとっているが、単身赴任をしている住民票を動かしていない人は選挙に行かない可能性がある。世帯単位ではなく、個人を基準とする制度に転換すべきである。個人の尊重こそ平等の基本である。
 コロナ禍は経済的弱者に厳しい現実をもたらした。非正規で働く女性、貧困に喘ぐ家庭、こうした人たちは政治に声を届けられない。憲法の生存権や平等の理念に立ち返る必要が今ある。

日本科学者会議東京支部つうしん No.633(2020.7.10)

コロナ禍と大学、学生生活
JSA 東京支部事務局長 米田 貢

 6月13日大学フォーラムの緊急オンラインシンポ「コロナ危機のもとでの学生支援―何が問題か? 何を主張するのかー」が開催された。高等教育無償化プロジェクト、全国大学院生協議会、Change Academiaから3名の学生・院生が、コロナ禍における学生・院生の窮状とその打開策について報告・提案し、全大協、日本私大教連、東京私大教連、日本科学者会議からも関連する報告がなされた。
 新型コロナ禍の怖さは、このウイルスの特性による感染拡大の広がりという医学的、疫学的な問題にとどまるものではない。それは、感染拡大防止・抑制のための必須条件とされている「3密(密閉・密集・密接(濃密)」の回避が、人間社会の本質である政治・経済・社会の様々なレベルでの諸個人間の社会的関係の構築や、抱擁・会食・音楽・スポーツ、その他多様な機会・形態での他者との身体的・精神的交流による一体感の共有の抑制を伴わざるをえないからである。さらに、この「3密の回避」は、「巣ごもり生活」による突然の個人的消費=需要の収縮・消滅によって、商品の生産と販売を基礎とする資本主義経済を地球的規模で未知の混乱に引きずり込んでいる。多くの市民、企業が、感染拡大防止と普通の社会・経済生活の継続とのはざまでストレスをため込んでいる。
 大学で学ぶ学生は、社会的には学業が社会的使命とされ、経済的自立は求められていない。だが、国公私立を問わず高い授業料と日本経済の長期停滞による親の経済的困難からわずかな仕送りしか受けられない多くの学生は、アルバイトをすることなしに学生生活を維持することができない。大学生協連の調査によれば現在学生の73%がアルバイトをしており、その4人に1人は仕送り額が5万円未満である。窮状を訴えて署名活動を行ってきた学生に押されて、政府は慌てて学生支援緊急給付金制度を設けたが、他の支援金・給付金と同じく申請条件・手続きが制限的で複雑であり、また支給金額も最大で20万円で予算額もわずか531億円にすぎない。休業や自粛要請によって職を失った学生アルバイトが回復しなければ、経済的理由で大学を退学せざるをえない学生が増加することは疑いない。
 緊急事態宣言に併せてSTAY HOMEが呼びかけられた。家が無い人々の困惑と絶望と共に、家があっても、ソファで寛ぎペットと戯れて過ごしたくても、また在宅勤務をするにも、我が家には十分な広さも快適さも無いことに気づいた人々は少なくないだろう。ましてや感染軽症者の自宅待機は論外だろう。
 同時に、大学人として看過できないのは、科学を含む学術の継承発展というきわめて公共性の高い研究・教育サービスを社会に提供する使命をもつ大学が、私的利潤追求のみを目的とする財界の効率化論理に蝕まれてきたことがある。すべての市民に開かれた大学、かつての夜間部で学んだ勤労学生と同様に働きながら学ばざるをえない学生の権利を守るために、大学人の大同団結が求められている。

日本科学者会議東京支部つうしん No.632(2020.6.10)

新型コロナウイルス禍の住宅危機に抗して
中島明子(和洋女子大学名誉教授・NPO すみださわやかネット)

 新型コロナウイルスの感染拡大が起こると、まず住まいの無い人々や、低質シェアハウスや無料低額宿泊所等の、過密で不衛生な場所で起居している人々の感染が心配された。
 そして4月7日に緊急事態宣言が発せられ、さらに5月末まで延長になると、営業自粛要請による経営危機、生活困窮の次に、家賃や住宅ローン返済金の滞納といった住まいの危機が現れる。とりわけ生活基盤の弱い非正規雇用の人々、フリーランス、自営業の人々にコロナ禍は襲い、事業所・店舗の休業、閉鎖、倒産等により収入が激減し、住宅費が賄えず路上に押し出される危険もある。
 去4月18日19日に、弁護士や支援団体による全国一斉何でも相談会が開催された際、新型コロナによる解雇や雇い止め、住まいの確保等について約4,800件もの切羽詰まった人々の相談が寄せられたという。
 緊急事態宣言に併せてSTAY HOMEが呼びかけられた。家が無い人々の困惑と絶望と共に、家があっても、ソファで寛ぎペットと戯れて過ごしたくても、また在宅勤務をするにも、我が家には十分な広さも快適さも無いことに気づいた人々は少なくないだろう。ましてや感染軽症者の自宅待機は論外だろう。
 型コロナ禍は、日本の住宅事情の悪さと住宅政策・居住支援の貧困を浮き彫りにした。特に住宅事情が厳しい東京では顕著である。
 さらに深刻な問題は、住宅という密室の中に籠ることを強いられることで、親密なパートナからの家庭内暴力(DV)や児童・高齢者虐待がより一層拡大することが懸念されている。それは外から見えないために支援が難しい。行政も多くの関係者、支援団体も働きかけを強めている。国連ウイメンは早くからコロナ流行下のDV増加に警告を発している。
 うした中で、いくつかの市民運動の成果が見られた。一つは、都内に約4000人と言われるネットカフェで起居している人々へ、東京都が「個室」のホテルを提供したことだ。
 二つには、「住居確保給付金」制度の改善である。これは、リーマン・ショック後に導入された事業で2015年度から国の制度となった唯一国の家賃補助制度である。しかし主旨は失職した人への再就職支援として使い勝手が悪かった。支給金額や期間(原則3カ月)等は同じだが、その他の要件が緩和されて以前より利用しやすくなった。
 もう一つは、10万円の特別定額給付金と児童手当の受給方法である。被害者である世帯主と別居して暮らしている女性とその子どもの受給が可能になった。但し、この給付金について、路上生活の人々は、「受けられる」とされたが、実質的に受給できず諦めた人が多い。最も必要な人には渡らないことになる。
 欧米各国では、家賃補助の増額、賃貸料の猶予や契約解除の禁止等がされている。
 私たちはどのような災害があっても住まいに窮することなく、安全で安心して住める社会を実現したい。家賃補助制度を確立し、多様な社会住宅を供給し、住生活基本法に“住まいの権利”を掲げることだ。

日本科学者会議東京支部つうしん No.631(2020.5.10)

新型コロナウイルスによる社会的危機に JSA はいかに 対峙すべきなのか
JSA 東京支部事務局長 米田貢

 (1)政府は感染拡大の実態を全面的に把握し、公表する義務を怠っている
 5月1日に、新型コロナウイルス問題に関する専門家会議は、緊急事態宣言後の感染拡大について、新規感染者数は減少傾向にはあるものの医療現場は逼迫状態(医療崩壊の危機)にあるとの見解を示した。それを受けて政府は、新たに1カ月間程度の緊急事態宣言の延長を表明した。市民や企業は、不急不要の外出の自粛や休業・営業自粛・在宅勤務の要請の継続を受け入れつつも、このような状態がいつまで続くのか、ウイルスに感染する前に生活そのものが破綻してしまうのではないかとの危惧に直面している。
 日本政府は、この間37.5度以上の発熱が4日間続いている患者や、肺炎にかかっている患者すらPCR検査が受けることができない抑制された検査体制をとってきた。政府発表の感染者数が感染実態を反映していないことは、東京のあるクリニックがHPで希望者を募って行ったウイルス抗体検査で202名中、12名が陽性(5.9%)、うち医療従事者を除く一般市民では147名中7名が陽性(4.8%)であった(『東京新聞』(2020年4月30日付)ことからも明らかである。一般市民の感染率4.8%を1390万人の都民全体に当てはめると、66.7万人以上の都民(20人に1人)がすでに新型コロナウイルスに感染していることになる。
 2)感染拡大の収束の見通しと集団免疫
 ドイツのメルケル首相は感染拡大の早い段階で、専門家の意見をふまえて、このままではドイツ国民の6~7割が感染する恐れがあると言明した。第一次世界大戦当時、世界人口の1/3~1/2が感染し、死亡者数が5000万人~8000万人に達したとされるスペイン風邪再来の可能性の警鐘を鳴らし、感染拡大は集団免疫が獲得されるまで続きうると高いリスクを市民に率直に語り、市民の覚悟を促し、政府の危機管理策への協力を求めたものである。
 これに対して、日本政府が頼りにした専門家会議がとったクラスター感染重視(それに特化した)の感染拡大防止策はあまりに近視眼的で、部分的なものではなかったのか。新型コロナウイルスの特徴をふまえて、感染はいつ、どのような形で収束していくのかの見通しが示されないままに、十分な補償もせずに一方的に市民や企業に対して自粛要請がなされた。抑制された検査体制のもと、実際に感染はしていたが無症状や軽症にとどまった若者や市民が、警戒心を持つことなく普段通りに学校や仕事に行き感染が広がった。政府は、これまでの感染防止策の誤りを認め、徹底したPCR検査と可能な限り多くの市民の抗体検査に踏み出し、何としてでも政府の責任で崩壊に直面しつつある医療現場をただちに立て直さなければならない。
 3)新たな社会的危機に立ち向かうには、社会的合意、国民的合意が不可欠である
 緊急事態宣言の1カ月間の延長によって、新型コロナ危機は未曽有の経済的危機を生み出しつつある。必死の思いで経済の長期停滞をかろうじて凌いできた自営業者や中小零細企業の多くは、内部留保をため込んできたグローバル大企業と異なり、日銭=日々の営業収入が頼りである。緊急事態宣言後の1カ月間の休業や営業自粛で、すでに事業継続は困難になり生活のめどが立たなくなっている。2000万人を超える非正規労働者を中心に多くの労働者が職と賃金を失いつつある。いま政府に求められているのは金融的支援や部分的な補償ではなく、生活困難者の全面的な救済である。だが、そのためには巨額の財政支出が必要である。GOP比で200%を超える政府債務を抱えている日本では、財政規律を重視してきたEU諸国や基軸的国際通貨国のアメリカと異なり、緊急事態下であるとはいえ財政支出のさらなる拡大には新たな国民的合意が必要であろう。
 経済的な問題以外にも、特効薬やワクチンの開発に期待しつつも、集団免疫に至るまでの間どのようにして社会を維持・存続させるのかが、人類全体に、そしてそれぞれの国の国民に、一人一人の市民に問われている。市場経済、すなわち商品と貨幣との交換が生活と生産のすみずみにまで浸透している現代社会でソーシャル・ディスタンスをどこまで確保できるのか。密閉・密集・密接(濃密)を回避して本当に学校生活、企業活動は成立しうるのか。保育所や病院、高齢者施設で接触なしのサービスに人々は満足できるのか。カネ、モノだけでなくヒトまでもが世界中を自由に往来するグローバル段階で外国からの新たなウイルスの侵入をどのようにして阻止するのか。いずれの問題も、市民社会レベルでの新たな社会的合意、国レベルでの新たな国民的合意が不可欠である。新たな社会的危機の進展に対して科学者としての立場から時代を見据え、新たな社会的合意の成立に向けた努力がJSAに求められている。

日本科学者会議東京支部つうしん No.630(2020.4.10)

植民地支配克服と世界の潮流
東京大学 総合文化研究科 岡田泰平

 植民地支配とは、近代的な現象であり、人種的他者による立法権の奪取と行政権力による社会改革である、と一応は言えよう。また、人種差別を中心的な価値としつつも、その理念とは、「発展」をもたらすことだった。
 世界史的にみると、19世紀末には近代的な植民地支配が拡大し、20世紀初頭には地上のほぼ全てが、帝国の中核地域か、植民地支配を経験した地域か、植民地そのものだった。中国のような例外でさえ、清帝国の崩壊と列強の侵出に苦しみ、「半植民地」に陥っていく。このような状況は、1930年代末には危機を迎え、レーニンの言う帝国間の戦争が勃発する。植民地における独立運動とも複雑に関係するなかで、世界大戦へと陥っていく。アジア諸国に目を向けると、日本敗戦を契機として、植民地が国民国家として独立を果たしていくことになる。
 帝国にも(半)植民地にもなったことのない国家は極めて稀なのであり、地球上のほぼ全ての人々が、植民地支配をした側か、支配された側だったことがあるのだ。立場は異なると言え、植民地支配への関わりは人類の共通経験である。国民国家が地表上を覆った20世紀後半には、この点からは、一応は植民地支配の克服はなされた、と言えよう。
 さて、今現在私たちは、植民地支配とは異なる世界共通体験のなかにいる。いまだに感染源不明のコロナウィルスが、この先、どれくらいの人に死をもたらすのかは予想すらつかない。この危機が世界をどのように変えていくのかは、予見もできないが、植民地支配の歴史と比べると次のことが言える。
 一方では、19世紀末と同様に、私たちは圧倒的な貧富の格差の大きい世界に生きている。例外はあるとしても、豊かな北は帝国を継承し、貧しい南は植民地支配を受けた地域である。この度の危機は、貧富の格差が死に直結する危機そのものであることを、改めて突きつけるだろう。その際に、南や国内の貧しい人々と、共に歩むことが求められる。貧困層を助けるためには私たちが彼らを「管理」しなければならないであるとか、貧困層こそが感染源であり排斥しなければならないなどという、植民地主義の亡霊の復活は断固妨げなければならない。
 他方では、コロナ禍は行政上の問題でもある。現在、北米や西欧といった帝国の中核だった地域が、もっとも苦しんでいるのは、歴史の皮肉と言えるかも知れない。死か、行政権力の肥大化か、という二者択一に傾いていくなかで、どのように日常生活を守ることができるのだろうか。私たちは、市場経済のために労働者に死をもたらしかねないトランプ主義にも、自らの責任を顧みず行政権力の肥大化を誇る習近平のやり方にも抗さなければならない。
 このような危機における日常的な抵抗こそが、植民地支配克服の現時点と言えるのであろう。

日本科学者会議東京支部つうしん No.629(2020.3.10)

日本科学者会議の輪を広げる取り組みへのみなさまのご参加とご協力を
JSA 東京支部組織部長 森原 康仁

 会員拡大特別強化月間(2 月~4 月)の滑 りだしは好調です(東京科学シンポの前後で 10 名新たに入会)。
 すべての会員の努力で 5 月 24 日の支部大 会までに今期の目標 50 名の新たな会員を迎 えましょう。
 日本科学者会議は、科学を人類に役立て正 しく発展させるために、科学研究に携わる科 学者がその社会的責任を自覚し、科学の各分 野を発展させ、その成果を平和的に利用する よう社会に働きかけることを目的とした総 合的な学術団体です。「科学」は「知」と言 い換えてもよく、人文・社会・自然科学にく わえ、法曹や教育など専門性に裏付けられた 知をもつ多彩な会員を擁するのが本会の特 徴です。
 さて、1 月 26 日に開かれた第 4 回幹事会 は、本会の輪を大きく広げるためにあらたな 取り組みを開始することを確認しました。 具体的には、会の中で会員拡大を意識的に 進める部分が不可欠という認識のもとに、
 ① 各分野の状況把握を集団的に進める、
 ② 分野ごとに会員拡大の方策を具体化する
  (たとえば、若手については後継者の 育成と
  いう観点からも 40 代の若手、OD、 現役院生
  といった若手の中での世代間 交流を進めるなど)
という 2 点の取り組みを進めることになり ました。
 また、「意義や理念は理解できるが、日常 的な取り組みがないため辞めてしまう方が いる」という意見が出されました。とくに弁 護士や自然科学の分野では独自の取り組み の必要性が指摘されました。さらに、会誌で ある『日本の科学者』の執筆の輪を広げるこ とで、まだつながっていないあらたな方への 入会の働きかけを進めることが重要だ、とい う意見も出されました。
 『同時に、日本科学者会議の会員数が顕著に 増えた時期の取り組みを学ぶ場も設けたい と考えています。
 上述のように、本会は学術・科学の発展に とってなくてはならない「器」です。先般開 かれた東京科学シンポジウムの記念講演を 引き受けてくださった新聞労連委員長・元朝 日新聞政治部記者の南彰さんは、研究者や専 門家がその社会的役割を自覚して活動して いることに大きく感銘を受けておられまし た。私たちが考える以上に、日本科学者会議 の活動は必要とされています。
 日本科学者会議の輪を広げる取り組みへ のみなさまのご参加とご協力を心よりお願 い申し上げます。

日本科学者会議東京支部つうしん No.628(2020.2.10)

今に生きる「寅さん」の心
東京都教職員組合 工藤 芳弘

 映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公 開された。第 1 作は 1969 年。それから 50 年 目に当たる昨年に映画は完成した。1995 年ま でにシリーズ 48 作。渥美清さんの死後、「寅 さんにもう一度会いたい」という声に応え、 『寅次郎ハイビスカスの花』(第 25 作)を全 面的にリニューアルし、過去の名シーンも加 えた特別篇(第 49 作)も作られた。今回も同 様に、過去の映像とともに寅さんが第 50 作目 としてよみがえった。
 「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。 帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎。 人呼んで、フーテンの寅と発します」。『男は つらいよ』といえばこのセリフにピンとくる のが寅さん世代だろう。このセリフがスクリ ーンから消えて 4 半世紀も経った。『男はつら いよ お帰り 寅さん』にはそんな思いが込め られているのかもしれない。
 それにしても、寅さんの失恋で終わるワン パターンの映画が、多くの観客の笑いと涙を 誘い、全 48 作品という大作として愛され続け てきたのはどういうことなのか。「寅さんは好 きだが、寅さんみたいな人が身内にいたら大 変だ」などということもよく耳にした。そん な寅さんを、みんなが愛してきた。『みんなの 寅さん』という寅さん本も出ているのだ。
 山田洋次監督は、「『男はつらいよ』シリー ズは今から半世紀前に誕生した。その頃日本 経済は右肩上がりで一生懸命働けば報われる、 今に豊かな時代が来る、という実感の中で日 本人の心は充実していた。『寅さん』はそんな 時代の日本の民衆が求めていたキャラクター だった。真の幸福とは何か、という考察を離 れて物質的豊かさのみを目指す自分の姿の恥 ずかしさを、笑い飛ばすことによって自ら慰 め、安心する、それが寅さんシリーズの魅力 だったのではないだろうか?」と語っている。
 しかし、寅さんの時代と今の時代は余りに も様変わりしてしまった。「管理社会」「格差 社会」「貧困化」など、生きづらい時代が今だ。 人々の生活にはいつも「不安」がつきまとっ ている。寅さんが愛したこの国の風景は姿を 消したかのように思えてならない。今の時代 に、寅さんの生きる余地はあるのだろうか。
 そこに『お帰り 寅さん』と 50 作目だ。 迷いの中にある甥の満男が、「こんな時、お じさんがいたらどうするだろう」と回想し、 「伯父さん、人間は何のために生きてんのか な」と聞いた時のことを思い出す。寅さんは、 「生まれて来てよかったな、って思う事が何 べんかあるんじゃない。そのために生きてん じゃねえか」「そのうちお前にも、そう言う時 が来るよ。まぁ、がんばれ」と応える。(第 39 作『男はつらいよ寅次郎物語』)
 『男はつらいよ』は、ある意味、満男の成 長記録だとも言える。今に生きる満男の中に、 寅さんは生き続けているのだ。そして私たち の心の中にも・・・。第 50 作目の『男はつらい よ』は、そのことを訴えているような気がし てならない。

日本科学者会議東京支部つうしん No.627(2020.1.10)

第20回東京科学シンポから23総学へ
JSA東京支部代表幹事 松永 光司

 新年おめでとうございます。激動の国内外 情勢のもとで日本の社会も暮らしも大きな転 換点を迎えつつある2020年、今年もみなさま と力を合わせて前進したいと思います。
 昨年を振り返りますと、東京支部最大のイ ベントは 11 月 30 日、12 月 1 日に中央大学多 摩キャンパスで開催した東京科学シンポジウ ムでした。隔年開催のこのシンポジウムはち ょうど20回を迎え、メインテーマ「理性と希 望の平和な時代を拓く―実現しよう、個人の 尊厳と生活の安心―」のもとに、2つの特別 報告、20 件の分科会、市民参加の 5 件の展示、3 つのプレ企画を実施しました。なかでも分科 会では71件の多彩な発表があり、シンポジウ ムの充実に大きく貢献しました。参加者数は、 分科会に延べ約 260 人、プレ企画を合わせた 総参加者数は延べ約 350 人にのぼりました。 案内チラシを握って受付に来られた方など、 少なくない市民の方が来場され、分科会で熱 心に発言されていた姿が印象的です。東京科 学シンポジウムでは、国民の直面している切 実な問題と正面から向き合い、市民と連帯を ふかめることを伝統としてきました。分科会 のこうした様子もその伝統を生き生きと示し ています。そしてこの期間に 8 人の入会者を 迎えたことは大変うれしいことです。こうし て全体としてこの第20回東京科学シンポジウ ムは大きな成功を納めました。実行委員、会 場校関係者のみなさま、参加者のみなさま、 そして、シンポ募金で財政を支えてくださっ た方々に心から感謝いたします。「私たちは真 理の探究者であるとともに、国民の意識する もろもろの要求の表現者であり、科学的根拠 の提供者でありたい」との視点を基本に今後 も努力を重ねたいと思います。
 ところで今年は、第 23 回総合学術研究集会 (23 総学)の開催年です。東京支部は担当支 部となり、関東甲信越 9 支部と協力して、12 月4~6日、都内の大学を会場に開催するこ ととなりました。
 いま安倍政権は、安保法制・戦争法強行か ら9条改憲策動、「桜を見る会」問題に至るま で立憲政治を破壊しファッショ化へ暴走し続 けています。また安倍政権は「研究力低下」 論を振りまいてアベノミクスの破綻を「研究 力低下」に責任転嫁し、さらにこれを理由に 大学への介入を強め、大学・学術の危機は深 刻さを増しています。こうした経緯が示すよ うに大学・学術の危機は国民生活の疲弊・危 機と深く結びついており、研究・教育者とし ての特有の課題・要求も、広範な国民各層と の連帯・共同にもとづいてのみ根本的な解決 がはかられます。
 そうした広範な連帯・共同を求め、学術の 現状と国民生活について様々な視点から議論 ・交流を深める場として、23 総学は大きな意 義をもっています。東京科学シンポジウム成 功を力に、支部会員みんなの力を集め、23 総 学を成功させようではありませんか。

日本科学者会議東京支部つうしん No.626(2019.12.10)

経済産業省主導の「教育ICT」の問題を問う
大東文化大学文学部教育学科講師 中村 清二

 日本は災害列島て゛ある。毎年、日本各地て゛人 的被害を伴う“自然災害”か゛起きている。
 この間の教育政策では、官邸・経済産業省 主導の「教育の ICT 化」が進められている。 それは、幼児教育から高等教育まで、特定企 業が一人ひとりの行動や育ち・学びの履歴、 テスト結果をビックデータに集積・管理し、AI が個別最適化された学びを導くという構想だ。 国家戦略としてこれを進めるという。
 先端情報技術の活用を謳うのが「教育の ICT 化」だが、先端性や効率性の利点ばかりが喧 伝される。しかし、看過すべきでない教育学 的視点がある。たとえば、健康や発達段階と の関連、学びに欠かせない共同性、感性の組 み尽くせない豊かさ、メディア・リテラシー などとの関連、いくつもある。さらに、公教 育が担ってきた教育の平等性や公共性、教職 員の働き方やその専門性まで変質させる危険 性があるからだ。
 滋賀県で開催された夏の全国教研「教育の つどい」では、こうした状況を検討するフォ ーラムが設置されていた。東京から報告され たのは、「どうして?」「なんで?」と聞いて いるのに「はい」「いいえ」で答えてしまう子 どもたちの姿。また、家庭学習と称される大 量の宿題(学年× 10 分という設定)、多くの 習い事、学校での授業の長時間化などから来 る、疲労感の蓄積。加えて、低中学年の子ど もたちに欠かせない「具体的活動」が、ICT 機器を使った授業によって減少していること。 大阪では、府独自の「チャレンジテスト」や大阪市独自の学力テストなど、合わせて年 10 回以上もの学力テストが実施。特に、「チャレ ンジテスト」が高校入試の内申点に反映され る。京都の高校現場では、すでに相当な規模 で、日常的に民間教育産業が入り込んでいる。 テストや検定、教材や宿題、学習記録、教職 員研修にまで多岐に渡る。
 ある高校の年間行事計画が目を引く。1 年 生から 3 年生まで、企業名を冠したテストや サービスが 2 ヶ月に一回以上のペースで予定 される。日常的にはさらに希望者のみの講座 や教材配信システム活用が推奨される。そこ に、「学びの基礎診断」や大学入試への民間英 語検定の導入が拍車をかける。高校はすでに サービスを提供する場所で、企業の支店さな がら、教師はその窓口担当者だ、という。
 児美川孝一郎さん(法政大学)は、ICT 活 用による「個別最適化された学び」等の推進 が、学校を規格化し、教育を経済市場へ開放、 ひいては教育の公共性を「融解」させつつあ ると報告。エリート向けには「主体化」を、 そうではない作業層には「規律化」を求める という二つの人間形成像が今般の学習指導要 領で打ち出されたという。
 それに対抗するには、危機感を広く共有し てもらうこと、学びの共同性、私たちの「キ ャリア教育」などを積極的に構想する必要が あると述べていた。

日本科学者会議東京支部つうしん No.625(2019.11.10)

近年多発する災害を考える
東京都土木技術支援・人材育成センター 技術情報専門員 中山 俊雄

 日本は災害列島て゛ある。毎年、日本各地て゛人 的被害を伴う“自然災害”か゛起きている。
 2018年は2つの地震災害と、西日本豪雨災害を 含む水害か゛あいつき゛、この年を表す漢字として 「災」か゛採用された。今年に入っても災害は続いて 起きている。とりわけ9月の台風15号て゛の南房総て゛ の被害、さらに追い打ちをかけるかのように10月の 台風19号と10月24~25日の低気圧に伴う大雨か゛ 関東、東北地方を襲い、各地に大きな被害か゛もた らしている。
 台風15号の災害は暴風雨による。南房総の家 屋に大きな被害(特に屋根瓦被害)を与えるととも に、送電線鉄塔の倒壊、倒木による架線事故によ り長期にわたる停電を引き起こした。台風19号と続 く大雨は、東日本各地て゛の堤防決壊(52河川73ヶ 所)、家屋浸水か゛起き、死者90名、行方不明者10 名という人的被害を出している(消防庁10月29日)。
 今回の災害の素因としては、各地て゛観測史上 最大の降雨量か゛あったことと、台風か゛相継き゛関東・ 東北地方を襲ったことにあるか゛、被害か゛多発した 原因を素因た゛けに求めることは出来ない。被災地 調査か゛十分に進んて゛いる状況て゛はないか゛、例え は゛、新幹線車両か゛水没した長野市穂保地区て゛の 堤防破堤は、河道幅か゛狭くなる区間にあたり、河 川敷には流量阻害する樹木か゛繁茂している。昨 年の西日本豪雨て゛の倉敷市真備町て゛の災害、高 梁川の支流の逆流(ハ゛ックウオーター現象)による 堤防決壊と酷似している。河川を管理する国交省 地区千曲川工事事務所て゛は、この地点の堤防高 か゛、他より低い所て゛あり要警戒地点て゛あったという(10月14日東京新聞)。2015年常総水害と全く同 し゛現象か゛また繰り返されたのて゛ある。堤防決壊を 防き゛越流た゛けにとと゛める工法か゛あることは、河川管 理者にとっては自明のことて゛ある。
 2018年北海道胆振東部地震の時に、私は札幌 におり地震による停電を体験した。電気か゛止まると いうことか゛、いかに日常生活に大きな影響を与える かを痛感した。電気は都市機能維持の生命線て゛ ある。
 この停電は北電の電力系統に問題か゛あり起き たものと思っていたか゛、今回の15号台風による停 電原因をみると、東電の電力供給への防災対策 に大きな問題か゛あることか゛明らかになった。この2 つの台風による災害誘因は、いす゛れも、過去の災 害事例を真摯に受け止めていなかったことにあ る。近年の災害て゛は、直接死よりも災害関連死か゛ 大きいことか゛指摘されている。報道される避難所の 状況は、1995年兵庫県南部地震て゛の避難所の状 況と全く変わっていない。
 同し゛災害国て゛あるイタリアて゛は、災害に学ひ゛、災 害防護国民サーヒ゛ス設置法(1992)を制定し、被 災後たた゛ちに被災者にトイレ、キッチンカーによる 食事、ヘ゛ット゛か゛準備されるという。被災生活か゛日常 生活と離れたものにしない対策か゛取られている。 国土強靭化をうたいなか゛ら、防災対策か゛遅れ、被 災者の生活再建支援法の改正要求にも目をつふ゛ る現政権の施策か゛最大の災害拡大誘因て゛ある。 社会構造の変化とともに災害は進化する。我われ か゛対処すへ゛き相手は、隣国て゛なく来るへ゛き直下地 震、富士山噴火、巨大豪雨て゛ある。

日本科学者会議東京支部つうしん No.624(2019.10.10)

2019参院選 低投票率をと゛う見るか
東京慈恵会医科大学 小澤 隆一

 日本は災害列島て゛ある。毎年、日本各地て゛人 的被害を伴う“自然災害”か゛起きている。
 さる7月の第25回参議院通常選挙は、史上2番 目の低投票率(48.8%)という結果て゛あった。また、 全国約47000の投票区から188を抽出した集計て゛ は、18歳か゛34.7%、19歳か゛28.1%という数字か゛上か゛っており、「民主主義の危機」との指摘も聞こえる。 これらの数字をと゛う見たらよいか。
 以下は、過去のいくつかの参院選との対比を示 す表て゛ある。
参院選(回数・年) 全体投票率 20 歳投票率 19 歳投票率 18 歳投票率 備 考
15 回 (1989) 65.0% 41.6%
17 回 (1995) 44.5% 22.9% 投票率最低
20 回 (2004) 56.6% 33.0%
24 回 (2016) 54.7% 34.8% 39.7% 51.2%
25 回 (2019) 48.8% 28.1% 34.7%

 若者の投票率の低さは、今に始まったこと て゛はない。しかも全体の投票率の高低と連動 している。低投票率問題は、ます゛もって、す へ゛ての年代層の問題としてとらえる必要か゛あ る。その点て゛、注目すへ゛きは、前回2016年と 今回の参院選における東北 6 県て゛の投票率て゛ ある。自民党候補と野党統一候補との一騎打 ちとなった 6 県の選挙区選挙は、前回は野党 の5勝1敗、今回は4勝2敗と、自民党の単 独過半数や改憲勢力 3 分の 2 を阻止するのに 大きな役割を発揮した。これら野党統一候補 か゛勝利した東北各県て゛は、前回を少々下回る 投票率をキーフ゜したところか゛目立つ。候補者 の陣営と有権者の熱意か゛一体化した選挙こそ、 投票率もアッフ゜するし、それにより自民候補 を打ち破ることか゛て゛きることを示している。なお、若者の投票率は、20 代の前半、とくに 20 ~22歳当たりの投票率か゛顕著に低く、25歳か ら30代、40代と投票率か゛上昇していく傾向か゛ ある。前回2016年の参院選は、「18歳選挙権」 か゛実現して初めての国政選挙て゛あったことか ら、高校生も含む18歳の投票率は、全体平均 並みの「高さ」をキーフ゜した。その一方て゛、19 歳は、20 歳の数字に近つ゛いている。今回の参 院選て゛は、18歳の投票率は若干高いとはいえ、 19 歳や 20 歳なと゛大学生か゛多くを占める年代の それに近つ゛いたとみることか゛て゛きる。
 こうしてみると、若者の低投票率問題は、「学 生問題」としての性格を有しているといえよ う。2015 年に明るい選挙推進協会か゛行った調 査によると、親元を離れて暮らす大学・短大 生のうち、住民票を移しているのは 26%て゛、 63%は移していない。選挙区外から投票用紙 を取り寄せて期日前投票と同様に投票をおこ なう「不在者投票」の制度もあるか゛、自治体 によっては、居住実態のない申請者に対して 不在者投票を認めないところもある。若者の 低投票率問題は、ティーンのうちからの主権 者教育の充実も必要た゛か゛、投票を阻害しない よう制度改革も求められると言えよう。
日本科学者会議東京支部つうしん No.623(2019.9.10)

それて゛も女性たちは着実に歩み続ける
駒澤大学経済学部教授 姉歯 曉

 日本の女性たちか゛初めて「人間として」の尊厳 を認められたのは新憲法のもとて゛て゛あった。女性 か゛自立した個人として認められる、それか゛憲法24 条の精神て゛あった。しかし、その後、旧支配層か゛ 巻き返しを図るや、女性解放の歩みは押し戻され ていく。
 日本国憲法の成立後も実質的効力を持ち続け る家制度は、資本主義の再生過程て゛打ち捨てら れると゛ころか、見事にリサイクルされていった。農 家の女性たちは変わらす゛タタ゛働きを強いられ、憲 法上は認められているはす゛の財産権も実際には 農家の嫁には認められなかった。農家女性たちか゛ 「嫁」から「フレッシュ・ミス゛」と呼は゛れ、「田舎のヒロ イン」と褒め称えられる時代になっても、家事に育 児、介護のほとんと゛は変わらす゛女性たちの肩に背 負わされ、資産は貯金と車た゛けて゛ある。女性労働 者の方は、かつて結婚年齢なるものを盾に「肩た たき」か゛行われたのた゛か゛、今はそんな強制力を働 かせることはて゛きないし、そんなことをする必要もな い。夫の転勤、子育ての負担、親の介護に直面し た時に女性たちは「自主的」に離職するからて゛あ る。とはいえ、非正規て゛働き続けなけれは゛家計は 成り立たない。非正規としての差別的待遇に押し 込められる女性たちは経済的自立から遠さ゛けられ たままて゛ある。
 そして、今、右派か゛憲法9条と並んて゛攻撃する のは憲法24条て゛ある。両親に祖父母、子と゛もたち て゛構成される「伝統的家族」という幻想を利用して 家父長制の根幹をなす「家」の従属物としての女性の姿を取り戻そうとしている。しかし、女性やLG BTに対して幾度も繰り返されるヘイトは、実は反 乱の狼煙に支配層か゛狼狽している証拠て゛もある。
 伊藤詩織さんの告発、Me Too#やKu Too#の 広か゛りを前にして、右派勢力は焦っている。アンテ ナを張り、火の手か゛上か゛りそうた゛となれは゛直ちに動 員をかけ延焼を食い止めようとする。少して゛も妥協 してしまったら、そこから一気に支配のシステムか゛ 崩壊する、そのことを想像したた゛けて゛恐怖て゛居ても 立っても居られす゛、部屋の中をうろうろ歩き回る彼 らの姿・・・「生産性発言」や「レイフ゜無罪判決」の繰 り返しからはそんな光景か゛浮かんて゛くる。
 て゛は、女性たちはこれからと゛うしようか。米田佐 代子氏はこう述懐する。「いくと゛も『た゛まされて』きた 女たちは、また゛疑い、あたりを見回し、子と゛もを抱 きしめてためらいなか゛らも、自らの足て゛大地をふみ しめ、みす゛からの手て゛一歩す゛つけわしい坂道をの ほ゛りつめる道をえらひ゛つつあったのて゛ある。(永原 和子・米田佐代子『おんなの昭和史』(増補版)お んなの平和な明日を求めて』有斐閣選書1996年、 176ヘ゜ーシ゛)」
 これからも騙されるかもしれない、利用されるか もしれない。それて゛も歴史か゛示してくれるのは、押 し戻されても女性たちはまったく同し゛地点には戻ら ないという事実て゛ある。狼狽せす゛、諦めす゛、分断工 作に乗ることなく、「万国の女性たち、団結せよ」な のて゛ある。

日本科学者会議東京支部つうしん No.622(2019.8.10)

改憲3分の2議席阻止に確信を持ち、総選挙て゛革新共闘の勝利を
法政大学名誉教授 五十嵐 仁

 参院選の投開票日翌日の朝刊には、「与党勝 利」(読売)、「自公改選過半数」「改憲勢力2/3は 届かす゛」「野党共闘1人区10勝」(朝日)なと゛の見 出しか゛躍っていました。果たして与党は勝利した のて゛しょうか。
自公両党て゛改選と参院の過半数を確保したの は事実て゛す。しかし、自民党は9議席減らし、比例 の得票は240万票の減、絶対得票率(有権者に占 める割合)は18.9%て゛2割以下となり、単独過半数 を維持て゛きませんて゛した。これて゛「勝利」と言えるの て゛しょうか。
しかも、自民・公明・維新の合計議席て゛、改憲発 議に必要な3分の2に4議席足りません。選挙戦て゛ 安倍首相は「改憲」を「議論」にすり替えて支持を 訴えましたか゛、それて゛も議席を減らしたのて゛す。有 権者は明確に「ノー」を突きつけたことになります。
この結果は、安倍改憲「ノー」を訴えてきた人ひ゛ とにとっては3度目の勝利ということになります。昨 年の国会て゛改憲発議を阻み、3000万人署名て゛世 論を変え、発議に必要な議席を割り込ませたのて゛ すから。
このような勝利を可能にした要因は、市民と野 党の共闘によって1人区て゛10勝したことにありま す。改選2議席を5倍にしての8議席増て゛すから、 自民党の9議席減の大半を1人区て゛実現しました。 そのほとんと゛は新人候補て゛知名度に劣り、出遅れ か゛あったにもかかわらす゛、平均27%増という「共闘 効果」によって勝利することか゛て゛きました。
参院て゛の1人区は32て゛すか゛、衆院て゛は小選挙区289すへ゛てか゛1人区て゛す。野党共闘を深化・発 展させ、政策合意を基に相互の連携と支援を強め れは゛、さらに大きな成果を上け゛ることか゛て゛きます。2 年以内に総選挙は確実て゛すから、今から準備を 始めなけれは゛なりません。
野党て゛は、立憲民主党か゛改選9から17へほほ゛ 倍増、国民民主党か゛改選8から6へ2減、共産党 は改選8から7へ1減、維新は2増の10、社民党は 改選1を維持しました。比例代表て゛の議席は与党 26対野党24て゛すか゛、得票率て゛は与党48.42%対 野党50.12%と野党の方か゛多くなっています。
「れいわ新選組」か゛2議席、「NHKから国民を守 る党」か゛1議席獲得するなと゛、新しい動きもありまし た。政治の現状や既成政党への不満や批判か゛鬱 積していることの表れて゛す。れいわを糾合しつつ 解散・総選挙を実現し、勝利することか゛これからの 課題て゛す。
与党は参院の過半数を確保したものの自民党 単独て゛は法案を通せなくなりました。ホルムス゛海峡 て゛の「有志連合」への参加、米中貿易摩擦の影 響、日米貿易交渉て゛のトランフ゜政権からの攻勢、 日韓関係の悪化、イキ゛リスのEU離脱なと゛国際情勢 は波乱含みて゛す。
景気か゛低迷している下て゛の消費税10%への引 き上け゛や「アヘ゛ノミクス」の「出口戦略」による国債 暴落なと゛による経済破たんのリスクもあります。疾 風怒濤か゛渦巻く中て゛の船出て゛政治の安定は難し く、レームタ゛ック化か゛避けられない安倍首相に乗り 切れるのて゛しょうか。

日本科学者会議東京支部つうしん No.621(2019.7.10)

「論文数減少」「研究力低下」「大学の危機」に 関 す る 議 論 に 寄 せ て
東京支部参与 長田 好弘

 このほと゛、文科省の「科学技術指標」や『ネイチ ャー』の指摘に端を発して、日本の「研究力低下」 と「大学の危機」か゛議論されるようになった。中国 や米国の論文数か゛高い伸ひ゛を示すなか、日本は 論文数・大学ランキンク゛ともに下落傾向にあり、 「研究力に関する国際的地位の低下の傾向か゛伺 える」との指摘て゛ある。『ネイチャー』はその原因と して、科学技術関係投資の伸ひ゛悩みと国立大学 の運営費交付金の減少、若手研究者か゛任期なしの職を得る機会の減少を挙け゛ている。日本の大部分の研究者か゛同感する穏当な指摘と言えよう。また、多くの誠実な研究者か゛、さらに加えて、「選択 と集中」「競争政策」か゛もたらす「研究力」の弱体化 ・破壊の恐ろしさをも指摘している。
 他方、多くの政府文書か゛示す官邸主導の議論 は、日本の科学技術予算は主要先進国と比へ゛て 遜色ない、運営費交付金の減少も競争資金の導 入て゛十分補っている、学内て゛の研究費の配分・執行に問題か゛あるのて゛はないか、論文数か゛少ないのは新しい研究領域への挑戦意欲の貧困と大学の 人事・組織の硬直性に起因する、改善には司令塔機能の強化か゛必要て゛ある、今後は人事給与マネシ゛メントの改革(業績評価、年俸制、学外理事の 複数登用の義務化、学長のリータ゛シッフ゜強化な と゛)をいっそう強力にすすめる、等々を強調してい る。まし゛めな議論を放棄させようとする権力機構特有の恐ろしい強弁、詭弁て゛ある。
 ところて゛、日本の「研究力」を議論する場合、国 の経済活動を左右し、研究者の重要な就職先て゛もあり、日本の研究費総額の約7割、研究者総数の約6割を占める企業の研究活動の実情を考える 必要か゛ある。日本の企業は、ハ゛フ゛ル崩壊後、所有する研究所を縮小し、論文数はその後約4割も減少し、日本の論文数の減少はそこにも起因することか゛指摘されている。研究開発の高度化のため、 企業内て゛の研究者養成か゛困難、基礎から応用に至る研究過程のわかる産業人や社会・産業のニ ース゛を俯瞰て゛きる研究者の不足、といったことも指摘されている。とくに官邸主導て゛連発される文書は科学知識に乏しく実態にそく゛わないとの指摘もある。しかし企業は、独自に研究組織と活動の改革を重ね、国民の期待する生活資料の提供を使命つ゛けられているのて゛あるから、現在の「科学技術 イノヘ゛ーション創出力」低下の責任の一端を深く 自覚すへ゛きて゛あり、すへ゛てを大学のせいにするの は、自らの社会的存在意義の放棄と言えよう。
 質的低下の深刻さか゛指摘される各種報道においても、官邸主導の議論や方策て゛は解決不能な憂慮と先見的視点も散見される。長期的展望に立 っての人類の幸福を展望した研究活動の重視を、 論文数た゛けて゛「研究力」の全容を推し測ることは不 可能て゛あり、大学の在り方や方向性を議論するのは危険て゛ある、日本の研究活動の歴史的変遷と 各地域的特性を配慮した独自の「研究力」評価か゛ 必要て゛はないか、等々の意見て゛ある。
 これらの議論と実行の基本に据えるへ゛きは、ます゛は大学において、社会進歩のため人類普遍の原理とされる真理の探究を最優先とし、わか゛国の平和憲法の豊かな実現をめさ゛す教育に力を尽くすことて゛はなかろうか。企業においては、儲け本位に走るのて゛なく、これまて゛に優秀な製品を産出してきた研究開発の原則を堅持して、国民の福祉向上に資する製品開発をめさ゛すことて゛はなかろうか。 民主主義と対等平等を原則とした両者の協力も重要となろう。日本の研究者はその際、軍事費に手 を出さす゛世界に伍して論文創出を果たしてきたことを大いに誇りて語るへ゛して゛あろう。
 ここて゛再度官邸主導の議論をふり返ってみる と、論文数の減少をとらえ、大学に対しては、「研 究力低下」をそしり、それをテコに官邸主導の大学改革の押しつけと大学の自治・人事権の剥奪等を策しているように見える。新たなファシス゛ムをめさ゛して、従順・忠誠心を執拗に要求しているように見える。国民に対しては、先の大戦の敗北の要因・責任を科学技術のおくれのせいにして、国民の視線 を真の敗因からそらそうとしたように、いままたアヘ゛ノミクス全面破綻の要因を「研究力低下」に転嫁しているように見える。私たちはここて゛、日米科学技術協力協定( 1988 年)のもと、「国家的重要性を有する科学技術開発」はすへ゛てアメリカの思惑のもとに計画・実行されていることにも心すへ゛きて゛あ ろう。日本国民に必要な「研究力向上」は一筋縄 て゛はいかない現実か゛ある。
 「研究力」一つとってみても、深刻な矛盾をはらみなか゛ら、官邸主導による大学企業化への暴挙は 大学およひ゛企業の研究者の連帯の条件を広け゛て いる。アヘ゛ノミクス総破綻による市民の政治的要求の高揚は科学の必要を必然としている。研究者と市民の統一戦線の条件はかつてなく広か゛ってい る。選挙を通し゛て、社会的理性を社会的力に転嫁する条件は以前にもまして成熟している。不合理には永遠の不服従を! 知の連鎖の拡大強化を!
日本科学者会議東京支部つうしん No.620(2019.6.10)

「気候正義」に挑む ― 「知的衝動」と「日々の格闘」
公害・地球環境問題懇談会 事務局次長 清水 瀞

 私は2011年11月、“解離性大動脈瘤”て゛牛久市 内の病院の集中治療室にいた。3・11福島原発事 故の10/30福島県民大集会の帰途のハ゛ス車内て゛ 発症、翌日緊急入院となった次第。この入院中に 友人の池田佳子さんから差し入れられたのか゛「ショ ック・ト゛クトリン―災害便乗型資本主義」(ナオミ・ク ライン著)て゛あった。ナオミ・クラインはその後、「こ れか゛すへ゛てを変える―気候変動vs資本主義」「N Oて゛は足りない」の三部作をもって地球温暖化の 危機と根源的な変革を鋭く問う提起をおこない、 私に「知的衝動」を与えてくれた。私たち公害・地 球懇の運動にも大きな刺激を与え、活動の原動力 となっている。
 「なくせ公害、守ろう地球環境」の運動・公害・地 球懇のかかけ゛ているこの運動目標は1990年結成 のときに打ち出したものて゛あり、「公害は終わった。 これからは地球環境の時代。誰もか゛加害者・被害 者となる」という政府・産業界の攻撃に対し、「公害 は解決していない。足元の公害と地球環境問題を 一体的にたたかう」との決意を示すものて゛あった。
 1992年のフ゛ラシ゛ル・リオの「地球サミット」には水俣病・大気汚染の公害被害者と共に100名を超え る代表団を送り、1997年COP3(京都)て゛は現地 事務所を構え、高尾山の天狗みこしを担いて゛京都 市内をハ゜レート゛した。
 2009年COP15(コヘ゜ンハーケ゛ン)から 2015年 COP21(ハ゜リ)の歴史的な「ハ゜リ協定」合意に至る まて゛温暖化問題に継続的に取り組むハ゛ックホ゛ーン となっている。それは同時に、全国公害被害者総 行動と結ふ゛取り組みとして44回を重ねいまも続い ている。
 この前進と発展こそか゛世界の常識となっている 「気候正義」の市民運動として日本的な定着の方 向と考えられないた゛ろうか。危機と困難こそか゛「変 革のチャンス」全印総連敵視の93名の指名解雇 攻撃とたたかった細川争議解決後から36年、私の 関わったカネミ油症事件・水俣病・大気汚染はい まも根本的な解決に至らす゛、福島原発事故被害 は先行きか゛見えない困難に直面している。
 その苦しみの根源て゛ある「犠牲のシステム」を解 明し、問題意識をと゛う共有するか。「国策の失敗」 を認めす゛、「加害責任」をとらない国・企業に対し 「力のある正義」の運動をと゛う具体化するのか。そ れか゛て゛きれは゛“危機・困難”は必す゛突破て゛きるか゛、 この古くて新しい課題に挑戦する「日々の格闘」か゛ 続いている。
 歴史的な転機となる「2020年」を前にいよいよ 「ハ゜リ協定」の実行段階に入る。化石燃料セ゛ロ・再 エネ100%の目標に世界か゛動いている時に“原発 ・石炭生き残り”のエネルキ゛ー政策を頑として変え す゛、「9条改憲」「復興オリンヒ゜ック」に狂奔するアヘ゛ 政治との対峙はますます激烈となっている。この 危機感と緊迫感のなかて゛、運動のヘ゛クトルを一致 させる「接着剤」の役割を担い、少して゛も「粘着力」 を発揮したい、それか゛“わか゛人生の終末“の願いて゛ ある。
日本科学者会議東京支部つうしん No.618(2019.4.10)

ジェンダーギャップ指数下位からの脱出は実現するのか
東京学芸大学名誉教授 大竹 美登利

 世界経済フォーラム(WEF)は各国のジェンダー不平等状況を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書」を毎年発表している。2018年版(2018年12月18日)によれば、日本は対象国149カ国中110位で、G7の中で圧倒的に最下位。日本では、労働所得、政治家・経営管理職、教授・専門職、高等教育(大学・大学院)、国会議員数の世界ランクがいずれも100位以下と、男女間格差が大きい。
 現政権は強い経済、子育て支援、社会保障の「新・三本の矢」を推進した一億総活躍社会の実現を掲げた。しかし、その対策として目立つのが、労働時間を無天井に延ばせる働き方改革であり、子育て支援や社会保障の有効な政策はなかなか出てこない。労働時間を青天井に延ばせる働き方改革では、ジェンダー格差指数を逆に広げてしまうことになると懸念する。
 国立女性教育会館では、平成30年1~2月に実施した「学校教員のキャリアと生活に関する調査」の報告書および結果の概要を2018年11月に公表した。この調査は男女平等が進んでいると思われている小学校中学校の教員の職場でも、管理職に占める女性の割合がきわめて低いことに注目し(教員に占める女性の割合は小学校62.5%、中学校42.5%、校長の女性比率は小学校19.3%、中学校6.6%、:2017年度学校基本調査)、その要因を探ることをめざした調査である。その結果から次のような状況を読み取ることができる。
 男女で大きく異なる回答は、①家事育児等の家庭生活の役割を担っている比率(女79.45,男3.5%)、②将来管理職になりたい人の比率(女性7%、男性29%)、③管理職になりたくない理由で特に「自分にはその力量が無い」(女68.9%、男51.5%)「責任が重くなると、自分の家庭の育児や介護等との両立が難しい」(女51.5%、男34.9%)「労働時間が増えると,自分の家庭の育児や介護との両立が難しい」(女48.4%、男38.1%)に差があった。
 一方、男女差は少ないが職階で大きな差があるのが在職場時間である。特に副校長・教頭が長く、平均低な1日の在職時間が12時間以上であるものが8割に近い(小学校女78.0%、男73.4%、中学校女83.0%、男81.1%)。
 このことから読み取れるのは、ワーク・ライフ・バランスはあきらめ、青天井の長時間労働を受け入れた人だけが管理職になっていく実態である。副校長・教頭を経ないと校長になれず、管理職への大きな障壁になる。女性が管理職になれない、ならないのは当然であろう。女性活躍社会の実現をめざすなら、長時間労働をまず第一に改善すべきである。
 報告書の最後では「今後は、学校における男女共同参画や男女教員のワーク・ライフ・バランスの推進に向け、得られた知見を活用していく予定です」と結ばれている。期待したいものである。
日本科学者会議東京支部つうしん No.617(2019.3.10)

日本科学者会議の活動に参加してみませんか
日本科学者会議東京支部

 1965年に創設された日本科学者会議は、人々がよりよく生きるために科学を発展させるという一点で団結している研究者・高度専門職業人の学際的な学術団体です。この基本目的に基づいて、創設以来多くの会員が自分の専門研究の枠を越えて、平和・地球環境・基本的人権の擁護等のために力を尽くしてきました。近年では、明文改憲の動きが顕著になるなかで九条科学者の会の発足に尽力し、また福島第一原発事故の発生に対していち早く原発の廃止を定期大会で決議し、自然エネルギー(再生可能エネルギー)を最優先する社会への転換を訴えてきました。このような科学者運動を通じて、私たちは人類の幸せを求める様々な分野の社会運動、市民運動と連帯の輪を広げてきました。
 いま大学や研究機関で研究・教育に携わっている多くの仲間が、学問の自由、大学の自治が根本から奪われつつあることに大きな危惧と憤りを感じています。「社会への貢献」という名目のもとに、政府と経済界による研究・教育分野への介入が公然と行われ、大学・研究機関に「効率化」の論理が持ち込まれ、短期的な成果を求めて有無を言わせぬトップダウンの組織運営・予算配分が強行されています。日本科学者会議は、この学術の現状を多くの国民に知ってもらい、市民・国民の求める科学と学術の発展とは何かを、国民とともに考え行動していきたいと考えています。日本科学者会議とともに科学と学術の現状を打開していきませんか。
 日本科学者会議に入会していただくと、居住地あるいは所属機関・組織の所在地の都道府県支部の会員となります。会員は月刊誌である『日本の科学者』を購読し、全国・支部が開催する様々な学術シンポジウムや講演会、研究会に自由に参加することができます。最大の支部である東京支部は、2年に一度の東京科学シンポジウム(2017年の第19回シンポでは23分科会を設置)をはじめ様々な研究会や定年退職会員に好評のフィールドワークや地域分会研究会が恒常的に開催されています。専門研究や大学・研究機関の枠を越えて、いろんな専門研究者や高度専門職業人、市民運動家と交流・連帯してみませんか。
 専門研究者としての道にいま踏みいろうとされている大学院生の皆さん、定年退職されこれから自由な研究・社会生活を謳歌しようとされている熟年研究者の皆さんの入会も心から訴えます。

日本科学者会議東京支部つうしん No.616(2019.2.10)

「働き方改革」とディーセントワークの実現
中央大学教授  松丸和夫

 昨年の通常国会の与野党対決法案の「働き方改革関連法」(以下「関連法」)が、この4月から一部を除いて全面実施となる。「関連法」には、労働時間の罰則付き上限規制のように、2014年11月施行の「過労死等防止対策推進法」の具体化ととれるものも含まれている。さらに、雇用形態の多様化への対応としての「同一労働同一賃金」の促進という労働者福祉、性別・雇用形態を超えた「均等待遇」に接近する可能性も示されている。
 しかし、同時に経済界からの長年の強い要請を受けてきた「ホワイトカラー・エグゼンプション」の延長線上にある「高度プロフェッショナル制度」の新規導入も含まれた。この「働き方改革」は、「働く人の視点に立った働き方改革」と政府側から言われてきた。しかし、それは、労働者や労働組合からの反発を避けるための巧みなマヌーバーであった。
 労働基準法それ自体は、労働者に対して主として使用者が遵守すべき労働条件の最低基準を定めるものであるから、労働者の権利、とりわけ「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」(同法第1条)の精神が優先されるものであった。もちろん、働く人自身や労働組合の意識改革や努力が求められることも明らかである。
 さて、過労死・過労自死等予防のための最重要課題である長時間労働の削減について若干の私見を述べる。今回の「関連法」の労働時間規制は、3階建てとも言うべき構造になっている。1階部分は、労働基準法32条による1日8時間、週40時間の上限規制である。違反した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金である。
 2階部分は、同法36条による労使協定(36協定)が締結された場合は、月45時間、年360時間という残業の上限規制である。これは、1998年の労働省告示第154号の規定の法律への格上げである。確かに、従来の「過労死ライン」の残業時間、月80~100時間を下回っている。36協定に特別条項規定が許され始めた2010年4月までは、労使協定を以てしても月45時間以上の残業は認められなかった。しかし、労働省告示には法的強制力も罰則もなかった。
 3階部分は、「特別条項付き36協定」が公認されてから、大企業を中心に月の残業時間が100時間を超えるような労使協定が拡大し、天井のない3階部分として大きな問題となってきた。過労死ラインをはるかに超える36協定が放任されたのである。「関連法」の実施により、4月以降は、「特別条項付き」の協定であっても、月平均60時間(年間720時間)、2~6か月平均で月80時間、単月で100時間が上限となり、青天井から「屋根付き」の3階部分に法令上は移行する。
 最も大事なことは、一日8時間、週40時間という労働基準法32条の労働時間の上限まで働けば、「人たるに値する」労働生活が実現するかどうかである。この規制から外されている医師、教員、建設、運転労働者等々への上限規制の拡大と併せて、すべての労働者に人間らしい労働(ディーセントワーク)を実現することが必要である。

日本科学者会議東京支部つうしん No.615(2019.1.10)

日本の高等教育政策のあり方を考える 一 私学の立場から ー
法政大学副学長 増田 正人

 昨年9月、「高等教育政策に関する私大連の見解」が発表された。これは私立大学の立場からなされたものであるが、財界や政府、国大協も日本の高等教育のあり方について、様々な提言を発表してきている。現在、日本の高等教育が危機的状況にある中で、私学経営に関わる者の立場から、大きな視点でこの問題を考えてみたい。
 図式的にやや単純化してみれば、政府や経済界の考え方は、1980年代以降に急激に変化したグローバル社会の下で、①高等教育機関は、知財を生み出す国際競争力の根源に変化し、いわば産業基盤そのものになった、②財政赤字の下で、限られた原資で成果を出さなければならない、③日本人だけでなく海外の優秀な若者も必要である、というものであろう。他方で高等教育機関の側から見れば、その使命は真理の探究にあり、研究成果は個別企業・産業の利益ではなく人類全体のためでなければならないし、教育の目的は自立した民主主義社会の担い手の形成である。
 この間の政府や財界の主張は、彼らのいらだちの反映である。国立大学をはじめとして大学改革を強行し、財政誘導を活用しつつ大学内の管理運営改革も実行してきたにもかかわらず、なかなか結果が出ていない、だからもっと過激に介入をしなければならないというものである。他方で、研究者の立場からみれば、現在の政策は教育研究基盤そのものを掘り崩し、結果的に若手研究者層への負担を拡大するばかりで、世界における日本の研究プレゼンスの低下を招き、それを強めればますます基盤が弱くなるというものである。の研究プレゼンスの低下を招き、それを強めればますます基盤が弱くなるというものである。の研究プレゼンスの低下を招き、それを強めればますます基盤が弱くなるというものである。
 どちらの立場が正しいのかは既に決着がついているが、問題は政府や経済界がそのイデオロギー(改革が不十分だから結果が出ない)に固執している点である。この問題は国の経済政策のあり方を巡る新自由主義の害悪と全く同じ構造になっている。
 しかし、政府や財界の誤りは誤りとして改められなければならないが、翻って各大学の対応は十分なものであっただろうか?私学でいえば、財政危機への対応として、学費値上げで学生負担を増やし、他方で、任期付教員を増やし、非常勤講師等への依存を強め、事務においても嘱託職員を増やし、業務委託を拡大してきた。いわば、弱者への負担を強めて対応してきたといってよいわけで、そのひずみは限界に達している。
 こうした高等教育政策の背景にある、研究成果を知的所有権として独占し、巨万の富を生み出すことを良しとするグローバル社会のあり方についての是非も問わなければならないだろう。一部のものではなく、大学でまじめに学び、社会に出ていく多くの若者たちが幸せになれる社会でなければならない。各大学が個別に対応するのではなく、学生や父母、大学内で働く全ての人々と協力し合いながら、世論喚起をしていく必要があろう。今年一年がそうした大きなうねりを起こす転機にしたいと思う。

日本科学者会議東京支部つうしん No.614(2018.12.10)

豪雨災害から学ぶべきものはなにか-水害リスクを考える-
公立大学法人・前橋工科大学名誉教授 土屋十圀

① ハザードマップは二次的、潜在的な水害リスク要因まで示せ
 2018年7月の西日本豪雨災害は九州から関西までの広い地域に河川災害、土砂災害をもたらし、いのちと生活を奪った。被害の直接的な要因は線状降水帯と呼ばれる豪雨であり、愛媛県肱川では河川の計画降雨量340 ㍉/2 日を超え、激しい豪雨を各地にもたらした。中でも広島県、岡山県、愛媛県の三県の死者は最も多く其々109 人、61 人、29 人であった。
 さて、新聞報道や現地調査からみると各地域の被害の特徴がわかる。広島県は土砂災害による死者が最も多い。岡山県は堤防決壊による氾濫による水死者、愛媛県は肱川のダム放流に伴う河川氾濫による死者および土砂災害の複合災害であった。広島県は2014 年の土砂災害を上回る大きな被害となり、風化花崗岩の地質・地形という災害リスク要因の大きい地域の宅地開発が指摘されていた。愛媛県肱川ではダムによる治水の限界を改めて示した。本文では岡山県真備町の被害から水害リスクを考える。
 岡山県の高梁川水系の小田川は上流が広島県から流れ、下流の支川を含む堤防決壊による氾濫で低平地の住宅、農業に甚大な被害を与えた。倉敷市真備町は山麓沿いの古い街で、新市街地の南側を流れる小田川は合流点から約8km まで国の管理であり2 ヶ所で決壊。県管理の末政川など3 支川は6 ヶ所で越水・決壊した。この現地調査に入り最初に驚いたことは、小田川の河川敷に高密度に繁茂した柳・ハリエンジュなどの高木が堤防や橋梁の高さまで達していたことである。国は川が滞留し流れにくいことを住民から指摘されていたこともあり復旧工事の中、慌ただしく樹林の一斉伐採をしていた。河道の管理が行われていないことが露呈した。河川敷の樹林管理は全国的な課題でもある。
 次に、各支川が天井川という地理的・地形的な特徴に注目した。これらの天井川は周辺の山麓の高い位置からほぼ直線で流下し小田川に直角で流入する。この天井川は主に農業利水のために創られた水路であり治水機能はない。ローマの水道といった施設に近い。天井川の河底は平地から2?4m は高く、堤防が決壊すれば家屋の被害は避けられない。この天井川と低平地は地形上、潜在的に洪水リスクが存在していたことになる。この支川の堤防決壊は小田川河川敷の樹林によるバックウォーターの影響によるものと考えられる。これらが溢水破堤の二次的な水害リスク要因になったことは間違いない。
 近年、自治体が示す洪水ハザードマップは河川計画規模の外力、即ち年超過確率降雨量(1/100?1/200)を対象に氾濫するハザードを予測している。小田川のそれは1/100, 225 ㍉/2日のハザードマップを作成していた。しかし、現在のハザードマップは危険要因(peril)である降雨規模とこれによる危険状態(hazard)の氾濫域と浸水深は示されているが、予測される被害(damage)とその脆弱性(vulnerability)の見積もりは不明で知らされていない。堤防や河川敷の管理及び天井川などの農業利水施設による二次的、潜在的な水害リスク要因は検討されていない。これらは正常に管理されていることを前提としているからである。普段の街づくりから地形・地質をはじめ災害リスク要因を見積もり、その脆弱性の低減に繋がる対策こそ重要である。都市化が進む真備町は下水道整備率40%と低い。旧来の農業利水システムの上に急激な市街化が脆弱性と水害リスク要因を高めていたと考えられる。
② 想定最大規模豪雨はバーチャルで無謀
 全国では水防法改正に伴い、想定最大規模豪雨(1/1000)を作為的に作成する手法でハザードマップを市民に示している。豪雨という危険要因を意図的に高くすれば更にハザードは増大するだけであり、ハードの対策は限界がある。そのため降雨規模1000 年に1 回の「レベル2」と呼ぶ計画は避難対策しかない。これは「想定最大豪雨」というより「仮想最大豪雨」を根拠に避難計画は作られ、東京では250 万人を3 日間で周辺地域に避難させるとしている(東京江東五区避難推進協議会)。国は平成29 年に避難訓練を義務化している。1000年に1 回の降雨確率はデータもないため、真に「確からしさ」を示すことにはならず、市民が理解し納得するかは疑問である。これは無謀な避難となるであろう。今回、愛媛県の避難情報に対して実際の避難実行者は0.32%であったと報道された。現在の河川計画レベルの1/100?1/200 確率までの治水対策、避難対策に対して確実に取り組むべきである。

日本科学者会議東京支部つうしん No.613(2018.11.10)

「新時代沖縄」はなにをめざすのか
明治学院大学国際平和研究所・助手 秋山 道宏圀

 2018年9月30日の沖縄県知事選当日、東京の下宿先でインターネット中継を視聴しながら固唾をのんで結果が出るのを待っていた。20時に投票箱のフタがしまるとすぐに、玉城デニー氏の当確報道が流れた。「お!」と嬉しい驚きをもってニュースを受けとめたが、各地の選挙結果や投票動向が具体的に明らかになるにつれ、その「驚き」は二つの意味のものであることが意識されてきた。
 一つは、早い段階で当確報道が出たことからも予想されたが、大差でのデニー氏勝利という結果への「驚き」であった(約8万票差)。というのも、今回、佐喜眞陣営には、自民・公明に維新が加わり、今年2月の名護市長選挙の路線を引き継いで辺野古問題を争点化せず、また、業界的なしめつけと期日前投票を徹底した組織戦がとりざたされていたからだ。
 しかし、それだけではなく、大差でのデニー氏勝利が、旧来の沖縄における政治・経済構造の変化をより極端に示した(進めた)のでは、という「驚き」があった。地元紙などが行った出口調査の結果では、デニー氏への無党派層や女性からの支持の多さに目が向けられがちだが、ここで強調したいのは自民や公明支持層の離反である(2割?3割)。公明と自民では、若干、その論理は異なるが、旧来的な締めつけ選挙(=動員)が機能しなかったことの表れであると言える。たとえば、候補者の選定で先行していた佐喜眞陣営であったが、経済界では、県経済団体連絡会議や県建設業協会などは早々に「推薦」を決めていたが、「組織対応なし」が前回知事選の3団体から5団体となり、また、県経営者協会の「推薦」決定が遅れるなど、組織戦を徹底しているとされながらも、足並みの乱れが出ていた。また、今回は「推薦」を決めた建設業界も、内部ではデニー氏の選対を支える県内大手の金秀グループ(呉屋氏)や、脱公共事業(≒脱基地受注)を明確に打ち出している照正組(照屋氏)を抱えており、2010年代に入ってから自民党支持は自明ではなくなってきていた。
 加えて、辺野古を争点にしないという表面上の自公維の路線とはうらはらに、さまざまな場面で中央政党が前面に出たことで、かえって辺野古への新基地建設を強行する現政権への不信をかったと言える(出口調査での政権批判の強さ)。こう考えたとき、沖縄差別や、基地と経済を天秤にかけさせる分断政治への反発から、県民として一丸となることを強調した翁長前知事の路線を引き継ぎつつ、「誰も置き去りにしない」ことを強調したデニー新県政は、これからどこに歩んでいくのだろうか(女性の「質」失言の佐喜眞氏に対し、デニー氏はLGBTの企画にも足を運んでいた)。それは、経済振興をちらつかせつつ、暴力的に新基地建設を進め、社会/運動を分断しようとする権力の行使を、明確に拒否するかたちの多様で、包摂的な社会/運動を構想していくことに他ならない。その変化は、着実に、しかもドラスティックに進んでいる。
日本科学者会議東京支部つうしん No.612(2018.10.10)

道徳の教科化に思う―憲法・道徳・政治の関係を問う―
法政大学名誉教授 佐貫 浩

(1)安倍内閣の下での新自由主義的社会改変は、今まで日本社会に蓄積されてきた人権と幸福追求権の一斉切り下げを、止めどのない崩壊というほどに、推進している。権力が社会的に合意されてきた道徳性の規範をこれほどにあからさまに放棄し、日本が競争に生き残るにはこれしかないと居直る事態が訪れている。今日の道徳性の危機はここにある。社会の道徳性という点から見れば歴史的に一番恐ろしいのは、言うまでもなく権力の腐敗、独裁、権力による人間の尊厳の否定である。これを批判し、阻止し、人権と民主主義を維持しようとする意思と力量にこそ、その社会の道徳性の水準が刻み込まれている。
(2)考えてみれば、現代社会の正義と人間的道徳の水準を創造・維持しているのは政治にほかならない。人類は、長い間、命をも奪う権力政治のなかを、また戦争としての政治の中を生きてきた。そこでは、道徳とは、この支配秩序への忠誠を強制する行動規範であった。しかし、市民革命を経てようやく、人権と平等と平和の方法としての政治を前面に押し出し、その正義と道徳性の社会的合意の到達点を憲法的正義として掲げるに至った。
(3)そう考えてみれば、道徳性は、市民革命を経ることにおいて根本的にその質を転換したのである。だから、日本国憲法の下では、政治的主体として、社会の正義規範を創造・発展させていく主権者になることこそが、道徳性の主体になることであるという論理が成立したのである。
このことから考えるならば、真に主体的なシチズンシップの教育としてこそ、道徳性の教育は取り組まれなければならない。
道徳の「教科化」は、この社会の歴史的発展と道徳性を切り離し、現代の新自由主義社会の競争と自己責任の檻に個人を閉じ込めるための規範として、徳目としての道徳を教え込み、それに従った行動訓練をも押しつけようとしている。それは権力支配とグローバル資本の人間搾取を受容させる人格への支配と統治として、展開されつつある。
(4)しかし、新自由主義はその支配の論理を、格差・貧困・差別の拡大によって人と人とが競争し、人と人とが互いに支配と被支配の位置を争奪し合う横の関係へと浸透させ、人々を、子どもをその網の目に囚え、生きられない日常を生み出し、ストレス、敵対、心の閉塞、孤独や孤立をも蔓延させる。この事態に対して、私たちの目指す道徳性の教育は、個の尊厳、ひとり一人のかけがえのない人間としての思いに共感しあえる横の関係を編み直す役割をも背負わなければならない。すなわち横の関係における人間の尊厳の論理の再構築である。
人間を否定する社会の論理に対して、人間のかけがえのない存在価値の再発見のための教育と学びを、現代への抵抗と変革に向けて立ち上げることができるかどうかが、私たちの道徳教育に問われている。

日本科学者会議東京支部つうしん No.611(2018.9.10)

「統合イノベーション戦略」についてー 日本の科学・技術、学術を変質する実行計画
特許庁分会 野村 康秀

 統合イノベーション戦略(82頁、以下「統合戦略」)が6月15日閣議決定されました。松山科学技術担当相は、「ソサエティ5.0の実現のため、『世界水準の目標』、『論理的道筋』、『時間軸』を示し、基礎研究から社会実装・国際展開まで、『一気通貫』で取組を推進する…重要事項として、例えば大学改革や若手研究者の活躍促進」等を盛り込んだ、と説明しました。安倍首相は、「この戦略を内閣の成長戦略のど真ん中に位置付け」ると述べました(6月14日、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI))。翌7月、官房長官を議長に全閣僚で構成する「統合イノベーション戦略推進会議」が設置されました。CSTIの外、IT、知財、健康・医療、宇宙、海洋、地理空間情報活用の「司令塔」を、横断的かつ実質的に調整する官邸主導の「統合」体制の構築です。
 統合戦略で目立つキーワードは「大学」です(本文中に304回登場)。統合戦略は、「グローバル競争に打ち勝ち、イノベーションによる持続的成長を実現するためには、破壊的ともいえる画期的な科学技術イノベーションを生み出す場である大学に活力を与えることが必要」として、「大学改革等によるイノベーション・エコシステムの創出」等を見出し項目に掲げます。成長戦略の基本方針「未来投資戦略2018」、「骨太方針2018」や「人づくり革命基本構想」でも、大学改革の見出しがあります。大学は成長戦略の攻撃の的になります。
 日本の科学技術政策は、科学技術基本計画 (1996年度以来5年毎に策定)と、2013年度以来毎年の科学技術イノベーション総合戦略(2018年度は策定なし)に基づき進められます。総合戦略 2017は、第5期基本計画(2016年1月、16~20年度対象)を踏まえ、「官民研究開発投資拡大」のため、予算編成「改革」やエビデンスによる効果的投資拡大を決めました。  統合戦略は、名称に「科学技術」がないことで推察されるように、「基礎研究」「学術研究」は、言及も僅か(本文中8回、3回)で、「推進」の対象でもありません。統合戦略は、総合戦略2017による科学技術政策を、イノベーション実現の観点から政府全体を監視し実行を迫り、Society5.0実現を図るものです。
 統合戦略は、「特に取組を強化すべき主要分野」の一つに「安全・安心」を明示しました。「技術的優越」、「安全・安心の観点から伸ばすべき分野や補うべき分野、適切に管理すべき分野を明確化」、「将来の活用が期待される科学技術候補や適切に管理すべき分野を早期に発掘」、「大学、企業等が組織として科学技術情報を守るための適切な対応」等、科学技術の分野に軍事的観点を持ち込みます。
 統合イノベーション戦略は、目先を変えた科学技術政策の一文書ではありません。大学を産学官連携に取込み、世界規模で利潤極大化を目指す大企業を後押しするイノベーション政策を(米国主導の軍事秩序の枠内)、政府財界総掛かりで「統合」的に推進する実行計画です。学習と批判、進捗の監視が必要です。

日本科学者会議東京支部つうしん No.610(2018.8.10)

私の8月15日 いま若い仲間たちに期待すること
東京都立大学名誉教授(哲学)  秋間 実

 1945年のあの日、旧制一高の1年生として正午から講堂で、たまたま安倍能成校長のすぐそばで、天皇のラジオ放送を聴きました。2~3日まえに、政府高官を父にもつ或る上級生からポツダム宣言受諾という政府の意向をしらされていましたので、ショックは受けませんでした。ただ、安倍さんが涙を流しておられる情景に接して、敗戦国民としてこの先にいろいろな苦難は避けられないのだろうな、という思いは骨身にこたえました。
 あれから73年、8・15がまためぐってきます。いま、敗戦後最悪最低のアベ政権による悪法のごり押し・公文書の改ざん隠ぺい・うその答弁など、善良な市民をなめきった言語に絶する悪行の数かずは、目にあまります。
 とは言え、アベを退陣に追い込んで内政をも外交をも抜本的に変えようと目ざす主権者各層の創意あふれる多彩なねばりづよい運動も、日ごと週ごと月ごとに強まり広まってきています。1965年12月4日に創立された日本科学者会議--自然科学者・技術者・人文社会科学者を結集したこの比類のない組織も、この戦い(と言えましょう)の一翼を担うものです。私も創立以来の会員ではありますが、いまや高齢の身、思うように活動することが残念ながらできなくなっています。それだけに、さしあたっては東京支部の若い会員たち--さまざまな困難をかかえながらそれぞれの分野なり部署なりでがんばっておられる若い仲間たち--に、熱い期待を寄せずにはいられません。
 どうか、当面のさまざまな理論上また実践上の諸課題とひきつづき向きあって、豊かな経験と高い見識とを具えた先輩たちまた同憂の若手たちと幅広く共同・交流するなかで、いっそう視野を広げ(これは狭い専攻分野に閉じこもっていては得られない、JSAならではのメリットですよね)専門家としての力量をますます高めることに努めてください。と同時に、しかし、5月の支部大会で米田 貢事務局長がいみじくも表明された確信:大規模支部である「東京支部が光り輝き続けることが、科学者会議[全体]の新たな前進につながる」のだとする確信(『支部つうしん』608号)を共有して、仲間をふやして支部を大きくしいっそう活性化させる活動にも、意識して取り組んでくださるように!
 以上、支部参与の任にもある老生の心からの期待を申し述べました。
      (7月20日)

日本科学者会議東京支部つうしん No.609(2018.7.10)

「明治150年」と憲法問題
早稲田大学教授(日本近代史) 大日方 純夫 

  一昨年(2016年)10月、政府は内閣官房に「明治150年」関連施策推進室を設置し、以来、「明治150年」キャンペーンを展開している。施策の柱は、①「明治以降の歩みを次世代に遺す施策」、②「明治の精神に学び、さらに飛躍する国へ向けた施策」、③「明治150年に向けた機運を高めていく施策」の3つとなっている。  一昨年(2016年)10月、政府は内閣官房に「明治150年」関連施策推進室を設置し、以来、「明治150年」キャンペーンを展開している。施策の柱は、①「明治以降の歩みを次世代に遺す施策」、②「明治の精神に学び、さらに飛躍する国へ向けた施策」、③「明治150年に向けた機運を高めていく施策」の3つとなっている。
 推進される施策は、「明治期全般の様々な取組や人々の活躍などを対象としたもの」だというが、3000件(2018年3月末の集計)を越える施策には、日清戦争も日露戦争もなく、台湾の植民地化も、朝鮮の植民地化もない。国内で噴出した様々な矛盾も消去されている。浮かび上がるのは、「戦争」と「アジア」と「民衆」を消去した「明治」である。リアルな「明治」の実相とはほど遠く、「精神」ばかりが称揚されている。
 安倍首相は、今年元旦の「年頭所感」で、「150年前、明治日本の新たな国創りは、植民地支配の波がアジアに押し寄せる、その大きな危機感と共に、スタート」したとして、「あらゆる日本人」が「力を結集」して「国難」を克服したと主張した。彼が言う「一億総活躍」社会を創り上げるため、「明治」を最大限に活用しようというのである。また、施政方針演説でも同様なことを語って、改憲論議によって「新たな国創り」を進めようと呼びかけた。
 ちょうど50年前、安倍首相の叔父、佐藤栄作首相のもとで「明治100年」記念事業が推進された。それは、第一に、「明治」を一面的に美化するという点で、第二に、天皇主権の大日本帝国憲法のもと、「戦争」によって対外膨張をはかった戦前と、国民主権の日本国憲法のもと、「平和」と「人権」を掲げた戦後を一括してとらえるという点で、第三に、歴史を活用してナショナリズムと国威発揚をはかろうとする点で、「明治150年」と共通している。 「明治100年」の際には、天皇への敬愛と愛国心、伝統と文化の尊重などを強調する「期待される人間像」が発表され、「建国記念の日」によって「紀元節」が復活した。「明治150年」は、愛国心や伝統・文化(「日本の良さ」)を強調する道徳教育の教科化と結びついている。さらに、日本国憲法が発布された「文化の日」(明治期の「天長節」、昭和戦前期の「明治節」)を、「明治を記念するに相応しい」日にしようとする「明治の日」制定運動が展開されている。「明治節」復活の目論見である。
 しかし、「明治100年」と「明治150年」の間には大きな変化もある。国際的には「冷戦」が崩壊し、国内的には高度経済成長が終焉した。こうしたなかで、保守的統合(経済による統合)から反動的統合(政治による支配)へと統合路線も変化し、解釈改憲路線にかわって明文改憲路線が台頭している。「明治100年」とは異なって、「明治150年」は明文改憲の動きが顕著となるなかで展開されている。
 「明治」を一面的に美化し、戦前・戦後を一括してとらえ、国威発揚をはかることがもつ今日的な意味(「明治100年」とは異なる機能)に注意したい。「明治」(さらに戦前)が大日本帝国憲法とともにあったことを忘れてはならない。  推進される施策は、「明治期全般の様々な取組や人々の活躍などを対象としたもの」だというが、3000件(2018年3月末の集計)を越える施策には、日清戦争も日露戦争もなく、台湾の植民地化も、朝鮮の植民地化もない。国内で噴出した様々な矛盾も消去されている。浮かび上がるのは、「戦争」と「アジア」と「民衆」を消去した「明治」である。リアルな「明治」の実相とはほど遠く、「精神」ばかりが称揚されている。
 安倍首相は、今年元旦の「年頭所感」で、「150年前、明治日本の新たな国創りは、植民地支配の波がアジアに押し寄せる、その大きな危機感と共に、スタート」したとして、「あらゆる日本人」が「力を結集」して「国難」を克服したと主張した。彼が言う「一億総活躍」社会を創り上げるため、「明治」を最大限に活用しようというのである。また、施政方針演説でも同様なことを語って、改憲論議によって「新たな国創り」を進めようと呼びかけた。
 ちょうど50年前、安倍首相の叔父、佐藤栄作首相のもとで「明治100年」記念事業が推進された。それは、第一に、「明治」を一面的に美化するという点で、第二に、天皇主権の大日本帝国憲法のもと、「戦争」によって対外膨張をはかった戦前と、国民主権の日本国憲法のもと、「平和」と「人権」を掲げた戦後を一括してとらえるという点で、第三に、歴史を活用してナショナリズムと国威発揚をはかろうとする点で、「明治150年」と共通している。 「明治100年」の際には、天皇への敬愛と愛国心、伝統と文化の尊重などを強調する「期待される人間像」が発表され、「建国記念の日」によって「紀元節」が復活した。「明治150年」は、愛国心や伝統・文化(「日本の良さ」)を強調する道徳教育の教科化と結びついている。さらに、日本国憲法が発布された「文化の日」(明治期の「天長節」、昭和戦前期の「明治節」)を、「明治を記念するに相応しい」日にしようとする「明治の日」制定運動が展開されている。「明治節」復活の目論見である。
 しかし、「明治100年」と「明治150年」の間には大きな変化もある。国際的には「冷戦」が崩壊し、国内的には高度経済成長が終焉した。こうしたなかで、保守的統合(経済による統合)から反動的統合(政治による支配)へと統合路線も変化し、解釈改憲路線にかわって明文改憲路線が台頭している。「明治100年」とは異なって、「明治150年」は明文改憲の動きが顕著となるなかで展開されている。
 「明治」を一面的に美化し、戦前・戦後を一括してとらえ、国威発揚をはかることがもつ今日的な意味(「明治100年」とは異なる機能)に注意したい。「明治」(さらに戦前)が大日本帝国憲法とともにあったことを忘れてはならない。
日本科学者会議東京支部つうしん No.607(2018.6.10)

「働き方改革」法案の撤回を
民間企業技術者・研究者問題委員会 委員 酒井 士朗

安倍政権と自民・公明・維新・希望の党が「働き方」改革法案の成立をゴリ押ししている。そもそもすべての労働団体と過労死遺族の会が過労死を促進するとして反対している法案を「働き方改革」などと偽って強行するなど道理がなく絶対に許されない。 JSA民間企業技術者・研究者問題委員会も、研究者・技術者の過労死・自死の根絶を課題として、東北大学の若手研究者やIT企業のSEプログラマー、田辺製薬契約研究員、病院看護士の過労自死問題などを取りあげ、事実解明と根絶のための課題の検討、過労死根絶運動への連帯などを進めてきた。これらに共通することは、過大なノルマを与えたり、慣れない仕事をやらせたり、多数の仕事を同時に与えるなど加重な「働かせ方」をさせながら労働時間も健康状態の把握も曖昧で健康を守る対応がなされていないことだ。従って労働基準法や労働安全衛生法が定める労働時間の制限と実態把握、安全配慮義務を雇用者にまもらせる雇用者の「働かせ方」の規制を具体的に強化する運動が進められてきた。 通常の時間外労働の上限を「週45時間、年間360時間」とする労働省告示や「月80時間は過労死ライン」とした過労死認定基準などは、こうした運動を反映したものだ。「働き方改革」法案は、過労死ラインを超える「月100時間」の時間外労働を合法化、労働時間法制の規制を受けない「高度プロフェッショナル制度」の導入により、長年の運動で実現してきた「働かせ方」規制の廃止を狙った資本の横暴であり、絶対に許せません。 「同一労働・同一賃金」のうたい文句も、実際には「同一労働・同一賃金」の原則は法案に書かれず、「合理的な理由」があれば格差が「合法」となる。非正規雇用をここまで増やしたのは、企業が安上がりの労働力として利用、都合に合わせて雇用や解雇するためだ。地域限定の仕事、繁忙期だけの仕事、メインの仕事でないなどを口実に賃金格差が温存される。 法案が明記する「多様な働き方」の拡大は重大だ。「地域限定社員」「仕事限定社員」さらにフリーランスの名で「個人事業者」の活用を喧伝する。いずれも「雇用責任」を契約で限定して「地域限定」では事業所が地域から撤退すれば解雇、「仕事限定」では「仕事が他の事業所に移れば、住居移転や遠隔地通勤を迫られる」。さらに「個人事業者」では企業は「雇用責任はない」と主張する。電機産業やNTTのリストラでは、生活破壊に猛威を発揮した制度だ。 「働き方改革」の狙いは、「雇用の流動化」にある。大学や企業の研究者は他の労働者に先駆けて1986年「研究交流促進法」で流動化させられ、また任期付き雇用の害悪を肌で実感している。研究者・技術者の地位や生活、労働条件は、国民のそれと無関係に保障されるものではない。いま起きている事態をしっかりと認識し連帯を強めて反撃しましょう。   (武蔵野通研分会 酒井 士朗)
日本科学者会議東京支部つうしん No.606(2018.5.10)

森友問題と公文書管理
中央大学教授(憲法・フランス公法) 植野 妙実子

 森友問題、加計問題、陸自日報、厚労省の「是正勧告」や働き方改革に関わるずさんなデータ、文科省の講演内容調査、財務省次官のセクハラ等、不祥事や不透明な事柄が後を絶たない。一体どうなっているのかと思うが、あきれるのは相変わらず平然と内閣が何事もなかったかのように、居座り続けていることである。
 国民主権に基づく民主主義は、国民の民意を中心として、政治が動く。民意は、選挙を通して、あるいは請願、言論やデモなどによっても表明される。重要なのはそうした政治的表明が行われる場合に、判断をするための材料が必要ということである。その材料を提供するのが、一般的にはまず報道であり、「報道の自由は、国民の知る権利に奉仕する」という位置付けになっている。次に、情報公開や公文書公開が国民の政治に関する判断を助ける制度として不可欠となる。どのような政治的事項がどのように決まっていくのか、国民はその目的やプロセス、適切性を知ることができる。今日では国家機能の増大化がみられ、それにともない、国家への情報の集中もみられる。国民が、必要とする情報にすぐにアクセスすることができ、それをもとに自由に意見や批判を述べる、判断を下すことができるようでなければならない。憲法21条1項の表現の自由の規定に、政府情報開示請求権まで直接認められるかについては議論もあるが、それがなければ、多くの疑問が闇の中に葬り去られてしまうことになる。そうした判断の材料の一つである公文書は重要であり、これが書き換えられることは民主主義の根幹を揺るがす問題である。森友問題においてはその判断材料である文書が改ざんされた。誰が、いつ、どのような目的で、どこからの指示で、あるいは指示はないのに「忖度して」、文書の改ざんを行ったか、未だに明らかになっていない。
 公文書の重要性が認識されたのは1999年である。同年5月、いわゆる情報公開法が成立、2001年4月から施行された。2000年、行政文書の管理方策に関するガイドライン(各省申し合わせ)も作られている。情報公開法の目的は、国民主権の理念にのっとり、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることで、公正で民主的な行政の推進に資することである。対象はすべての行政機関の組織的に用いられる行政文書である。これに呼応する形でいわゆる公文書管理法が2009年に成立した。その目的は、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政が適正かつ効率的に運営されるようにすること、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること、である。すなわち双方の法律はともに行政が説明責任を果たすことを要求している。森友問題の疑問が解明されない状況は、国民不在の政治が行われている状況なのである。国民を中心とする民主主義はどのようにあるべきかを基本に立ち返って考える必要がある。

日本科学者会議東京支部つうしん No.606(2018.4.10)

今こそ「水に落ちた安倍は打て」― 安倍政権打倒に向けての追撃戦が再開された
法政大学名誉教授  五十嵐 仁

 「こんなはずじゃなかった」と、安倍首相は思っているはずです。昨年の夏、支持率が急落して都議選で歴史的な大敗北に陥った危機を、突然の解散・総選挙と野党勢力の分断で乗り切ってきたのですから。今度こそ、改憲実現の時と意気込んで臨んだ通常国会でした。それが、これほど追い込まれてしまうとは夢にも思わなかったにちがいありません。
 通常国会開会の日、安倍首相は自民党両院議員総会で「我が党は結党以来、憲法改正を党是として掲げ、長い間議論を重ねてきた」と述べ、「いよいよ実現する時を迎えている。責任を果たしていこう」とハッパをかけました。「一強体制」を背景に、朝鮮半島危機を利用しながら改憲を実現しようと目論んでいたのです。
 しかし、その後の内外情勢の急変によって、この思惑は音を立ててくずれつつあります。南北会談や米朝会談が決まって北朝鮮と中国との首脳会談が行われるなど、朝鮮半島情勢は緊張緩和と非核化、和解と協力の方向にかじを切ろうとしています。
 この間、安倍政権は蚊帳の外に置かれたばかりか、頼りにしていたトランプ米大統領によって鉄鋼・アルミの輸入制限措置を課され、「彼らはいつもほほ笑みを浮かべている。その微笑の裏には、“こんなに長いこと、米国を利用できたことが信じられない”との思いがあるだろう。しかし、そのような時代はもう終わりだ」と名指しで批判される始末です。蜜月は幕を閉じ、外交的な孤立が深まりました。
 内政でも、「働き方改革国会」と意気込んで臨んだものの裁量労働に関する調査データの不備が判明し、謝罪して関連部分を削除せざるを得なくなっています。関連法案の国会への提出は4月にずれ込みました。
 昨年から大きな問題になってきた森友学園への国有地の格安売却についても、決裁文書の改ざんが発覚しました。健全な民主主義の基礎となり、国民の知る権利を保障するべき公文書が改ざんされ、それに基づいて1年以上も国会での審議が行われてきたという前代未聞の事態が生じていたのです。
 森友学園事件は、籠池前理事長の国粋主義的な教育理念に共鳴した「安倍夫妻と不愉快な仲間たち」の関与と忖度によって小学校用地の取得に便宜が図られ、それを隠蔽するために公文書が改ざんされたということではないでしょうか。
 安倍「一強体制」による「毒」が官僚機構にも及び、政治と行政の私物化によって国政が歪められたということにほかなりません。戦後最低で最悪、異常で劣悪な政権によって、国政の土台がぶっ壊されてしまいました。これを立て直して立憲主義と民主主義を回復し、憲法を守り憲法に基づく政治を再生しなければなりません。
 そのためには、安倍政権を打倒することが必要です。昨年の夏、「水に落ちた安倍は打て」と書いて、私は政治危機に陥った安倍政権への追撃を呼びかけました。いま再び、政治危機に陥った安倍政権への追撃を、次のように呼びかけたいと思います。
今こそ「水に落ちた安倍は打て」と。